
平均寿命が長くなり、人生100年時代ともいわれる昨今は、人々の健康に対する意識が高まっている。そうした中、健康測定機器の販売やレンタル事業を通じて、病気の予防や健康づくりを支援しているのが、株式会社ウエルアップだ。
ヘルスケア関連事業を立ち上げるまでの経緯や、地域密着型の健康ステーション構想などについて、創業者であり代表取締役の木村孝一氏にうかがった。
現在の事業にも通じるベンチャー企業での経験
ーー木村社長のご経歴についてお聞かせください。
木村孝一:
大学卒業後は大手事務機器専門商社に入社しました。営業ノルマの厳しい環境でしたが、営業力には自信があり、会社に貢献できている自負もありました。ただ、3年ほど経つと、担当のエリアの中だけで営業することに物足りなさを感じるようになりました。
そんなときに、大学時代の先輩が起業すると耳にしたのです。そこで、私も会社経営に参画してみたいと思い、会社を辞めて、先輩とヘルスケア関連のベンチャー企業を立ち上げました。
ーー立ち上げた事業は初めから順調に進んだのですか。
木村孝一:
行き当たりばったりで始めてしまったので、最初のうちはうまくいきませんでした。当時は知人の紹介で全く異業種の省電設備の飛び込み営業などもしながら何とか生計を立てていました。
その後、転機となったのが、体脂肪測定器との出会いです。今でこそ当たり前に使われていますが、当時は体脂肪率自体がほとんど認知されていませんでした。当時、体脂肪率を割り出す際は、キャリパーという機器で二の腕の脂肪部分をつまんでその厚みを計測し、計算式に当てはめるという極めてアナログな方法だったのです。
そんな中、知り合いから「身体の電気抵抗値から体脂肪を測定できる米国製の体脂肪測定器の販売をしてみないか」という話を受けます。まだ国内には無い機器でしたし、フィットネスクラブなどで需要は相当あるだろうと思い、早速片っ端から営業をかけましたが、1台300万円近くすることもあり、思うように売れませんでした。
また、測定の基準となるデータが欧米人の骨格や体型に基づいているため、日本人には適していなかったのです。しかし、それからしばらくして、日本人の体型データを基に開発された体脂肪測定器が登場します。この体脂肪測定器の販売を始めたところ、徐々に導入してくれる施設が増え、ようやく事業が軌道に乗りました。
レンタル事業を始めた経緯と急成長の起爆剤となった社会背景
ーーウエルアップを設立した背景と、現在の事業を始めた経緯を教えてください。
木村孝一:
事業は軌道に乗ったものの、共同経営者と方針が合わなくなり、会社を離れる決断をしました。そのときに新たに立ち上げたのが、今の会社です。当時取り扱っていた体脂肪計や血管年齢計など、購入の前に試してみたいという要望が多々ありまして、デモ貸していたのですが、購入まで結びつかないケースが多くありました。
そこで、有料のレンタル事業を始めたところ、次々と依頼をいただけるようになったのです。その後、脳年齢計や骨密度計など、取り扱い機器がどんどん増えていきました。
そして大きな転機となったのが、2000年に厚労省が示した「健康日本21」という国民健康づくり運動とそれを支える形で制定された健康増進法です。社会保障費の増大を背景に、国をあげて健康増進の機運が高まりはじめました。そして2013年に安倍内閣で示された「日本再興戦略」の中で、国民の健康寿命延伸の実現ためヘルスケア産業を成長分野として、経産省をはじめ国全体が予防や健康管理分野に力を入れるようになりました。
これにより人々の健康意識が更に高まり、ヘルスケア関連機器を扱う弊社も恩恵を受け、業績が一気に伸びていったのです。
健康機器のレンタル事業とトレーニングや高齢者向け施設運営の両軸で事業を展開

ーー現在の事業内容についてお聞かせください。
木村孝一:
メイン事業は、健康測定機器やトレーニング機器の販売とレンタル事業です。その他にも、企業や自治体向けに専門スタッフを派遣し、健康測定業務や運動指導、栄養指導を行うイベント事業も展開しています。
また、2019年に子会社化した、フィットネス関連事業や介護施設事業を展開していた株式会社東京ネバーランドの事業を引き継ぎ、トレーニングジムや機能訓練型デイサービスなどリアル店舗の運営も行っています。
ーー取引先としてはどのような企業が多いのでしょうか。
木村孝一:
官公庁から地方自治体、大手企業、ドラッグストアチェーンなど2万以上のクライアント様と幅広くお取引いただいております。ドラッグストアなどリテール企業様では、全国の約1,000カ所の店舗に健康チェックコーナーを展開させていただいております。その他にも、コンビニチェーンや鉄道会社、百貨店、ガソリンスタンドを運営する企業などからもコラボのお話をいただいております。
弊社のような事業モデルを展開している事業者が少ないため、こちらから積極的な営業をせずともお問い合わせをいただいている状況で、大変ありがたいです。
国民の健康寿命延伸を目的とした事業構想について
ーー最後に今後の展望をお聞かせください。
木村孝一:
弊社の理念でもある「セルフメディケーションの推進」に一層注力していきたいですね。その一環として、地域密着型の健康ステーション構想があります。
日本では、日常的にトレーニングジムに通っている人が、人口の3.33%に留まっているそうです。そのため、運動が苦手な方でも、買い物のついでや仕事帰りに気軽に立ち寄れるような、コンデショニング施設を展開したいと構想を練っています。
そこでは、弊社の健康機器で測定した血圧や体組成、血管年齢や骨密度などの健康データを基に、常駐スタッフに相談できるようにしたいと考えています。こうした自分の健康について考え、行動変容のきっかけとなる施設を全国に広め、インフラ化するのが私の目標です。
ここでポイントとなるのが、無人ではなくスタッフが常駐し、専門家に相談もできるという点です。特に、気軽に立ち寄れる場所が少ない地方の高齢の方々向けに、健康チェックや軽い運動をしつつ、憩いの場としても活用していただきたいと思っています。
このようにコミュニティー機能も兼ね備えた、人の温かみを感じられる場にしたいですね。これからも「自分の健康は自分で守る」というセルフメディケーション意識を広め、皆さんの生活と健康を支援する企業を目指してまいります。
編集後記
知り合いと起業したことがきっかけとなり、ヘルスケア事業に注力してきた木村社長。「自分で自分の健康を守ることを当たり前にしたい」という言葉からも、事業を通して国民の健康意識を向上させたいという思いが伝わってきた。株式会社ウエルアップは人々が最期まで健康に過ごせるよう、今後も健康管理の大切さを世の中に広めていくだろう。

木村孝一/1962年東京都生まれ。1985年に青山学院大学法学部卒業後、株式会社大塚商会に入社。1989年ヘルスケア関連ベンチャーの起業に取締役として参画。同社退社後、1995年に有限会社ウエルアップを設立。