※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

クラウドサービス、AI、IoTなどのデジタル技術の発展により、ITビジネスを取り巻く環境は目まぐるしいスピードで変化している。そんな中、DXの波に乗り、新しいソリューションやサービスを次々と生み出すベンチャー企業が注目を集めている。

SI(※)ビジネスからスタートし、独自のプロダクトを開発・販売する会社へと転換したM-SOLUTIONS株式会社は、大手企業だけではなく、自治体向けのDXソリューションにも事業領域を拡大している。創業から20年、幾多の困難を乗り越え、事業転換を成し遂げてきたのか。代表取締役社長CEOの植草学氏にお話をうかがった。

(※)SI(システムインテグレーター):企業の情報システム構築を専門的に請け負うITサービスの会社。

新卒入社からジョイントベンチャーを設立

ーーまずは社長の経歴についてお聞かせいただけますか。

植草学:
私は、新卒でSI企業に技術職として入社しました。その会社が、2000年に親会社のSBテクノロジー株式会社とジョイントベンチャーで創業したのがM-SOLUTIONSです。

転籍後はソフトバンクグループの子会社やYahoo! BBサービスの立ち上げ支援など、さまざまな経験を積み、2019年に代表に就任しました。2010年には、孫正義後継者発掘・育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」に1期生として参加し、孫氏の教えを活かして、新しいことにもチャレンジしながら日々の業務に取り組んでいます。

ローコードを活用したSI事業と、赤字を乗り越えたプロダクト事業

ーー貴社の事業概要と強みについて教えてください。

植草学:
弊社の事業は大きく3つに分かれています。主力事業の約7割を占めるのがSI事業で、ローコードによるアプリケーション開発を主軸にしている点が大きな特徴です。

従来のスクラッチ開発(ソフトウェアやコンピュータシステムをゼロの状態から作り出す開発手法)では、お客様へのヒアリング後に設計書を作成し、確認・承認を経てから開発を進める流れでしたが、ローコードを活用することで、画面イメージを迅速に共有し、定義書は別途設計するスタイルへと変更することができました。

サイボウズのプラットフォーム「kintone(キントーン)」を使用すれば、ある程度は簡単にアプリを作成できますが、適切な設計や運用のノウハウがなければ、その真価を発揮することはできません。私たちは2014年の初期段階からkintoneに注力し、サイボウズとも連携しながらノウハウを蓄積してきた点が大きな強みとなっています。

一方で、kintoneが苦手とするデータ量の多い案件などでは、他のツールも組み合わせることで、お客様にとって最適なソリューションを提案しています。柔軟なツール選定と長年のノウハウに基づいた運用支援が、弊社の競争力の高さだといえるでしょう。

2つ目はプロダクト事業です。オリジナル製品を開発したいという思いから始めましたが、立ち上げ当初は販売方法すら手探りの状態で、多くの困難に直面しました。特にiPadを使った受付システムは市場の理解が追いつかず、一社一社訪問して地道な営業活動を行う必要がありました。すべてアナログ対応だったため、今以上に困難を感じていたことをよく覚えています。

現在では、kintoneと連携するサービスやAI対応プラグインなどを多数提供しており、iPad受付システムも企業の受付業務にとどまらず、工場の守衛業務や小規模店舗向けサービスなど、多様なニーズに応えるラインアップへと成長しました。おかげさまでプロダクト事業は、弊社の売上全体の3割を占める重要な柱となっています。

3つ目は、公共事業としてスタートしたばかりの地方自治体向けDXプラットフォーム支援事業です。介護や福祉の申請や管理といった多岐にわたる業務を、限られた人員で対応する自治体職員の業務効率化を支援するものです。

具体的には、kintoneをベースとしたアプリケーションをパッケージ化し、使いやすいセミオーダー型で提供しています。現在の導入自治体数は4つですが、地方行政の効率化を図ることで国政への貢献にもつながる重要な事業だと考えています。今後はさらに導入自治体を増やし、社会的インパクトを拡大させていきたいと思っています。

DXソリューションで地方自治体にも貢献、10年後を見据えた事業拡大への意欲

ーー今後の事業展開や目標などについてお聞かせください。

植草学:
5年後、10年後は本当に大きな転換期を迎えると思います。AIの台頭など、まだ先が見えない変化が予想されますが、目の前の目標として、まずは売上高10億円以上を短期的に目指します。長期的にはプロダクトを多くのユーザーに使っていただくことで、さらに成長していきたいと考えています。

ただ、SI事業というのは労働集約型のビジネスモデルになりがちです。そのため、お客様との直接のコミュニケーションを大切にしながら、技術力を高めて効率化を図る必要があると感じています。一方でプロダクト事業は、より多くの方に使っていただくことで売上や利益を伸ばしていけるモデルですから、公共事業を含め成長を加速させたいですね。

新製品に関しては、AIに注力していきます。毎週のようにアップデートされる分野であるため、リアルタイムで情報をキャッチアップし、製品につなげていく予定です。DXにおいては、お客様ごとに最終的な目標が異なるため、ツールの導入はあくまで手段であり、目的そのものではありません。私たちは、常に最終的な成果を見据え、お客様の課題に最適な解決策を提案できるよう努めていく決意です。

編集後記

「がむしゃらに続けて頑張れば社長になれる」と語る植草社長の言葉が印象的だった。時流の最先端を走りながら、会社の成長とともに責任あるポジションへと着実に歩んできたキャリアは、その言葉を証明している。

企業だけではなく、自治体向けのDX支援をしていることから、産官連携による新たなデジタルインフラの創造も期待される。次世代をリードしながら自らも挑戦を続けるベンチャー企業の姿勢に、時代を変革する原動力を見た。

植草学/1975年生まれ。SI会社へ入社し、2000年にSBテクノロジー株式会社とのジョイントベンチャー設立によりM-SOLUTIONS株式会社に転籍。ソフトバンクグループで、新規事業の立上げ、新サービス構築、PM(プロジェクトマネージャー)を担い、2004年にPMP資格を取得。2019年に代表取締役社長CEOに就任。孫正義氏の後継者養成校である「ソフトバンクアカデミア」1期生に参加、継続中。サイボウズのオフィシャルパートナーとしてCYBOZU AWARD SI部門を3年連続受賞。