
労務管理のデジタル化が叫ばれるなか、独自のアプローチで課題解決に挑んでいるのが株式会社HRbaseだ。同社が手がけるのは、AIを活用した労務相談プラットフォーム。社会保険労務士向けの「HRbase PRO」と企業向けの「HRbase」の2本立てで、労務相談の効率化と質の向上を実現している。
300社以上の労務管理支援経験を持つ社労士であり、同社の代表取締役でもある三田弘道氏に、プラットフォームの開発に至った背景と今後の展望について話をうかがった。
士業の課題解決に向けて、労務とITの知見を結集
ーー起業の原点となった出来事や思いを教えてください。
三田弘道:
起業を志すきっかけとなったのは、大学時代に経験した2つの出来事です。まず1つ目はインターンに参加した際に「起業する」という生き方を知り、私も挑戦してみたいと感じたことです。
もう1つは、周囲の学生たちが「就職活動が嫌だ」「働きたくない」と言っているのを聞いたことでした。働くことに対してネガティブなイメージを持っていては、会社もそこで働く本人も幸せになれないだろうと感じたのです。こうした経験を通じて、「働く」ことに関する分野で起業をし、そのイメージを変えたいと考えるようになりました。
ーー「労務とAI」という組み合わせはどこから生まれたのですか?
三田弘道:
私は弊社を創業する前に、人事ベンチャーでマネージャーを勤めていました。大学在学中に社労士の資格を取得し、給与計算のアウトソーシングや勤怠管理システムのサポートに携わるなかで、労務とITを組み合わせたサービスが世の中にまだ存在しないと気づいたのです。
社労士をはじめとする士業の業界は、従事者の年齢層が高いうえに文系出身者が多いこともあり、IT化があまり進んでいない現状があります。そこで、私の強みである社労士の知識と、これからさらに注目されていくであろうAIを組み合わせることで、士業の働き方を変え、業界を改革していきたいと考えたのです。
社労士の経験を活かした労務相談プラットフォーム

ーー貴社の事業内容をお聞かせください。
三田弘道:
現在、AIを活用した労務相談プラットフォームである「HRbase PRO」と「HRbase」を提供しています。「HRbase PRO」は社労士向けのサービスで、簡単に言うと「調べ物を効率化するツール」です。
社労士は顧問先からさまざまな労務相談を受けますが、それに回答する際、根拠となる資料を見つけることに多くの時間が割かれます。そのような状況を改善すべく、「HRbase PRO」は相談内容を入力するだけで資料を検索して回答の要約をつくり、関連資料を提示するところまで自動化が可能です。
一方、「HRbase」は2024年12月にスタートしたばかりの、企業向けのサービスです。システムは「HRbase PRO」の社労士向けに開発した機能を一部カスタマイズし提供することで、労務に関する疑問が出てきたときに、企業の担当者が「HRbase」で検索することで、顧問の社労士に相談する前にある程度の解決が図れます。
社労士から回答が来るまで待ったり、「簡単なことで相談してよいのだろうか」と悩んだりする必要がなくなるので、コミュニケーションコストの最適化もできるでしょう。
ーー貴社ならではの強みを教えてください。
三田弘道:
社労士の専門知識とAIというテクノロジーを組み合わせている点に、独自性があると考えています。労務相談のサービスを提供する会社は多くありますが、同時にAIの開発も行っている会社は非常に珍しいのではないでしょうか。
弊社はAIカンパニーではありますが、AIはあくまでツールであり、社労士という専門家の力を活かすことが重要だと考えています。私が持つ専門家としての知識やノウハウをサービスに反映しながら、独自の価値を提供していきたいです。
ーーどのようなお客さまが貴社のサービスを導入されていますか?
三田弘道:
「HRbase PRO」を導入いただいているのは、年齢層が高くなりがちな士業の世界の中で若手を積極的に採用し、業績を伸ばしていこうとしている社労士事務所が多いです。「HRbase」はこれから導入企業を増やしていく段階ですが、労務管理をしっかり行い、働きやすい環境の整備を目指す企業に活用していただきたいです。
労務管理とは労働環境を良くしようという活動でもあり、その根本には「自社をより良くしたい」という思いがあると考えています。そうした理念を持つ企業にぜひ導入いただき、弊社のサービスで世の中の「働く」のあり方を変えていきたいです。
目指すは、労務管理のリーディングカンパニー
ーー今後の展望をお聞かせください。
三田弘道:
現在「HRbase PRO」と「HRbase」は、共通性、網羅性の高い資料を提供していますが、今後はそれぞれに特化した新機能を開発し、幅広い領域をカバーしていきたいと考えています。数年後には、企業における労務担当者に匹敵するレベルの仕事ができるAIを開発し、労務の知識がある人がいなくても、弊社のシステムを使えば労務関係の業務が整うという状態にしたいです。
だからといって、今後社労士という仕事がなくなるとは思っていません。むしろ、AIが簡単な問題を解決してくれるようになれば、AIでは対応が難しい案件など、専門家に求められる信頼性という価値はますます高まっていくと思います。
さらに、弊社は企業と社労士のマッチング事業も手掛けているため、既存のネットワークと専門性を活かし、AIと専門家が協働する企業問題解決のプラットフォーム構築を目指す方針です。これらのビジョンを達成するために組織の規模拡大を計画し、2030年には1,000人体制になることを目指して、すべてのポジションで仲間を募集中です。
ーーどのような人と一緒に働きたいですか?
三田弘道:
単に報酬のためではなく、「働く」ということ自体に興味があり、人生の重要な要素と捉えている方に来ていただきたいです。なおかつ、そういった考え方を世の中に広めたいと思っている人は大歓迎です。また、AIに興味がある人にもぜひ応募していただきたいと思っています。
AIは技術の進化が著しく、スタートアップの企業にとって大きなチャンスがある分野です。弊社はスタートアップならではの小回りの良さを活かすことで、労務管理というすべての働く人に影響がある分野で、リーディングカンパニーになれる可能性があると考えています。AIというテクノロジーで、まだ世の中にない事業を一緒につくっていきたいという方に、ぜひ仲間になっていただきたいです。
編集後記
労務管理のデジタル化という課題に、専門家としての知見とAIという新しい技術で挑む三田社長。テクノロジーはあくまで手段であり、目的は人々の働き方をより良いものにすることだという三田社長の信念は、同社が提供するサービスの隅々にまで行き渡っている。1,000人体制という高い目標も、その信念があればこそ説得力を持つと感じた。

三田弘道/兵庫県西宮市生まれ。大阪大学大学院在学中に社会保険労務士試験に合格。2015年に株式会社HRbase(旧:株式会社Flucle)を起業。300社以上の企業の労務管理支援をするなかで労務領域の属人化に課題を感じ、日本初の労務相談プラットフォームサービス「HRbase」を展開。労務×AIの領域で新しい価値を生み出すため奮闘している。