
業務用ハンガーに新たな価値を見出す株式会社コーベル。アパレル企業やホテル、フィットネスクラブ、温浴施設など、幅広い業態で採用される同社のハンガーは「掛けるための道具」を超えて、ブランドの価値を高める存在となっている。2021年にはバイオマス素材を活用したハンガーシリーズがグッドデザイン賞を受賞するなど、環境配慮とデザイン性の両立でも高い評価を得ている。2代目として事業を引き継ぎ、新たな挑戦を続ける同社代表取締役の尾﨑功氏にお話をうかがった。
理論と実践で自らの経営スタイルを確立する
ーー入社から経営を引き継ぐまでの経緯をお聞かせください。
尾﨑功:
父が創業者でしたので「いずれは私が継ぐだろう」と思っていました。その時に備えるためにも、別の会社で会計の仕事をした後、2001年に弊社へ入社しました。会計として経験を積んだのは、将来経営に関わることを踏まえ、「知識が必ず役立つだろう」と考えてのことです。しかし私が入社して程なく、父が病気になり半年という短い期間で他界してしまったのです。日ごろから父の手伝いをしていましたが、引き継ぎもない状態での社長就任でしたので、最初は本当に手探りの状態でした。
ーー経営を引き継いだ際にはどのようなご苦労がありましたか?
尾﨑功:
進むべき方向を見定めるのが大変でしたね。取引先の方々も心配して、さまざまなアドバイスをしてくださいました。会計の知識は確かに役立ちましたが、実際の経営は数字だけでは見えない部分が多いことも学びました。
たとえば、財務的な視点に立った場合に「売掛金を減らすべきだ」と思っても、どのようにして減らすのかという具体的な施策は、現場を知らないと立案できません。経営とは、理論と実践の両方が必要だと実感しました。最初は全てのアドバイスを実践していましたが、次第に自分なりの経営の方向性が見えてきたのです。そのときの経験から、経営者として現場を知ったうえで、自分で決断をすることの重要性を学びました。
高品質と環境配慮の両立で顧客の価値を高めていく

ーー貴社の事業内容を教えてください。
尾﨑功:
業務用ハンガーの製造販売を手がけていますが、弊社の仕事は、ハンガーをつくって売ることではありません。お客さまのブランドや商品の価値をより高めていくことこそが、弊社の使命だと考えています。そのため、製品開発の際には必ずお客さまのコンセプトや世界観をしっかりとヒアリングし、それに合わせた提案を心がけています。
その結果、私たちの製品は百貨店やアパレルショップはもちろん、ホテルやフィットネスクラブ、最近は温浴施設などでも使用されるまでになりました。また、プロ仕様の使い心地を一般のお客さまにも体験していただけるよう、家庭用向けの展開も始めました。製品の供給だけでなく、お客さまと一緒にブランド価値を創造していく、それが私たちの目指す姿です。
ーー環境配慮型製品への取り組みについてお聞かせください。
尾﨑功:
バイオマス素材を使用したハンガーや、海洋プラスチックを再利用したハンガーなど、環境に配慮した製品も手がけています。特徴的なのは、これらの製品を従来品と同程度の価格で提供していることです。原価は従来品と確かに異なりますが、環境配慮製品だからといって高額にすると、選んでいただけません。お客さまのブランド価値向上に貢献するためには、環境配慮と使いやすい価格の両立が重要だと考えています。
また、可能な限り日本国内での生産にこだわっています。海外生産を増やせば確かにコストは下がりますが、日本のものづくりの技術や雇用を守ることも、私たちの重要な使命だと考えているためです。最近では対馬の海洋ゴミを活用した製品開発など、地域の環境問題解決にも貢献できる取り組みを始めています。環境配慮型製品は、単なる環境対策ではなく、お客さまのブランド価値向上と社会貢献を結びつける重要な架け橋となっているのです。
心に響く製品づくりにこだわり続ける
ーー将来の展望について教えてください。
尾﨑功:
お客さまに何らかのインパクトを与えられる存在でありたいと考えています。小さいころに出会った本が強く印象に残るように、あるいは旅行先での体験が記憶に刻まれるように、私たちの製品も使う人の心に残るものでありたいのです。そのためには、必要十分な機能性があり、長く使っていただけるエコな製品をつくり続けることが重要だと考えています。
製品そのものは目立たなくても、確かな価値を提供し続けることで、お客さまのブランドや事業の成長に貢献していきたいと思います。それは国内に限らず、海外のお客さまとの取引でも同じです。ときにはビジネスを超えて、お客さまのご家族と観光に行くような関係性も生まれているので、これまで以上に人とのつながりを大切にしながら、着実に事業を発展させていきたいですね。
編集後記
環境配慮型製品の価格をあえて従来品と同程度にする判断や、日本のものづくりを守る姿勢など、一つ一つの経営判断に確固たる信念を感じた。地方の専門店で自社製品を見つけたときの喜びを語る表情は、まるで我が子の成長を見守る親のようだった。ハンガーという製品を通じて、持続可能な社会と顧客の成長を両立させる。そんな尾﨑功氏の志の高さに深く感銘を受けた。

尾﨑功/1971年生まれ。大学を卒業後、全く別の業界で経験を積み、2001年に株式会社コーベルへ入社。生産拠点及び販路の海外展開を進める。近年は環境配慮型製品の開発に注力する。