※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

ハイテク産業になくてはならないレアメタルだが、日本ではほぼ輸入に頼っているのが現状だ。供給不足は脱炭素社会の推進にも大きく影響するため、どのように資源確保するかが今課題となっている。

そんな中、株式会社エマルションフローテクノロジーズは、独自の溶媒抽出技術「エマルションフロー」で、この課題の解決に取り組んでいる。同社は、2021年4月に設立された日本原子力研究開発機構発のスタートアップ企業である。自らも原子力機構に勤め、研究者として長年の経験を積んできた代表取締役社長CEOの鈴木裕士氏に、「エマルションフロー」の可能性や、今後の展望を聞いた。

研究開発型ベンチャーの「支援者」の枠を越えて、自ら起業することを決意

ーー起業の経緯を教えてください。

鈴木裕士:
私は東京都立大学大学院で材料工学について学び、博士号を取得後、原子力機構(当時の日本原子力研究所)に博士研究員として入所しました。原子力機構での約15年間の研究生活の中で感じたのが、研究が研究のまま埋もれてしまっているということでした。研究成果が社会実装につながっていないという事実にもどかしさを感じていたのです。このことが後に起業を決意するきっかけでもあります。

2018年にはNEDO SSA(研究開発型ベンチャーの成長を支援する人材育成プログラム)を受講し、原子力機構内にイノベーション推進室を立ち上げ、原子力分野から生まれた研究成果を社会実装するための支援を開始しました。

その後、「大きな目標を達成するためには支援者としてではなく、自らが動かなければいけないのでは」という気持ちが大きくなり、この取り組みで出会った原子力機構の研究者とともに弊社を設立しました。

「エマルションフロー」の技術を活用して社会問題の解決に貢献

ーーどのような事業を手がけていますか。

鈴木裕士:
弊社は、原子力機構で開発された溶媒抽出の新技術「エマルションフロー」を活用し、レアメタルにまつわる社会課題を解決する企業です。レアメタルは発光ダイオードや電池、永久磁石のほか、強度を増して錆びにくくするための材料などとして使われており、現代社会では必要不可欠です。

通常、レアメタルの溶媒抽出技術は、互いに交じり合わない液相を混ぜて・置いて・分離するの3つの工程が必要ですが、エマルションフローでは単純な混合と送液のみで溶媒抽出を実現できます。これは、レアメタルを分離抽出するための技術の中でも、特に生産性の高い技術として知られています。

弊社では主に資源循環と環境ソリューションの2つの事業を展開しており、たとえば資源循環の分野では電気自動車の退役リチウムイオンバッテリーを効率的にリサイクルする「エマルションフロープラント」の開発と商業化に取り組んでいます。

また、このエマルションフロー技術はレアメタルのリサイクルだけでなく、有機フッ素化合物PFASなどに代表される環境汚染物質の回収にも活用できることから、弊社事業を環境ソリューション事業にも拡張しました。

現在はPFASなどの環境汚染物質を回収する技術の開発と事業化を手がけていますが、技術開発の成果をさらに横展開し、ほかの分野にも事業を拡大しようと取り組んでいるところです。

会社を一気に成長させるための鍵はプロフェッショナル人材の採用

ーー今後はどういったことに注力していく予定ですか。

鈴木裕士:
たとえば紙皿などの食品包装紙は耐水性が求められるため、PFASを添加することがあります。このような商品を扱う企業は、PFASの使用を禁止されると、事業に大きな支障が出ます。

実際にPFASの規制については国際的に議論がなされており、課題感を持っている会社は世界中に多くあります。そういったPFASの規制に関する課題に直面している企業に弊社の技術を知ってもらい、弊社のサービスを活用してもらえるようなきっかけづくりを進めていきたいですね。

また、弊社のようなスタートアップ企業を一気に成長させるためには、経験豊富な人材が必要です。実際にプラントを建てた経験のある人、社会実装できる技術を開発してきた人、事業開発できる人、経営に精通した人など、プロフェッショナルな人材の採用にも力を入れていきます。

ーー最後に、今後の展望をお願いします。

鈴木裕士:
私たちはこれまで苦労しながらも資金調達を成功させ、そして、色々な人に支えられながら順調に会社を成長させてきました。しかし、その起業フェーズは過ぎ、今は経営に力を入れるフェーズに変わってきていると感じています。

また、売上を伸ばすために持続的な会社にしなければいけませんし、そのために最も必要なことはプラントの初号機をいち早く世の中に出すことです。初号機の早期受注が重要なマイルストーンであり、それを達成することで、会社をより成長させていきたいと思います。

編集後記

油水分離能力が高く、排水による環境負荷が小さいことでも知られるエマルションフロー。同社の技術は、地球環境に確実に良い影響を及ぼし、持続可能な社会の実現にもつながっている。「地上資源を未来永劫使い続ける完全循環型経済」の実現を目指し、大きな社会課題に立ち向かう同社の挑戦をこれからも応援したい。

鈴木裕士/1975年神奈川県生まれ、東京都立大学大学院博士課程修了。2003年に日本原子力研究所(現:原子力機構)に博士研究員として入所。約15年間にわたり中性子を利用した材料工学研究に取り組み、その後研究成果の社会実装に向けた支援業務に従事。その活動において知り合った研究者とともに、2021年、株式会社エマルションフローテクノロジーズを設立、同社代表取締役社長CEOに就任。