
複数のECモールで商品を販売する際の作業を効率化したい。その思いから生まれた株式会社ワサビは、リユース品に特化したECサイト管理システムの開発・提供を手がけている企業だ。ECサイト運営の現場で培った知見をもとに開発された「WASABI SWITCH」は、1回の商品情報の登録作業で複数モールへの出品を可能にし、さらに海外展開も視野に入れた翻訳機能も備えている。システムで業界の課題解決に挑む代表取締役の大久保裕史氏に話を聞いた。
古着のECサイトの出品効率化を目指して事業を立ち上げる
ーー社長の経歴を教えてください。
大久保裕史:
学校卒業後、インターネットについて少し学んだのち、20歳で起業して、バー経営のコンサルティング事業を展開していました。その後も、携帯ショップや飲み屋、探偵事務所など、多岐にわたる事業に関わりました。
結婚を機に探偵業を退職したあとは、古着屋の店長としてECサイトの運営責任者を務めました。このECサイトでは、1点ものの古着を各店舗ごとに一つひとつ手入力で商品登録しており、非常に手間を感じました。この不便を解消したいという思いが出品を効率化するサービス開発の原動力になり、2012年に弊社を立ち上げて、現在に至ります。
ーー会社を立ち上げてからは、どのようなことに苦労しましたか?
大久保裕史:
通常のシステム会社の起業は、もともとエンジニアだった人が独立して事業を立ち上げているケースが多いのですが、私はシステムの知識がほぼない状態で会社を立ち上げました。英語も不得意だったので、海外ECモールへの出品システムを構築する際に非常に苦労しましたね。自分だけではできないので、プロダクト開発にはその分野に詳しい人の力を積極的に活用しました。
そのようにして自分ができることの幅を広げながら、足りない部分は「こういうことをやりたいから手伝ってほしい」と多くの社員や、社外の人に助けてもらい、乗り越えてきました。このとき、私の「やりたい」という気持ちに共感してくれた人が、現在も会社に残ってくれています。
EC一元管理システムで海外モールにも出品できるサービスを提供

ーー改めて、貴社の主なサービスの内容を教えてください。
大久保裕史:
弊社はECモール系企業のパートナーとなって、商品登録・在庫管理のシステム「WASABI SWITCH」を始めとする、リユースに特化したECサイトの一元管理システムや、作業効率化アプリを提供しています。リユース品を扱う日本企業の大多数が弊社サービスを利用しているところが、特徴であり強みと言えるでしょう。
従来の手動で入力するやり方の場合、複数のECモールに同一商品を出品する場合は、モールごとに1件ずつ出品作業を行う必要がありました。「WASABI SWITCH」は、1回の出品作業で複数のECモールへの商品登録が可能になるので、作業効率が大きく向上します。翻訳機能によって海外ECモールへの出品も可能となるなど、グローバル化を目指す企業にも最適な製品です。
ーー「WASABIプロジェクト」について詳しく教えてください。
大久保裕史:
「WASABIプロジェクト」は、日本語で商品を入力するだけで、海外の6つのECモールに出品できる「丸投げ型」の越境EC販売を支援するサービスです。
たとえば日本の企業が海外でEC販売を行う場合、現地法人をつくったり人を雇用したりするにはコストもかかりますし、手間や時間もかかります。「WASABIプロジェクト」であれば、日本語で商品情報を入力するだけで自動的に108言語に翻訳される上に、海外発送や海外モールの運営、出品後の海外ユーザー対応などもすべて弊社が行うので、企業内に英語がわかるスタッフがいる必要がありません。お客さまは商品を国内の指定倉庫に送るだけで済むので、大幅な省力化とコスト削減を実現できるのです。
こちらはリユースだけでなく、新品の商品も取り扱いできるので、幅広い層のお客さまに対応できるサービスとなっています。
ーー貴社のサービスの強みや特徴をお聞かせください。
大久保裕史:
現在は、着物のアップサイクルブランドやインバウンド向けの決済サービスなどの新規事業を展開しています。インバウンド向けの決済サービスとは、日本国内で購入した商品を海外の自宅にお届けするサービスです。国内店舗で二次元バーコードを読みとるだけですむので、購入した商品を持ち歩く必要がありません。
「WASABI SWITCH」もそうですが、このような不便を解消するサービスの提供に価値があると、私は考えています。ですから、弊社は利益の追求よりも、「困り事に対してどうアプローチするか」ということを第一に考えて、バージョンアップを続けてきました。カスタマイズ性が高く、常にユーザーにとって最も使いやすい状態でサービスを提供しているところが、弊社の特徴と言えるでしょう。
個性を尊重した柔軟な評価制度を構築
ーー貴社の社内文化や人材に関する考え方について教えてください。
大久保裕史:
私は自分だけでなく、社員にもわくわくしながら働いてもらいたいと考えています。以前、とある会社で働いていたときに「この会社で働く意味はあるのか」と感じたことがありました。私は社員にそのような思いを抱かせたくないのです。また、私自身フットワークが軽く、「自分がやりたいことにはどんどんチャレンジしよう」というスタンスなので、その挑戦を周りの社員にも楽しんでほしいですね。
また弊社は、個性豊かな人材の長所を評価できるような人事評価制度を構築しました。社内には、マネジメントに長けている管理職向きの人や、集中力がずば抜けていてコードを書くことに専念することが好きな人など、さまざまな適性を持つ社員がいます。また、他の仕事を兼務しているスタッフも多いので、そういった個別の事情を汲みとった上で、社員のやりがいを主軸に評価する制度を取り入れたところです。
ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。
大久保裕史:
事業のグローバル化と、ファブレス企業(※)になることが弊社の目標です。すでに、外国人の方も弊社で働いており、海外からリモートワークをしているメンバーもいるほどです。将来的には、海外で働く人と日本で働く人の割合を半々にできればと思っています。
また、製品の開発に関しては、最終的には自社にエンジニアがいなくても成り立つようにしたいと考えています。ビジネスをつくって、エンジニアがいるシステム開発会社と利益を折半する形式で開発できれば理想的です。
今後もリユースや環境に配慮したビジネスを積極的におこない、持続可能な社会に向けた社会に貢献していきたいです。
(※)ファブレス企業:製造工場を持たずに、商品の設計や開発を自社で行う企業のこと。
編集後記
大久保社長の経営方針の根底に流れているのは「自分がやりたいことにチャレンジする」「皆の不便を解決する」という一貫した姿勢だ。ゼロから会社を立ち上げ、必要な人材を巻き込みながら成長を遂げてきた同社の軌跡は、起業を志す人々へのエールとなるだろう。「売上目標を持たない」という経営哲学からは、顧客への価値提供を第一に考える真摯な姿勢が垣間見えた。

大久保裕史/1975年、滋賀県生まれ。古着店の店長を務める中で楽天ショップオブザイヤーを受賞したのちに、株式会社ワサビを創業。直近ではリユースと越境に関するさまざまな新事業にチャレンジし、業界誌でコラム連載などを行っている。