
広告代理店業界は急速なデジタルシフトにより大きな転換期を迎えている。従来型のビジネスモデルではクライアントの本質的な課題解決が難しく、より高度な戦略的アプローチが求められるようになった。そんな今、注目を集めているのがコンサルティング機能を兼ね備えた新しい形の広告代理店、株式会社FORCEだ。
同社は少数精鋭で圧倒的な成果を上げ、クライアント継続率ほぼ100%という驚異的な実績を誇る。その理由として挙げられるのが、徹底した社員教育と高い視座を持つ経営判断だ。代表取締役の川口真礼氏に取材し、わずか6人で58億円の売上を実現している成長の軌跡をうかがった。
真にクライアントに最適な提案をするための「クレド」を最重視
ーー創業までの経緯についてお聞かせください。
川口真礼:
リクルートに新卒で入社し、ホットペッパー担当として、飛び込み営業から、撮影、打ち合わせ、原稿作成まで、一連の業務を一人で担い、幅広い経験を積みました。その後、転職した楽天(現:楽天グループ)では、西日本の責任者として、エリア内の全ての営業所を統括する立場を任されました。この2社で得た経験は、現在の経営にも大いに生きています。
一方で、大手企業で働く中では、クライアントにとって本当にメリットのある商品かどうかに関係なく、販売しなければならない場面に直面することもあり、従業員という立場では、必ずしも自分の理想どおりにいくわけではないという現実を痛感しました。次第に、本当にクライアントのためになる提案だけをしたい、という思いが強くなっていき、2012年に独立を決意したのです。
ーー仕事を進めるうえで大切にしている考えを教えてください。
川口真礼:
私たちは、従業員が心がけるべき信条や行動指針を示す「クレド」を全社で共有し、これを非常に大切にしています。クレドは、「すべてはお客様の為に」という基本的なものから、「『できる範囲』内の仕事に成長は無い」など、単なる行動指針ではなく、私たちが「当たり前の基準」とする考えを明確に定めたものです。
これらは詳細な採用基準として24ページにわたるドキュメントにまとめられ、採用段階からこの基準に合致する人材のみを迎え入れています。日々の判断や行動において、このクレドが最低基準として機能することで、一貫した価値提供が可能になります。これが、私たちの事業運営における根幹的な考え方です。
「コンサル型広告代理店」という新たなビジネスモデルの確立

ーー貴社の事業内容とその特徴について詳しく教えてください。
川口真礼:
弊社は、従来の広告代理店の枠を大きく超え、コンサルティング機能を備えた広告代理店として、企業の利益創出や集客・ブランディング戦略の立案を包括的にサポートしています。短期的な成果だけでなく、中長期的な視点に基づいた戦略を提案し、クライアントとともに成長していく姿勢を大切にしています。
特にデータ分析においては、単なる数値の解析だけでなく、外部要因などのさまざまなデータを組み合わせた総合的な分析を行うことで、上流工程からの伴走を可能にしています。このような独自のアプローチにより、弊社と全く同じビジネスモデルを持つ競合が存在しないことが、最大の特徴といえるでしょう。
また、弊社では新規営業を行っていません。クライアントの高い満足度が新たな紹介案件に繋がっているからです。クライアント継続率はほぼ100%を維持し、最も長いお取引先とは、会社設立時から13年間にわたるお付き合いを続けています。このような信頼関係を築く上で重要なことは、クライアントの事業に対する深い理解であり、その徹底的な理解があってこそ、ニーズに応え、課題解決に結びつく効果的な提案が可能になると考えています。
ーー高いリピート率を維持している背景にはどのような取り組みがありますか?
川口真礼:
弊社では、マーケティング全般に関する114のセクションからなる動画教育と、8段階のテストを実施しています。全てのテストをクリアするまで、クライアント対応を任せることはありません。この徹底した教育システムにより、他社と比較しても社員の成長速度は非常に速いと自負しています。
また、クライアントに価値を提供するためには経営的な視座が不可欠であることから、単なる実務レベルにとどまらず、経営の観点から提案できる人材の育成を重視しています。
さらに、IPOの準備という大きな節目を迎えるにあたり、社員それぞれの仕事への向き合い方や考え方の統一が大きな課題となりました。これに対して、定期的な棚卸しや方向性の確認、組織の将来像を共有するための会議を実施しています。このような取り組みと、先程のクレドの実践を組み合わせることで、組織としての一貫性を確保しています。こうした取り組みにより、全社員が同じ方向を向いて、組織全体が成長することを目指しています。
経営分析ツールで世界へ!次なるステージへの挑戦
ーー今後の展開について、具体的なビジョンをお聞かせください。
川口真礼:
現在、弊社は経営分析ツール「Aegies(イージス)」の開発・展開に注力しています。このツールは、競合比較、業界ランキング、銀行スコアリング、融資資料作成、3年先までの売上収益予測など、6つの主要な機能を備えています。特筆すべきは収益予測の精度の高さで、3年先の売上収益をプラスマイナス3%以内で予測可能という驚異的な成果を実現しました。
日本では、創業後5年で80%、10年で約94%の企業が倒産するともいわれています。この厳しい現状を打破し、日本経済の活性化に寄与したいという思いが、ツール開発の原動力です。特に、売上高30億円未満の企業や税理士・コンサルティング会社を主なターゲットとして、経営力の強化支援に力をいれています。
今後は、IPOの実現とともに、「Aegies」の海外展開を目指しています。具体的には、アメリカ、韓国、オーストラリア、シンガポールの4カ国への進出を計画中です。これらの市場には、弊社のツールが最大限に活用される潜在力があると見込んでおり、日本国内での成功体験をもとに、グローバル展開を進めることでさらなる成長を実現していきます。
編集後記
取材を通じて特に印象深かったのは、株式会社FORCEの「当たり前」の水準が他社とは一線を画している点である。同社では独自の114の教育セクションと8段階のテストという緻密な人材育成制度によって、社員をスピーディに成長させ、顧客満足度の高い提案力へと結実させている。この徹底した姿勢こそが、ほぼ100%という驚異的なクライアント継続率を生み出しているのだろう。
さらに、経営分析ツール「Aegies」を核とした海外展開を視野に入れ、活躍のフィールドは国内外に広がろうとしている。同社の挑戦は、日本企業の未来を切り拓く大きな力となるに違いない。

川口真礼/神戸大学卒業後、株式会社リクルートへ入社。その後、西日本責任者として楽天株式会社(現:楽天グループ株式会社)に入社。2012年に株式会社FORCEを設立、代表取締役に就任する。