※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

物流業界において長年の慣習となっていた「他社の顧客を奪わない」という不文律。この非合理的な価値観を打破すべく、物流のデジタル化に挑戦しているのがWillbox株式会社だ。同社の言う「奪わない」とは、単にシェアの取り合いを避けるという意味ではなく、既存の取引関係に過度に依存することなく、より効率的で公正な競争を通じて、顧客に本当に価値のある選択肢を提供することを目指しているということだ。

同社サービスの「Container EC」は、船会社のコンテナスペースをウェブ上で予約可能にし、中核を担う「Giho」は、荷主と物流事業者をつなぐマッチングプラットフォームとして物流業界に新たな選択肢を提供している。既存の物流インフラを再定義し、Made in Japanの新基準を世界へ発信しようとする同社代表、神一誠氏に話をうかがった。

業界の不合理を解消する「物流のマッチングサービス」

ーーこれまでのご経歴と起業されたきっかけをお聞かせください。

神一誠:
大学卒業後、求人広告業界に入りました。企業に対して営業を行い、採用のお手伝いをするという仕事です。その業界で2社経験した後、家業の物流会社に3代目という形で入社しました。

法人営業の仕事を経て台湾に約2年駐在したのですが、そこで物流業界の不合理さを感じたのが、起業のきっかけです。たとえば「他社のお客さまを取ってはいけない」という礼節のような暗黙の了解が存在しているなど、資本主義と矛盾する価値観が根付いていたのです。そうした慣習がこれからも続くようであれば、健全な競争が避けられ業界全体が成長機会を損ない、長年続いてきた家業でさえ存続が難しくなるのではないかという危機感を抱きました。100年続く企業を目指すためにはどうすればいいのかと考えて思いついたのが、現在弊社で展開しているビジネスモデルです。

それを父に提案したところ、なんと父も30年前に似た構想を持っていたことが分かりました。父から「これはこの業界を変えるためのビジネスモデルだ。うちの会社を辞めて、独立して業界のために働きなさい」といわれ、起業を決意したのです。

ーー貴社の事業内容について教えてください。

神一誠:
「国際物流をより最適に、よりスマートに」というミッションを掲げ、2種類の物流マッチングサービスを展開しています。

1つ目は「Container EC」という、船で世界中に送られるコンテナのスペースをブッキングできるサービスです。旅行の予約サイトのようなイメージで、物を送りたい人と船会社をマッチングします。業種を問わず、さまざまな企業にご利用いただいています。

2つ目は起業当初から展開している、中核の「Giho」というサービスで、こちらは海上輸送をメインに、荷主と物流事業者を結びつけるマッチングプラットフォームです。こちらは製造業のメーカーや商社向けのサービスとなっています。

前職で培った経験を活かして、サービスを拡大

ーーこれまでにないサービスですが、どのように顧客を獲得していますか?

神一誠:
現在、約300社とお取引させていただいていますが、すべて弊社の営業スタッフがテレアポで開拓したお客さまです。私が求人広告業界にいたときに、テレアポや飛び込み営業でお客さまを獲得していた経験があり、そのノウハウを受け継いでいます。今後、テレアポだけでは新規顧客の獲得が難しくなるタイミングが来ると考えているので、その際には広告運用も活用していく予定です。

ーー経営において重視している価値観を教えてください。

神一誠:
「五常(仁・義・礼・智・信)」を大切にしています。最初に就職した求人広告会社の上司がとても厳しい方だったのですが、今思えば、その人の言葉に五常の5つのことがすべて凝縮されていたと感じています。それが私という社会人の基礎になっていると思うのです。ですから、社員に対しては、礼儀に関することやお客さまを裏切ってはいけないということを繰り返し伝えています。

独自の視点で、日本から物流の在り方を変えていく

ーー今後はどのようなサービスを展開される予定ですか?

神一誠:
現在、新しい流通のフィールドを構築している段階ですが、それができたら、次は「物流の中身」を変えることに取り組みたいです。具体的には、梱包に使用する素材を弊社で開発したいと思っています。輸送用の木箱は50年ほど育てた木を伐採してつくられるのですが、輸送に使われた後は輸送先で壊され、燃やされてしまうのです。これは非常にもったいないですよね。そこで、何往復でも使える木材などの素材を開発し、弊社のサービス利用者に活用していただくことで、エコな物流を実現していきたいと考えています。

ーー今後のビジョンを教えてください。

神一誠:
「物流業界のインフラ」になることを目指しています。弊社は「Made in Japanを再定義する」というビジョンを掲げており、日本から世界へ新しいスタンダードを定着させ、日本から物流を変えていくことを目標にしています。物流における日本の技術を世界中の人たちに使ってもらうために、新しい物流の常識やインフラのサービスをつくっていきたいですね。

ーーそれを実現するために、どんな人に仲間になってほしいですか?

神一誠:
目的意識を持って頑張れる方を積極的に採用していきたいと考えています。物流業界の経験がなくても問題ありません。物流に関する知識やスキルは後から学べるものなので、それよりも、その方が持っている個性や人間性を重視したいです。たとえばその人が持っている軸、ベースになっている思考、マインドセットなどが評価の対象となるでしょう。前向きな姿勢や価値観を持つ方に、ぜひ仲間になってもらいたいですね。

編集後記

物流業界の慣習に疑問を投げかけ、デジタル化による効率化を推進する背景には、業界を変えたいという強い思いがある。特に印象的だったのは、30年前に父が抱いていた構想と現在のビジネスモデルが重なったエピソードだ。時代を経て、テクノロジーの進化により実現可能となった革新的なサービスが今、業界の未来を切りひらいていく。

神一誠/1989年、神奈川県生まれ。大学卒業後、求人情報サイト「バイトル」などを運営するディップ株式会社に入社し、法人営業に従事。その後、株式会社マイナビに入社。新卒採用サイト「マイナビ」でも法人営業に従事し、当時、最短最年少で支部長に就任する。退職後は家業の総合物流会社に入社。物流の現場作業、営業、経営企画、台湾駐在を経て、2019年にWillbox株式会社を創業。