※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

株式会社エアロネクストは、国内でも珍しいドローン関連技術のライセンス事業と市場開拓を行う企業だ。代表取締役CEOの田路圭輔氏が目指すのは、ドローンが空の社会インフラとなる世界だという。躍進を続ける同社の事業内容や強み、今後の展望を聞いた。

IPビジネスを武器にドローン業界に参入

ーー社長のご経歴を教えてください。

田路圭輔:
僕はもともと、人間の能力を拡張していく「身体拡張の道具」であるメディアに魅力を感じていました。

たとえばテレビの正式名称である「テレビジョン」は、人間の視覚(ビジョン)を遠隔実在させるものです。テレビが発明される前は、人間にとって目の前にあるものだけが「実在」するものでした。しかしテレビの発明によって、遠い場所で起こっていることを自分たちの目で確認できるようになったのです。それが非常におもしろいと感じ、株式会社電通に入社しました。

しかし実際に働いてみると、想像とは違っていました。電通は広告会社ですから、クライアントありきの仕事が主だったのです。つまり、自分たちで何かをゼロから始めるという仕事ではなかったんですね。主体的に働きたいとの思いが僕の中にあったため、株式会社IPGを立ち上げました。

当時、業界にはアナログテレビをデジタル化させる動きがありました。デジタル化で通信と放送が融合した時にどんな可能性があるのだろうと考えて、思いついたのが、リモコン操作でテレビの番組表を見られる機能です。現在のテレビには標準搭載されている電子番組表機能を最初に開発しました。その後、番組表を選択するだけで録画できる機能などを開発し、同社の技術をデファクト化しました。

特許を活用して行ったのは、開発した技術で他企業とライセンス契約をする「IP(知的財産)ビジネス」です。このビジネスモデルは非常におもしろく、再現性があると感じました。もう一度同じビジネスモデルで事業をやってみようということで、2017年に弊社の代表に就任しました。

ーーなぜドローンに関する事業を選ばれたのでしょうか。

田路圭輔:
ドローンには、僕がこれまで関わってきたものと2つの共通点があります。

まず1つ目は、ドローンは身体拡張の道具であるということです。2017年段階では、ドローンは空撮の役割が主流だったため、人間が主体的に見ている映像ではなく、上空からの視点を手に入れられるという点に魅力を感じました。

2つ目は、IPビジネスが未来のビジネスと相性が良い点です。すでに世の中に広く知られているものは特許の対象になりません。2017年当時、ドローンは未来のビジネスでしたので、IPビジネスと親和性が高いと感じたのです。

独自性の高いビジネスモデルで産業をリードする

ーー貴社の事業内容を教えてください。

田路圭輔:
弊社は、ドローンの機体構造設計技術を研究開発する会社です。

設立当時はまだ空撮の道具でしかなかったドローンですが、当時から僕は、いずれドローンが移動のツールになると考えていました。ドローンが人や物を運ぶテクノロジーになるには、機体構造を変える必要があります。そこで発明したのが、ドローンに荷物を積んでも重心がぶれず、墜落リスクを軽減できる「重心安定技術」です。

このように、次世代のドローンに必要となる技術を発明し、その技術を特許化しIPビジネスを行っています。

一方で、新しいテクノロジーを社会に広げるための市場もつくっています。新しいテクノロジーは、既存の価値観が大きく変化しない限り浸透しません。そのため、技術開発と同時に世の中の価値観を変えるようなサービスも提供しています。

具体的には、セイノーホールディングス株式会社とパートナーシップを組み、トラックの配送が難しい過疎地の配送をドローンで担う「新スマート物流」というサービスを開発しました。地上と空で相互に補完し合いながら、ドローンの新たな市場を開拓中です。

ーー貴社の強みをお聞かせください。

田路圭輔:
1番の強みは、弊社の独自性です。機体開発をする、サービスを提供するなど、ドローンに対してパートごとに携わる会社はありますが、弊社のようにドローンの新技術を開発しつつ、市場に入れるための仕組みを作る「エコシステム全体の設計」を行う会社は他にないと思います。エコシステムの構築の過程で、物流や通信、メーカー、保険など、さまざまな業界のお客様とお付き合いしています。

また、ドローンに関するIPも多く保有していますので、技術や機体の提供も可能です。これからドローン産業に参入する方が組みたいと思えるようなポジションを築きたいですし、実際にそうなりつつあると思います。

ドローンビジネスで社会インフラの革命を目指す

ーー今後の展望を教えてください。

田路圭輔:
日本全体が今よりもっと便利になるように、社会インフラの変革を起こしていきたいです。今注力している移動技術は、インターネットができない瞬間的な物の移動を可能にします。これは人間の時間価値を最大化する変革になるでしょう。

ドローンを社会インフラ化するには、先ほど触れたエコシステムの構築が必要です。今はまだ、上流から下流に正しくドローンを届けて利活用する機能が揃っていません。これから、すべての過程でパートナーを見つけていきたいと考えています。

また、ドローンのエコシステムを築く上で、大手企業の参入は必須です。産業は、大企業が本気で取り組まないと大きくなりません。彼らが参入したくなるような仕掛けをつくり、今よりさらに多くの大企業とパートナーシップを組んでいきたいと考えています。

社会を変える意義のあることをしたいという情熱を持った方は、ぜひ弊社の門を叩いていただきたいですね。

編集後記

「ドローンをインフラの1つにする」と聞くと壮大に感じるが、田路氏の話を通して決して夢物語ではないと確信した。着実に目標に向けて歩みを進める同社のさらなる飛躍が楽しみだ。

田路圭輔/1991年株式会社電通入社。1999年株式会社IPG設立、2005年代表取締役社長就任。2017年株式会社DRONE iPLABを共同創業、取締役副社長就任。DiPLとの資本業務提携を機に同年11月株式会社エアロネクスト代表取締役CEOに就任。内閣府知的財産戦略本部構想委員会委員。全国新スマート物流推進協議会理事。