
IT業界で、コンサルティング、システム開発に関わる業務全般を手がけるSaze株式会社。同社は2016年の創業以来、顧客の評価が直接年収に反映される報酬体系や、営業職が兼務するキャリアコンサルタントによる手厚いサポートなど、エンジニアの成長と幸せを第一に考えた経営を実践している。理想の働き方を追求し続ける同社代表取締役社長の伊藤康浩氏に、経営哲学と今後の展望をうかがった。
理想の働き方を求めて起業を決断
ーー起業に至るまでの経緯を教えてください。
伊藤康浩:
大学卒業後、会社員としてIT業界で10年ほど働きました。この業界を選んだ理由は、愛知から仕事が多い東京への引越を決め、上京後もある程度の収入を得られる業種だと思ったからです。会社員として働いていると、「順調にキャリアを重ねたい」と思っても社内の意向で上手くいかなかったり、営業のノルマが厳しかったりと、思うようにいかない現実に直面しました。その際、理想の働き方ができる会社を探しましたが、見つかりませんでした。それならば私が「エンジニアが定年まで、理想の働き方を追求できる会社」をつくろうと考えて、2016年に弊社を設立しました。
ーー社長が考えている「理想の働き方」とは、どのようなものですか?
伊藤康浩:
会社員時代の私は、会社から提示された年収分だけ働くことが、理想の働き方だと考えていました。しかし、部下の管理など売上に関係ない仕事を押し付けられることも多く、年収は増えない一方で、より多くの仕事をこなすことを求められました。そうした経験を経て、「報酬と仕事量のバランスがとれた状態で働く」ということが、理想の働き方なのではないかと考えるようになったのです。
ーー起業後は、どのような会社づくりを目指しましたか?
伊藤康浩:
弊社を立ち上げてからは、私自身の会社員経験を踏まえて、社内制度において「納得できない」と思ったものはすべて廃止しました。その一つが、人事評価制度です。弊社はIT企業としてお客さまにエンジニアの労働力を提供し、それに対する評価に基づいた報酬をいただいています。
そして、その報酬から決まった割合をエンジニアに還元するという形式をとっています。つまり、社員の年収は社内の評価ではなく、お客さまの評価によって決まるのです。これは、社員がより納得でき、仕事のモチベーションが上がるシステムだと考えています。
また、私は社内に上下関係をつくらないことを意識しています。私自身も、「社長という肩書きで呼ぶのはやめてほしい」と社員全員にお願いしてきました。肩書きで呼ぶことで、どうしても上下関係を意識してしまいます。
一般の会社であれば仕事に関する全責任を社長が持つ形になりますが、弊社では各自が責任を持つようにしてもらっています。上下関係をなくして、各自が仕事に責任を持つことで、同僚であり友達でもあるような関係性を構築することができました。
キャリアコンサルによる支援でエンジニアの成長を後押し

ーー貴社の事業の強みや特徴を教えてください。
伊藤康浩:
弊社は、お客さまの会社にエンジニアの労働力を提供して、コンサルティングやシステム開発に関わる業務全般を行っています。創業時から一貫して、「人を採用するためにはどういう会社づくりをすればよいか」というところの仕組み化をしているので、優秀なエンジニアが集まりやすいというところが、弊社の強みといえるでしょう。
さらに、弊社はエンジニア一人ひとりに、営業職を兼ねるキャリアコンサルタントが付く点が特徴的です。ほとんどのIT企業は、エンジニアの数が多ければそれだけ売上につながるため、エンジニアだけをなるべく多く採用しようとしますが、弊社は必ずしも会社としての売上にこだわっていません。キャリアコンサルタントのキャパシティを超えないように、エンジニアの採用人数を調整しています。
これは、会社の売上にはこだわらず、エンジニアが幸せに働ける環境づくりを目指しているためです。弊社のエンジニアは、お客さまからの評価がダイレクトに自分の年収に結びつくので、常にお客さまに貢献したいと意識を持って働いています。そのため、時代に合わせた最先端の技術を積極的に身につけて、その技術をお客さまに提供して喜んでいただくよう努めているのです。結果として、それが顧客満足度の高さに結びついているのだと思います。
次世代リーダーの育成で持続可能な組織へ
ーー今後はどのようなところに注力したいとお考えですか?
伊藤康浩:
今後も優秀な人材の採用に注力していくつもりです。現状、待遇面でも還元率の面でも日本一の水準を実現できていると考えていますが、まだ高めていく余地があると感じています。業界No.1の還元率を維持しながら、優秀な人材がより活躍できる環境づくりを、さらに推進していきたいですね。
また、私は50歳を過ぎて世の中のトレンドを追えなくなったら、潔く社長の座を誰かに譲ろうと考えています。今後、一般的には、会社を売却するか上場することになりますが、そうすると弊社がこれまで培ってきた、社員の幸せを大切にする社内文化は損なわれることになるでしょう。ですから、今のうちに社内で次の社長になれる人材を教育する必要があると考えています。
そのために現在、弊社は東京都内で営業所を複数展開しており、各店長に社長の権限のほぼ全て委譲しています。採用を各営業所で行うのはもちろん、独立採算制で赤字は店長自身の年収に反映される仕組みです。この取り組みによって責任感を伴った運営方針を身につけ、次の社長を担ってくれる人材が育ってくれることを期待しています。
ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。
伊藤康浩:
3年後や10年後に、社員が今以上に幸せになっている会社を目指します。社員数を増やすことよりも、所属している社員全員の幸せを追求することが、私のポリシーです。会社を大きくしすぎると、その過程でオートメーションが進み、かえって人とのコミュニケーションが減って幸福度が減ることがあります。社員の幸せを損なわない方向性で、会社を成長させたいですね。
編集後記
会社員時代の経験から理想の会社をつくろうと決意した伊藤社長の言葉には、説得力があった。優秀な人材を集めるには何が必要か、働く人が本当に求めているものは何か。その問いに真摯に向き合い続けた結果が、現在の独自の経営スタイルを形づくっている。エンジニアの幸せと会社の成長を両立させようとする姿勢に、経営者としての確かな哲学を感じた。

伊藤康浩/1980年、愛知県生まれ。愛知学院大学卒業。IT関連企業にて10年間勤務後、理想の職場を実現するため、2016年にSaze株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。時代の変化に合わせて、理想の会社であり続けるべく、企業の最適化を続けている。