
脱プラットフォーム(OSに依存しない)、そして脱エコシステム(どのようなOS、どのメーカーの端末とつながる)の独自ワイヤレス動画転送技術「SSE」を開発し、世界のITインフラに変革をもたらそうとしている株式会社teamS。かつて電子書籍事業を手がけた代表取締役の高嶋晃氏は、顧客が抱いた「なぜスマホがあるのにスマホの画面を大きくしたタブレット(回路などはスマホと同じ)も必要なのか」という素朴な疑問を起点に、世界にありそうでなかった世界初の開発に挑んでいる。そこには「楽しいところに人と金は集まる」という独自の経営論と、運命的な人との出会いの物語があった。常識を覆す技術の核心と、同社が描く未来のビジョンに迫る。
イーブック読者の疑問から始まった世界初SSE技術の開発開発
ーー起業に至った経緯についてお聞かせください。
高嶋晃:
私の原点には、シャープ時代に培われた「世界にないものをつくれ、そして真似されるものをつくれ」という文化があります。その考え方を基に、以前携わっていた電子書籍事業でタブレットに代わる“第四のハードウェア”の必要性を感じていました。
直接のきっかけはイーブック読者からの「スマホがあるのに、なぜスマホの画面を大きくしただけのビッグスマホ(iPadやAndroidタブレット)を持たなければいけないのか」というお叱りの声でした。この声に応えるため、スマホの拡張画面にもなるシンプルなディスプレイデバイスを構想しました。しかし、それを実現する技術が世界中どこにもなかったため、「それなら自分たちでつくってしまえ」と。それが弊社の始まりです。
不可能を可能にした 天才エンジニアたちとの出会い
ーー貴社が開発された独自技術「SSE」について、詳しく教えていただけますか。
高嶋晃:
「SSE(Smart Streaming Engine)」は、動画をワイヤレスで送受信するソフトウェア技術です。最大の特徴は、AndroidやiOSといった特定のOSに依存しない点にあります。これにより、SSEを組み込んだ端末は、相手がiPhoneでもAndroid端末でも、OSを問わずにワイヤレスで接続できます。既存のワイヤレス技術は、使える端末が限定的でWi-Fi環境も必須です。私たちのSSEは、Windows、Android、iOSなどのOSに依存せず、Wi-Fiがない砂漠や宇宙空間でもデバイス同士を直接つなげられ、非常に自由度と発展性の高い技術といえます。
ーー世界になかった技術は、どのようにして生まれたのでしょうか。
高嶋晃:
この技術構想は、エンジニア達から当初は「不可能だ」と言われ続けていました。しかし、ある飲み屋での出会いが突破口を開いたのです。天才エンジニアを育成する国の事業「未踏IT人材発掘・育成事業」(通称:未踏事業)の認定者が「できますよ」と青写真を描いてくれました。さらに、その青写真のもとにシャープ時代のスーパーエンジニア3人が集結してくれたのです。まさに人の出会いの連鎖から、この技術は生まれました。
「楽しいこと」に人と金が集まる 独自の経営論

ーー事業を推進する上で、大切にされている考え方はありますか。
高嶋晃:
「考えていることは100%現実化する」ことと、「人やお金は、楽しくてハッピーなところに集まってくる」という二つの考えを大切にしています。ここで言う「楽しい」とは、社会に貢献し、多くの人を喜ばせることです。それが事業の原点です。
この考えに基づき、製品化を確実にするため、メーカーに製品を供給するODM(※)企業へ直接技術を売り込む戦略をとりました。現在、世界のディスプレイ関連ODMの中から3社と開発契約を結んでおり、その中には世界最大の企業も含まれています。
(※)ODM(Original Design Manufacturer):委託元(シャープなど)のブランド名を冠した製品の設計、製造までを請け負うビジネスモデル。
ーー今後の収益モデルはどのようにお考えですか。
高嶋晃:
二つあります。一つは、私たちの技術を搭載したハードウェアが製造されるごとにライセンス料をいただくフロー型の収益です。もう一つは、来年以降の課題になっているのですが、クラウドサービスとSSE搭載ディスプレイを直接つなぐことから生まれるライセンス事業です。こちらは、例えばSaaS(※)企業と提携し、ストック型(例えば月額)の収益モデルを想定しています。
(※)SaaS(Software as a Service):クラウドで提供されるソフトウェアサービス。
クラウド時代の鍵となる 新時代のインターフェース
ーーこの技術を通して、どのような未来を描いていますか。
高嶋晃:
事業面では今後、ODM企業と共にライセンシーを増やし、グローバルに展開します。製品開発の遅れで多少の時間軸のずれはありましたが、描いていたシナリオは順調に進んでいます。来年の世界発売を足がかりに、2028年には年間300万ライセンスの達成を計画しています。
同時に、社会貢献の面でも大きな可能性を感じています。たとえば災害時、避難所にSSE搭載ディスプレイがあれば、ITに不慣れな方でもボタン一つで必要な情報にアクセスできます。OSのバージョンアップが不要なため、セキュリティを保ちながら長く使い続けられる利点もあります。
ーーさらにその先、どのような未来を見据えていらっしゃいますか。
高嶋晃:
2030年頃には、物理的なスマホはなくなり、すべての機能がクラウドに移行する(バーチャルスマホ)になるという話も聞きます。デバイスを「所有」する概念がなくなるでしょう。そのとき、人々がクラウドにアクセスするための「鍵」として、私たちのSSEを搭載したディスプレイが必要になります。あらゆるサービスとダイレクトにつながる、新しい時代のインターフェースになる未来を描いています。
ーー事業をさらに拡大させる上で、現在の課題は何でしょうか。
高嶋晃:
事業を今まで以上のスピードで進めるには、私を含むメンバーのマインドセット、パートナー企業との提携、SSE技術のさらなる可能性に向けた開発が課題です。加えてそれらの活動を滞りなく進めていく資金調達も課題で、今ちょうど第三者割当増資を進めています。また、さらなる事業展開のための資金調達として、適切なタイミングでのIPOを視野にいれています。
日本のものづくりで世界へ貢献 若き才能との共創
ーー最後に、これからの時代を共に創っていく未来の仲間や、若い世代に向けてメッセージをお願いします。
高嶋晃:
私たちが共に働きたいと考えるのは、自ら行動し、新しいものを創り出すことに喜びを見いだせる方です。まだ誰も足を踏み入れていないマーケットをゼロから開拓していく。そんなフロンティア精神に満ちたプロセスそのものを、心から楽しめる仲間を求めています。
これからの時代を担う若い世代の皆さんには、ぜひ「ものづくり」の可能性と楽しさを伝えたいです。サービスの主役がインターネットになっても、私たちの生活を支え、心を動かすのは、やはり手に取れる「モノ」の力です。世界にはまだ、誰も見たことのない新しい「モノ」が生まれる余地が無限に残されています。そして、それを形にできる繊細な技術と精神こそ、日本人が持つ最大の強みです。その特別な力で、世界をあっと言わせるような貢献をしたい。そう考える方の挑戦を待っています。
編集後記
株式会社team Sの核にあるのは、OSやプラットフォームという既存の枠組みを根底から覆す、極めて自由度の高いワイヤレス技術だ。高嶋氏が語る「スマホがなくなる未来」は、単なる予測ではなく、自らの技術で実現しようとする明確なビジョンである。そのスケールの大きな構想の根底には、「楽しいこと、ハッピーなこと」を追求するという、人間味あふれる信念があった。「描いたイメージは100%現実になる」と語る同氏の言葉通り、同社がつくる未来の常識が、私たちの生活に浸透する日はそう遠くないのかもしれない。

高嶋晃/1959年大阪府生まれ。東北大学卒業後、シャープ株式会社に入社。商品企画や経営企画部門で17年間勤務。2000年に同社を退職し、株式会社イーブックイニシアティブジャパン(現・LINE Digital Frontier株式会社)を共同で創業。常務取締役などを歴任し、2011年の東証マザーズ上場、2013年の東証一部上場に貢献。2016年に株式会社teamSを設立し、代表取締役に就任。ライセンス事業を軸にSSE技術、及び周辺技術の開発を手がける。