
株式会社アクシオは、ネットワークや認証ビジネスのシステムインテグレーター(System Integrator・SIer)から自社製品を擁するメーカーへと変革を遂げつつある。その舵を取るのが、エンジニアとしてキャリアをスタートし、国内外のインフラ構築、海外法人設立という異色の経歴を経て、2020年に代表取締役社長に就任した渡邉浩司氏だ。同氏のもと、Slerからストック型ビジネスへの転換を図り、特にID管理分野では自社開発サービスを市場に投入。今回は、渡邉社長の挑戦の道のり、同社が描くID管理事業の未来、そして求める人物像に迫る。
エンジニアから経営者へ。激動のキャリアと海外での挑戦
ーー社長就任までのご経歴についてお聞かせください。
渡邉浩司:
ソフトウェアエンジニアとしてキャリアを始め、1995年頃から社内インフラ構築に携わるようになりました。当時は企業がインターネットを使い始めた時期で、知識や経験がない中で試行錯誤しながら構築を進めていました。2000年には本社ビルのネットワークやデータセンター構築などインフラ全般を手掛けるようになり、その後、グループ全体のIP電話導入を担当しました。
そして、2002年、グループ内のIT関連事業の統合を期に子会社である株式会社アクシオに入社。2006年頃からは中国・ベトナム13拠点のネットワーク整理やセキュリティ対策をほぼ一人で行いました。当時の海外拠点はIT環境が未整備で、リテラシーも非常に低かったため、誰が作ったのかもわからないようなソフトウェアが使われるなど非常に危険な状態。ネットワーク構築もさることながら、現地社員への教育も非常に重要だと感じていました。
海外拠点の業務に対応する中で、「IT環境を整備した成功事例を他の日系企業にも展開できないか」と考え、2010年に中国で「アクシオ上海」を設立しました。しかし、当初半年は案件が全く取れず資金繰りに困窮。営業経験のないエンジニア出身でしたから、ゼロからのスタートは本当につらかったです。それでも、日系企業の会合などに参加し、徐々に信頼を得、多くの日系企業からインフラ構築や現地社員教育を依頼されるようになっていきました。
ーー日本へ戻られてからのお話をうかがえますか。
渡邉浩司:
上海での事業が軌道に乗り始めていたので後ろ髪を引かれる思いでしたが、2012年4月、日本へ戻りました。帰国後は営業担当部長となり、その後、管理本部、技術本部の取締役などを経て、2020年2月に突然、社長就任を告げられ、同年4月に就任しました。まさに青天の霹靂でした。
SIerからの脱却。ID管理を核にメーカーへの道を切り拓く

ーー社長にご就任された際、どのような変革をお考えでしたか。
渡邉浩司:
当社は社員数が長年ほぼ横ばいで、従来のSlerでは成長が難しいと感じていました。そこで、SaaSのようなクラウドサービスが台頭してきたこともあり、SIerからベンダー、メーカーへと舵を切り、ライセンス販売を中心としたストックビジネスへの転換が必要だと考えました。
そこで、2021年頃から自社開発サービスに注力するようになり、現在はストックビジネスの割合が大きくなっています。なかでも、ID管理事業とICT事業を二本柱として展開しており、それぞれの分野でお客様に価値を提供しています。
ID管理事業では、人事情報と連携し、入社から退職までの社員のシステムアクセス権を一元的に管理する仕組みを提供しています。これにより、シングルサインオン(SSO)の実現だけでなく、異動時の権限変更の自動化や退職者アカウントの確実な削除が可能となり、情報漏洩リスクの低減に貢献します。お客様には、セキュリティ対策の第一歩として、また、ITガバナンス強化の観点からも、ID管理の重要性をお伝えしています。
この事業の背景には、2000年頃から取り組んできた統合認証基盤事業で培った経験があります。現在はその知見をもとに、クラウド型のID管理サービスとして展開しています。一方、ICT事業においては、リモート監視・運用サービスなどの自社サービスを立ち上げ、安定的な運用と迅速な対応によって、企業のITインフラ運用を支援しています。これらのサービスを通じて、自社サービスの価値や重要性を継続的にお伝えしています。
その結果、現在の売上構成においては、SIとストックビジネスの割合がほぼ半々になりました。親会社の情報システム部門としての役割も担っていますが、親会社のクラウド移行に伴い、ゼロからシステムやソフトウェアを開発するスクラッチ開発案件は減少傾向にあります。将来的にはグループ向けのビジネス比率は縮小する見込みです。
ID管理の未来を牽引し、社員が輝ける企業へ
ーー5年後、10年後の会社の姿について、どのような目標をお持ちですか。
渡邉浩司:
まずは、「アクシオ」という会社名とブランドイメージを向上させ、学生が「IT企業で働きたい会社」として名前を挙げるような存在になることを目指しています。そして、ID管理が当たり前のものとなるであろう将来に、その分野での第一人者として日本を代表する企業になっていたいと考えています。
そのためには、トップが変わっても揺るがないビジョンを共有できる人材育成が重要です。社長就任後、長年変わっていなかった組織体制と人事評価制度を刷新し、年功序列ではなく能力主義を導入しました。若くても実力があれば昇進できる環境を整え、社員が挑戦しやすい風土をつくっています。
ーー貴社が求める人物像についてお聞かせください。
渡邉浩司:
積極的に行動できる人、待ちの姿勢ではない人です。突拍子もないアイデアでも、それを表に出してほしい。会社として、そうした意見を尊重し、実現に向けて皆で考える雰囲気づくりを大切にしています。2020年からは、通常の業務とは別に、社員が「やってみたいこと」をプロジェクトとして立ち上げ、実行できる制度も導入しました。例えば、ChatGPTの活用研究やペーパーレス化推進などが自主的に進められています。自分のアイデアを形にしたいと考える人には、やりがいのある会社だと思います。
さまざまなプロジェクトが立ち上がる中で、失敗を恐れずに積極的に自分で動いて、どんどん挑戦したい人との出会いを楽しみにしています。
編集後記
エンジニアから海外法人社長、そして代表取締役社長へと、常に挑戦を続けてきた渡邉社長。社長の言葉からは、困難を乗り越えてきた実行力と、変化を恐れない柔軟性が伝わってきた。ID管理を核にSIerからメーカーへの変革を推進し、社員が能力を最大限に発揮できる環境を整備する同社の取り組みは、今後のIT業界において大きな注目を集めるに違いない。アクシオが描く未来に期待したい。

渡邉浩司/1993年、昭和電線電纜株式会社(現・SWCC株式会社)に入社。ソフトウェアエンジニアとしてキャリアを始め、その後、インフラエンジニアとして社内外のネットワーク・データセンター構築に従事。2002年、グループ内のIT関連事業の統合を期に子会社である株式会社アクシオに入社。2006年より中国・ベトナム拠点のITシステム整備を手掛け、2010年にアクシオ上海を設立。2012年に帰国後、営業部長、管理本部長、技術本部長(取締役)などを歴任し、2020年4月より現職。