※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

データマネジメント領域において、日本発のグローバル企業を目指す株式会社Scalar。日本の強みである緻密さと整合性を武器に、トヨタやGoogleなどの世界的企業からの信頼を獲得している同社。その代表取締役CEOである深津航氏に、戦略と展望について話をうかがった。

「変わらないこと」をリスクと捉え、起業を決意

ーーこれまでのご経歴をお聞かせください。

深津航:
私は大学院の人間情報学研究科で情報処理を専攻し、卒業後は日本オラクル株式会社へ入社しました。約18年間、技術職と営業職の両方に従事し、さまざまな企業の経営陣やエンジニア、そして海外のお客様と交流させていただきました。この経験が、今の人脈につながっています。その後、株式会社Orbに転職をし、そこで出会った山田浩之(株式会社Scalarの現代表取締役 CTO)とともに株式会社Scalarを設立し、現在に至ります。

ーー長年勤めた会社から転職や起業を決断された理由は何だったのでしょうか?

深津航:
日本オラクルを経てOrbに転職したのは、新しいことや未経験の分野に挑戦できる環境に魅力を感じたからです。日本には意思決定を先延ばしにする傾向がありますが、私は「変わらないこと」こそリスクだと考えています。前例がないこと、誰もやったことがないことこそ、挑戦すべきです。

起業を決意したのは、Orbが他の企業の傘下に入ったタイミングですね。創業時のビジョンはシンプルで、「日本からグローバルなソフトウェア会社を生み出したい」という思いが根底にありました。

データの信頼性を担保する技術で新たな市場を開拓

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

深津航:
データの管理や信頼性の担保といった、データマネジメントに特化したソフトウェアを開発しています。この分野を選んだ背景には、グローバル展開を見据えた戦略があります。たとえば、AIなどの華やかな分野ではアメリカ企業が莫大な資金を集めて開発を進めており、日本の企業が同じ土俵で競争するのは難しい状況です。

そこで、あえてアメリカの企業が積極的に取り組まない「地道で緻密な作業」に着目しました。日本企業の強みである正確性や整合性を活かせる領域で、事業を展開しています。この分野には現時点で競合が存在せず、独自の市場を築いている点が強みですね。

ーー具体的に、どのような場面で活用されていますか?

深津航:
弊社のソフトウェアは、知的財産管理やデータベースの統合管理といった分野で活用されています。「ScalarDL」はデータの信頼性を担保するもので、トヨタ様では「先使用権」の証明に役立てていただいています。「先使用権」とは先に発明していたことが証明できれば、他社が特許取得していてもその権利を認めてもらえる制度です。「ScalarDL」を使用することによって電子データが確かにその日時に存在していたことを、改ざん検知技術で証明することができます。

もう一つの「ScalarDB」については、企業が部門ごとに持つデータベースを仮想的に統合管理するシステムです。各部署が独自の判断でデータベースを更新できる柔軟性を保ちながらデータを統合できるため、変化に対して俊敏に対応できるようになります。データの整合性を保ちながら、管理の複雑さを軽減する点が評価されており、多くの企業様にご活用いただいています。

名だたる企業との取引実績を武器に、さらなる成長を目指す

ーー大手企業への導入はどのように実現したのでしょうか?

深津航:
「導入してもらえるまでアプローチしただけ」です。最初から製品が市場にフィットすることはあまりないため、ターゲット企業へ継続的なアプローチをすることによって、製品が徐々にニーズに合ってきます。途中で諦めてしまう人が多い中、弊社は大手企業に導入していただけるまで、アプローチと改善を繰り返してきました。この「愚直に突き詰める」という姿勢が、大手企業との取引につながったのだと思います。

ーー今後の展望を教えてください。

深津航:
新規取引先の開拓をさらに進めていくつもりです。現在は、フォーチュン・グローバル500(※)にランクインしている日本の企業46社をリストアップし、アプローチしています。規模の大きな企業様ばかりなので容易ではありませんが、おそらく数年以内に半分以上の企業様に導入していただけるだろうと考えており、その道筋も見えています。世界的に知名度のある企業様との取引実績を増やし、グローバルな市場でさらなる成長を目指したいですね。

(※)フォーチュン・グローバル500:フォーチュン誌が毎年1回発表している、世界中の会社を対象とした総収益ランキングのこと。

編集後記

「成功するまでやり切る」という深津CEOの言葉には、強い意志と確固たる戦略が感じられた。企業からの信頼獲得に向け、粘り強くアプローチし続ける姿勢は、起業や事業拡大を志す者にとって貴重な指針となるだろう。日本発のグローバル企業を生み出すという夢が、着実に形になりつつある様子に胸が熱くなった。

深津航/1972年、愛知県生まれ。名古屋大学大学院卒業。1998年、日本オラクル株式会社に入社し、18年の就業期間を経て、2016年に株式会社Orbへ入社。2017年、株式会社Scalarを共同創業。2025年、代表取締役CEOに就任。