株式会社colyは、女性向けゲームアプリの開発やWebサービスの運営を行うコンテンツメーカーだ。主力サービスである「スタンドマイヒーローズ」と「魔法使いの約束」は、コミカライズや舞台化、アニメ化もされるほどファンが多い人気作品である。
今までどのような開発・運営に取り組み、ヒット作品を世に出してきたのか。代表取締役社長の中島杏奈氏に、同社の事業内容や強み、これからの展望などを聞いた。
挑戦しやすい開発現場から人気作品は生み出される
ーー貴社はどのような事業に取り組んでいますか?
中島杏奈:
女性向けゲームタイトルの開発・運営に取り組んでいます。いくつかリリースしているものの中で現在、大規模作品となっているのがスマートフォン向けゲームアプリ「魔法使いの約束」(2019年リリース)と「スタンドマイヒーローズ」(2016年リリース)、そして2024年5月にリリースした「ブレイクマイケース」です。
ーーどれも世界観がつくり込まれている素敵な作品ですが、開発・運営する上で大切にしているポイントはありますか?
中島杏奈:
まずはユーザー様ファーストで考えること。今の時代のIPは、お客様の息抜きではなく生きがいになると考えています。ですので、キャラクターコンテンツとしても、ゲームコンテンツとしても、お客様にとって信頼に値するものになっているか、長く寄り添えるIPになり得るか、といった視点を常に持つようにしています。
また各IPには素晴らしい技術と志を持った最高のクリエイターや技術者が社内外におり、皆さんのおかげで世界観の設定やシステム強化などを行うことができています。彼らが才能や実力を発揮しやすい環境を整えることが、良い作品づくりにつながると思っています。
ーー趣味嗜好が分かれるエンタメの分野において、お客様のニーズを捉えることは難しいことだと思います。その中で貴社が人気作品を生み出せたのはなぜだと思いますか?
中島杏奈:
自分も含めてですが、弊社のクリエイターや技術者が皆、いい意味でオタク的である、という点です。ゲームや舞台、アニメ、グッズ収集などを趣味に持つ社員が、ユーザー様と同じ視点を持って仕事に取り組んでいることが、作品にいい影響を与えていると感じています。
ーーゲーム作品の開発・運営以外にもメディアミックスや配信事業など、幅広く事業を展開しています。どのような思いで取り組んでいるかお聞かせください。
中島杏奈:
ゲームだけが好きな方もいれば、舞台だけ観に行く方、グッズだけ買う方など、いろいろな楽しみ方を持つお客様がいらっしゃいます。そういったお客様全員に魅力を届けることを目的として、制限を設けずに幅広い事業に取り組んでいます。
どの現場であっても、お客様一人ひとりの人生にとって大切な宝物を取り扱っている、という覚悟が必要な仕事だと考えています。
「泊まり込みで開発していた」少人数で乗り越えた創業 初期
ーー創業初期はどのようなことに苦労しましたか?
中島杏奈:
どの作品にも大きな情熱が集中的に注がれていますが、創業初期ということであれば、完全な手探りで始まった「ドラッグ王子とマトリ姫」(2015年リリース)と、2作目の「スタンドマイヒーローズ」の開発時期は印象的です。資金的にも厳しく、ショートしてしまう可能性がありながらも、なんとかリリースできて、お客様にも楽しんでいただけてよかったです。
当時は社員も少なく、「ドラッグ王子とマトリ姫」は3人、「スタンドマイヒーローズ」は9人で開発していたので、リリース前は会社に泊まり込みで作業を進めていました。
お正月休みも一切なく働いており、当時の開発メンバーは未経験者も多い中、なにもないところから参画し、最後まで頑張ってくれた社員・クリエイターの皆さんには本当に感謝しています。
また広告を多く出せない中で、リリース後はお客様が口コミで弊社の作品の良さを広めてくださいました。colyとは一体何の会社なんだ?というところからゲームをダウンロードし、遊んでくださったお客様にも本当に感謝しています。
新しいゲーム体験ができるグルーヴマッチパズルゲーム「ブレイクマイケース」をリリース
ーー2024年5月9日にリリースされた新作「ブレイクマイケース」はどのような作品ですか?
中島杏奈:
物語は、「スタンドマイヒーローズ」と同じ世界観で展開されるストーリーとなっています。
「スタンドマイヒーローズ」は青空が広がる昼の街が舞台で明るいイメージがあると思いますが、「ブレイクマイケース」は暗い空が広がる夜の街が舞台です。「スタンドマイヒーローズ」の世界観も大切にしながら、別の魅力も楽しめるような工夫が詰まっている作品です。
また、イラストレーターの雪広うたこ先生が描く最高のキャラクタービジュアルをはじめ、シナリオライターの藍田創先生が手がける素敵なストーリー、そして新しいジャンルの音楽パズルがかけ合わさっている点も魅力です。サウンドデザインには特に力を入れていて、ユニークで本格的なインストミュージックやボーカルソングも魅力です。
1度キャラクターを「推して」いただけるとさまざまな方法で楽しめるような作品になっているので、たくさんの人にプレイしてほしいと思っています。
最高のエンターテインメントを創る情熱的なオタク集団を
ーー5年後、10年後にどのような会社でありたいと考えていますか?
中島杏奈:
正月休みもなく開発していた「スタンドマイヒーローズ」の開発後半のゴールデンウィーク中、私がどうしても他県に行かなければならなかった日に、同じく休みなく働いていたアートディレクターから確認・催促の電話が何度も入り、この夢中さと情熱があれば、この会社はうまくいくと直感しました。
弊社は人の心を支えるエンターテインメントの力を、心の底から信じている集団でもあります。つまり、何よりもお客様に喜んでいただくために、チームで一生懸命になれる会社でありたいと考えています。
それから、オリジナルのIPを持ちながら、いろいろなことに挑戦している企業は多くないと思っています。弊社は自分たちのIPを大切にし、ゲーム事業・メディア事業・AIの活用という3つの軸で、自社IPの最大化を図っていくつもりです。
また、将来的には日本国内だけでなく、海外のユーザー層の獲得にも力を入れていきたいですね。昨今、ゲームの売上ランキングには海外の面白いゲームがたくさん入ってきており、ワールドワイドな競合と戦わざるを得ない市場になっています。これからは世界中のユーザーにも楽しんでいただける魅力的なIPをお届けできるよう試行錯誤してまいります。IPありきではありますが、コンテンツ性とゲーム性の両立が肝です。弊社の展開している作品は世界に普遍的に通用する魅力も内包していると考えていますので、今後も幅広く挑戦を続けます。
編集後記
中島社長は「弊社の社員は自社のIPが大好きで、お客様の気持ちに寄り添える集団だ」と語った。「1つのジャンルにとらわれず、需要があることには幅広く取り組む」というお客様ファーストの視点を持つ中島社長の思いが、同じ思いを持つ素晴らしいクリエイターや技術者を引き寄せているのだと感じた。
同社が日本だけでなく世界でヒットする作品を生み出す日は、そう遠くないだろう。
中島杏奈/早稲田大学教育学部卒業後、株式会社産業経済新聞社に入社。2014年に共同創業者である中島瑞木(現・代表取締役副社長)と株式会社colyを創業し、現在は代表取締役社長として経営全般を統括。