※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

インターネットが普及し、ニュースサイトを見れば世界中で起こっていることをリアルタイムで知ることができる。ただ、このニュースに関わる取材プロセスは人海戦術に頼っている部分も多く、効率化が課題とされている。

株式会社JX通信社は、まだまだアナログな報道産業をテクノロジーの力で効率化するサービスを提供している。代表取締役の米重克洋氏に、同社の「記者ゼロ人の通信社」としての取り組みを聞いた。

インターネット普及の流れを感じ報道ベンチャーを学生起業

ーー起業の経緯や現在の事業を選んだ理由を教えてください。

米重克洋:
もともと大学に入ったら起業しようと考えていました。ニュース・報道関係のメディア事業で起業したのは、私自身テレビや新聞が好きなニュースオタクだったこと、さらにインターネットの普及が始まっていたことも理由です。

インターネットの普及により、さまざまなメディアがオンラインで配信されるようになると、ニュースや報道のビジネスモデルも変わるだろうなと。この分野で貢献できる事業を始めたいと考え、起業しました。

ーー起業後はどういった苦労をされましたか。

米重克洋:
会社で働いた経験がないため、チームでどのように課題解決をして、お客様に価値を提供するかなど、すべて自己流で考えなければいけませんでした。失敗しては学ぶことを繰り返し、創業から3〜4年は事業が鳴かず飛ばずの状況で、かなりの時間を無駄にしました。

創業時に構想していたビジネスは、ニュースコンテンツをメディア同士で売買する仕組みを構築する事業です。この事業では、複数社でコンテンツをつくるため、企業がコンテンツを作成するコストを抑えるのに貢献できると考えました。

しかし、営業先などで話を聞くうちに、もっと人手が必要な部分に直接働きかける事業のほうが良いのではないかと考えるようになりました。

たとえば報道の領域では、現場に直接行って取材したり、警察や消防に電話して災害情報を取得するなど、人手を要する部分が非常に多いです。

人力な作業を機械化することでコストを抑え、報道産業が持続可能なものになる。このことに気づいて、事業の内容を方向転換しました。

人海戦術に頼りがちな報道現場をAIで自動化

ーーJX通信社の事業内容について教えてください。

米重克洋:
弊社では主に「FASTALERT(ファストアラート)※1」・「NewsDigest(ニュースダイジェスト)※2」・「JX通信社情勢調査※3」の3つの事業を手がけています。

「FASTALERT」は企業向けのサービスで、災害や事故、事件などのリスク情報をいち早く見つけてお客様へ知らせ、リスクを避けてもらうというものです。

「NewsDigest」は一般の方が無料で使えるアプリで、AIが情報価値を判断し、ニュース速報や事件・災害情報を配信。情報を受け取るだけでなく、ユーザーが事故などの情報を投稿すると、ポイントが貯まります。情報提供もできるアプリということで、現在600万以上のダウンロードがあります。

そして「JX通信社情勢調査」は報道機関を中心に提供しているサービスで、定量データを使って世の中で起きていることを明らかにします。たとえば人力で行っていた従来の世論調査を弊社のサービスで自動化し、さらにデータサイエンスを活用して、調査結果をもとに今後の予測を立てています。

(※1)FASTALERT

(※2)NewsDigest:iPhone版Android版

(※3)JX通信社情勢調査

ーー「記者ゼロ人の通信社」というキャッチコピーについて説明をお願いします。

米重克洋:
報道やメディアの仕事は人力な部分が多く、従来人海戦術に頼っていた業務フローを、機械化しバーチャル記者ネットワークのようなものを提供できたらと思っています。

弊社ではSNSやWebサイト、アプリなどで公開される断片的な情報を集めて、どこで何が起きたかをAI解析して配信しています。膨大な情報を人力で整理するのは難しいですし、AIで自動化しているという点がほかのニュースサービスや報道機関と弊社の違いです。

テクノロジーで報道の課題を解決する「通信社の新たな形」

ーー貴社が顧客に選ばれる理由は何だと思いますか。

米重克洋:
AIを活用している点と、専門チームによる情報確認が主眼である点だと思います。専門チームがその情報が正しいかどうかを確認することで、情報の正確さを担保しています。そのほか、人間中心で情報を扱っている企業と比べて扱う情報の量が多く、届けるまでの時間が速い点も弊社の強みです。

ーー今後、注力するテーマについて教えてください。

米重克洋:
私たちは報道ベンチャーとして、ジャーナリズムをビジネスとして実践できる会社が必要だという問題意識を持っています。

ただ、ジャーナリズムをビジネスとして実践するためには人海戦術では限界があるため、テクノロジーで再現していく必要があります。それが、私たちの存在意義です。

情報データを使ってお客様の課題を解決する「新しい通信社」の形を、弊社が今後もつくっていきたいですね。

編集後記

事業について淡々と語る米重氏だが、言葉の節々から「テクノロジーで報道産業を変える」という熱い思いがひしひしと伝わってきた。同社がつくる新しい通信社の形が、どのようにして業界を変えるのか。米重社長の今後の活動を引き続き応援したい。

米重克洋/1988年山口県生まれ。聖光学院高等学校(横浜市)卒業後、学習院大学経済学部在学中の2008年にJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、国内の大半のテレビ局や新聞社、政府・自治体に対してAIを活用したリスク情報を配信するFASTALERT、ニュース速報アプリNewsDigestを開発。他にも、選挙情勢調査の自動化ソリューションの開発や独自の予測・分析を提供。