※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

2012年に設立されたAtCoder株式会社。日本の「AtCoder」といえば、ロシアの「Codeforces」、アメリカの「Topcoder」に並び、世界三大コンテストの一つに数えられる競技プログラミングサービスだ。メイン事業は、プログラミングのスキルを競うコンテストの企画・運営のほか、ITエンジニアの採用支援と能力判定である。代表取締役の高橋直大氏に、創業の経緯やビジネスモデルの強み、今後の展望をうかがった。

プログラミングに魅了され、仲間とコンテスト運営会社を設立

ーー起業した経緯をお話しいただけますか。

高橋直大:
大学で政策・メディア研究科を専攻していた僕は、高校3年の頃からプログラミングコンテストに出場していたことから、機械学習系のゼミに所属しました。そこで出会った4人の仲間と、2012年4月に競技プログラミングのコンテスト「AtCoder Regular Contest(ARC)」を主催したことが、弊社の設立につながります。

実はコンテストの初開催は起業の2ヶ月前で、僕は修士課程の1年目でした。学部やゼミ内では異色と言える分野に取り組んでいたものの、大学全体に学生起業を応援する風土がありました。いろいろな人が集まり、幅広く活動できる環境が起業の原動力になったのです。

ーーどのような思いでコンテストを立ち上げたのでしょうか?

高橋直大:
自身が英語を苦手としていたこともあり、「日本語でやりとりできるコンテストで競技を盛り上げたい」という思いがありました。当時は、プログラミング大会の多くが英語圏での開催だったのです。日本にも大きなコンテストはありましたが、海外と異なり、高頻度で定期的に開催しているコンテストはありませんでした。

また、2006年頃はプログラミング大会自体の認知度が低く、周囲には競技の面白さを理解してもらえない状況だったのです。僕は学生時代に野球部に所属しており、甲子園を目指す上で数多くの練習試合に参加した経験があります。試合が実力アップに効果的だと考えると、プログラミングの世界にも力を試す機会がたくさんあった方がいいと思い、海外レベルのコンテストを日本で増やすことにしたのです。

世界レベルのプログラマーが集うサービスに就活機能をプラス

ーー事業内容を教えてください。

高橋直大:
ネット上でプログラミングコンテストを開催する、「AtCoder(アットコーダー)」というWebサイトを開発・運営しています。スポンサー様にご支援いただいたり、既存のサービスや企業と連携したり、IT周辺の事業で収益を上げるのが主なビジネスモデルです。

僕は今でもチームで海外のコンテストに参加するほど、競技プログラミングが大好きです。ひとりで黙々と問題を解くよりも、大勢の人と競い合う時間が楽しく、その気持ちがAtCoderの「プログラミングの楽しさを広げる」という根底になっています。

ーービジネスとしての強みもうかがえますか?

高橋直大:
参加者のスキルレベルや人数において、世界最高峰の競技プログラミングサイトであることが強みです。「世界一に続く道をつくる」という弊社の趣旨は、プログラマー向け求人情報サービスの「AtCoderJobs」を運営する上でも、訴求ポイントの一つになっています。

コンテスト参加に熱心な人は、毎日10時間ほど勉強します。競技の特性が強いので、一般的な業務に直結しないとしても、向上心の高い優秀な人材として多くの企業が歓迎するのです。IT系企業だけでなく、DXを強化したい建設会社など、就職の選択肢を示す側面もありますね。

応募者はコンテストでの平均成績を示す「レーティング」を記載する必要があり、企業側は求めるレベルの人材とマッチングしやすくなっています。

近年はコンテストを主催する企業も増えてきました。AtCoderの参加者が就活を始めるタイミングで企業を思い出すなど、学生に存在を印象づける効果は絶大だと言えるでしょう。企業からのアプローチも可能であり、お互いのベストタイミングで新卒採用が実現できます。

競技プログラミングの魅力を中高生に伝え、部活動のように取り組める文化へ

ーー今後の展望や経営方針をお聞かせください。

高橋直大:
顧客の新規開拓においては、プログラマーとして活躍するようになったユーザーが、コンテストを提案してくれるケースが少なくありません。競技プログラミングという文化を守り続けるためにも、ユーザーの心を掴み続けることを何よりも大事にしたいと思います。

弊社がやりたいことは、あくまでも趣味として楽しめる競技プログラミングの先導です。その理念に共感してくれるユーザーが多く、サービス満足度にもつながっています。

一方で、AIの発展によりプログラマーの未来は読めなくなってきました。運営コストを確保するため、採用に紐づくビジネスを回す上で、僕たちはコンテストに付加価値をつけていかなくてはならないでしょう。新しい仕事の種を見つけながら、成長していきたいところです。

僕には、学校の部活動やスポーツのように競技プログラミングを楽しむ文化をつくる、という夢もあります。中高生を対象とした「AtCoder Junior League」を立ち上げたほか、学校での講演を無償で行うなど、引き続きいろいろな取り組みに注力していく予定です。

編集後記

サービス運営者の資金不足やビジネスの多角化によって、開催されなくなることも多いプログラミングコンテスト。AtCoderはどんなにサービスが有名になろうとも、「競技として楽しむ」というコンセプトで、参加者やスポンサーの信頼を得てきた。エンジニア人材が足りない業界がある一方で、仕事をAIに取って代わられる未来も危惧されている昨今。競技プログラミングは、人が集まるからこそ価値のある文化として進化していく。

高橋直大/1988年生まれ。慶應義塾大学 政策・メディア研究科 修士課程を卒業。Microsoft主催のプログラミングコンテスト「Imagine Cup 2008 Algorithm部門」で世界3位を獲得。2012年、修士1年の在学中にAtCoder株式会社を設立。代表取締役に就任。現在も「Google Hash Code 2022」での優勝を含む、多くの大会で実績を重ねている。