
美山理研工業は、「めっき」による高い表面加工技術を活かして「表面のデザイン」という独特の分野で存在感を発揮する会社だ。同社の立役者と呼べるのが、2017年に代表取締役社長に就任し、表面のデザインで事業を成長させる方向性を打ち出した水谷允哉氏である。これまでどのような取り組みを行い、今後、どのような会社を目指しているのか。その努力やこだわり、今後の展望などについて聞いた。
事業の方向性や職場環境の徹底的な改善など、数々の大胆な取り組みを進める
ーー水谷社長の経歴をお聞かせください。
水谷允哉:
美山理研工業は家業なので、幼い頃から会社を継ぐことを意識して育ちました。学生時代は会社の発展に何が必要かと考えながら過ごし、大学卒業後はアメリカへ留学して、異文化や多様な視点、仕事との向き合い方など、ビジネスに必要な価値観を学びました。
美山理研工業に入社することになったのは、日本に戻って表面処理の会社で1年間修行をした後のことです。常務という役職付きで入社したのですが、当時はそこまで規模が大きくなかったため、実際のところは、現場作業から営業、事務処理まで何でもこなしていました。
この時期に役立ったのが、アメリカ留学で培った、仕事とプライベートを明確に切り替える姿勢です。この姿勢を保てたおかげで、仕事に対して自然体で向き合うことができ、経営戦略や業務改善などに関する多くのアイデアを生み出せました。
数々のアイデアの中でも、2017年の社長就任後に「表面のデザインで付加価値を高める」という事業の方向性を定めたことは、弊社のターニングポイントともいえる大きな要素だったと思います。大胆な決定をしたからこそ自社の武器が明確になり、他社との差別化によって単価を大幅に上げることが可能になったのです。
ーー社長就任後に、会社を改善するために取り組んだことを教えてください。
水谷允哉:
まず着手したのは、労働環境の改善です。社長に就任した直後は、社会から必要とされる会社にしたいと思っており、そのための方法を模索していました。
その中で私が行きついた方法の一つが、社員たちが気持ちよく働ける環境を整えることです。食堂のリニューアルやジムの設置、フリードリンクの実施、月に1度の全社清掃日など、多方面で労働環境の改善を図り、社員ひとり一人のポテンシャルを引き出せる環境を整えることに力を注いだのです。
これらの取り組みは、離職率の低下や女性社員の割合の増加など、さまざまな結果につながりました。製造業で女性社員が活躍しているということは、多くの社員が活躍できる会社を象徴する大きな成果だといえるでしょう。
長年の積み上げと新たな視点が交差する、温故知新の会社運営

ーー他社と差別化できる、貴社独自の強みは何ですか?
水谷允哉:
弊社の強みは「表面のデザイン」という、独自性の高い事業に取り組んでいることです。1958年の創業当時から積み上げられてきた技術力と発想力に裏打ちされているため、一つひとつのアイデアに説得力があります。
また、小ロット生産やカスタムオーダー品への対応など、人の手を必要とする部分にあえて取り組んでいることも強みです。ロボットや自動化技術がフィーチャーされがちな昨今において、手作業が持つ風合いや繊細さを前面に打ち出すことで、弊社だけの価値創出につなげています。
一方で、IT技術の活用にも取り組んでいます。代表的な例がKintoneを使い独自の管理システムを設置したことです。全ての製品にQRコードを設置して標準処理手順や検査結果を参照できるようにし、技術力の均一化や技術の伝承に取り組んでいます。
大切なのは、ローテクの良さを見失わない姿勢とハイテクの積極的な利用のバランスです。これらの両立が弊社の強みであり、どんな時代でも通用するオペレーションが実現するのではないかと考えています。
表面をデザインする可能性をさまざまな分野へ広げていくための戦略とは

ーー採用では、人材にどのような条件を求めていますか?
水谷允哉:
当社では、ものづくりに対して真摯で、成長を続けていく意欲のある方を求めています。ものづくりの世界で成長するためには、どうしても多くの時間と労力が必要なので、この条件を満たしていることが求められます。
そして、このことを前提としたうえで、営業と技術の間でバランスよく成長していける方が理想的です。技術面の知識がしっかり身についていると、知識に基づいた大胆な営業が可能になり、顧客との信頼関係構築の際に大きな力になるのです。
そのような人材を育て上げるために、先ほど紹介したような社員が力を発揮できる環境をしっかりと用意していますし、業務上の悩みについても、定期的な1on1コミュニケーションによる早期解消を心がけています。日常的にサポートしていく体制が整っているので、ぜひ弊社でものづくりの人材として成長を遂げていただければと思います。
ーー今後、特に注力したいテーマをお聞かせください。
水谷允哉:
表面をデザインする新たな可能性を探るために、新たな分野に挑戦していきたいと考えています。まずは、住宅業界でデザインと機能性を兼ね備えた高付加価値のソリューションを提案し、そこから自動車内装分野のような、技術を応用しやすい分野へと手を広げていくことで、対応できる範囲を着実に増やしていきたいですね。
すでに住宅関連製品のメッキ加工を進める新ブランド「mequi(メキュイ)」を立ち上げており、独自のカラーや加工技術を発信する取り組みも進行しています。今後は、このブランドを新たな顧客層へリーチするための軸にする方針です。
そして、さまざまな分野から必要とされる会社を目指し、多くの顧客から「表面のデザインといえば美山理研工業」と思われるような存在になりたいと考えています。そのために、ものづくりの現場からイノベーションを創出するという信念のもと、顧客に新たな価値を提供し続け、未来を切り開く企業であり続けたいです。
編集後記
美山理研工業の「表面をデザインする」という取り組みは、デザインに込められたこだわりやメッセージ性を介して消費者と信頼関係を構築する、1つのブランディング手法と言えるのではないだろうか。現在は限定的な業界で活躍しているが、住宅業界を足掛かりに広く進出していけば、多くの企業がその事実に気づくはずだ。水谷社長が目指す、表面をデザインする第一人者というポジションになる日も近いだろう。

水谷允哉/1978年岐阜県生まれ、大学卒業後、2年間アメリカに留学する。2004年に美山理研工業に入社し、2017年に同社代表取締役社長に就任。