
商業施設や店舗、オフィスのプロデュースから、デザイン企画、設計、施工まで一気通貫で幅広い業務を手がけている株式会社ワクト。同社は、恵比寿の「イル・ボッカローネ」や原宿の「オーバカナル」など、有名レストランをはじめとした数多くの施設をプロデュースしてきた。
業種を問わず、さまざまな企業がワクトに空間プロデュースを依頼する理由とは何なのか。代表取締役の和田豊次氏に、同社の創業経緯や強み、今後の展望などを聞いた。
デザインの世界に憧れて独立後、空間プロデュースの会社を設立
ーー創業までの道のりを聞かせてください。
和田豊次:
建築の専門学校を卒業後、現場監督の仕事に就きました。その後、21歳でワクトの前身となるデザイン会社を立ち上げました。当時はデザインという概念自体が生まれたばかりの頃で、興味や憧れがありました。また、デザインの世界に行けば、専門学校で学んだ建築の仕事もできますし、いろいろな場所で仕事ができるのは夢があると思ったことも立ち上げのきっかけです。
22歳の頃には、かつて渋谷で有名だったカフェバー「TOP DOG」 の軽井沢店のデザインを請け負いました。ただ、当時の自分は何をしたいのか曖昧な部分があったため、デザインの仕事だけでなく、音楽や俳優の勉強などもしていましたね。
その後、26歳のときに空間デザイナーの松井雅美さんの存在を知り、「空間をプロデュースする」ということに興味が湧きました。彼のもとでデザインやプロデュースについて学び、29歳のときにワクトを創業したという次第です。
弊社設立後、最初に建築を手がけた恵比寿のレストラン&カフェ「イル・ボッカローネ」が爆発的にヒットし、これが会社の起点となりました。
全国にネットワークがあり、職人の技で施工まで一貫して手がけているのが強み
ーー貴社の強みはどういった点にありますか。
和田豊次:
今年で創業37年を超える実績と、建築から施工まで一貫して建物のプロデュースを行っている点が強みです。土地の情報にも精通していますし、デザイン性を加えた建築を手がけることもできます。
施工まで手がけるデザイン会社は少ないですが、弊社は企画・設計・施工をすべて担い、現在まで真摯に取り組んできました。そのほか、全国にネットワークがあり、どこでも対応できること、職人技によって型式に縛られない建築ができることなども強みです。
そして、弊社の強みを盤石にしているのが、関連企業のTOYO PLANNING(トヨプランニング)です。同社では、不動産売却仲介・購入仲介業務や飲食店・スタジオ経営などのコンサル、ブランディング業務を行っています。
そのほか、同社がディベロッパーという責任ある立場で建物を借り上げて、飲食やサウナ事業なども行っており、自由度の高い建築を実現できています。
空間プロデュースの力で地方と海外双方に価値を提供する新たな取り組み

ーー今後、注力したいことを教えてください。
和田豊次:
東京には数万にも及ぶ中小の建物があり、その中には「こんな建物ではお客様が来ないだろう」という物件がたくさんあります。弊社は、これを大きなマーケットと捉えています。
弊社には、これまで1,000件を超えるプロデュース実績があり、たくさんの人たちと関係を築いてきました。今までのコネクションを活かしながら、こういった建物をかっこよく、借り手が見つかりやすいように設計していきたいです。
また、常に「一軒のお店からでも街は生まれかわる」という気持ちで取り組んできましたので、今後はさらに街の再生事業にも力を入れていく予定です。現在進めている佐賀県呼子や新潟県上越などの案件を通じて、地方の課題にも取り組んでいきたいと考えています。
そのほかに注力しているのが、海外でのビジネスです。すでにニューヨークの設計施工会社と業務提携契約を締結し、全米で仕事をするべく進めています。海外でビジネスを始めたい日本人は多くいますし、日本の素晴らしい文化を海外で受け入れてもらえるようなプロデュースにも力を入れていきたいです。
ーー最後に、今後のビジョンをお願いします。
和田豊次:
弊社では今、人材を育成するための組織づくりを意識的に行っています。たとえば世の中には、電車で高齢者に席を譲らず、ずっとスマホを見ているような人も少なくありません。
そういった無関心な態度ではなく、他人にお節介をするくらいの優しい心を持つことが大切で、仕事で良い結果を生むことにもつながると私は考えます。このような価値観を育むための人材育成も、経営者として行っていきたいです。
編集後記
同社が社屋として活動拠点にしている「HAMACHO FUTURE LAB」が、2024年度グッドデザイン賞を受賞し、ウッドデザイン賞においても2部門で受賞した。同社の空間プロデュース力は、業界を越えて高く評価されている。
同社は高い空間プロデュース力で、空間だけでなく街を変え、人々の生活をより良いものにしていくことだろう。

和田豊次/東京生まれ。幼少期から家業の工務店を経営する両親の影響を受けて育つ。1989年3月、29歳の時、株式会社ワクトを創業。当時、一世を風靡した数々の飲食店を手がけたことをきっかけに、今年で創業から37年続く企業に発展させてきた。