※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

日本の高齢化と同じく、土木工事を請け負う建設会社も高齢化の波にさらされている。しかし、神奈川県横須賀市には社員の平均年齢が34歳という驚異の若さを誇る、株式会社花和産業という建設会社がある。

同社を若返らせた人物こそが、2025年に代表取締役への就任を予定している常務取締役の永井啓太氏だ。永井常務は入社以来ずっと会社の待遇改善に取り組んでおり、この5年間で社員の平均年齢を約20歳も若返らせた。

なぜ短期間でここまでの結果が出せたのか。永井常務に今までの取り組みやこれからのビジョンなどを聞いた。

会社を引き継ぐからには全力で責任を負う!かつての無念を乗り越えて変革に取り組む

ーー永井常務の経歴をお聞かせください。

永井啓太:
弊社は祖父が創業した会社ですが、もともと私は会社を継ぐ意思はなく、大学卒業後は馬淵建設株式会社に就職しました。

しかし、馬淵建設に在籍中に当時社長だった父から「引退を機に会社をたたもうかと考えている」と言われ、改めて会社の今後について話し合いました。

そして父とよく話し合った結果、従業員たちの将来を考え、社長を継ぐことを決意。30歳のときに、次期社長を前提として弊社に入社しました。現在の役職は常務取締役で、2025年に父の跡を継いで代表取締役に就任する予定です。

ーー社長に就任してから、特に注力したことは何ですか?

永井啓太:
社員の待遇改善、特に給与面の改善に注力しました。私が入社してしばらく経ったころ、3年目の社員が「この会社には未来がないので辞めたい」と言い残し退社する出来事が起こりました。

これに衝撃を受けた私は改めて弊社の環境を見直しました。すると、建設業に多い日給制が社員たちの生活を脅かしていることに気づきました。雨の日は現場に行けないので休みになりがちで、連休と重なった場合などは特に給与が大幅に減ってしまうのです。

そこで私は社労士と協力しながら、数カ月という短期間で社員が月給制を選択できるようにしました。昼は現場、夜は事務所、夜中に給与制度の見直しと、忙しい日々でしたが、おかげで社員たちの生活が安定し、本当にやってよかったと感じています。

また、雨の日も出勤するようになったので社内や重機を清掃する習慣も付きました。機械が清潔だと気持ちがいいですし、会社のイメージアップにもつながっています。

それと合わせて、会社の担い手を獲得するための新規採用を始めました。最近は広告業で働いている妻に手伝ってもらいながら、SNSにも積極的に取り組んでいます。

平均年齢「34歳」の若さを武器に横須賀市周辺の土木工事に尽力

ーー貴社の事業内容を教えてください。

永井啓太:
公共工事を中心とした土木工事が主な仕事内容です。中でも急傾斜地における崩壊対策工事の案件が多くあります。

崩壊対策工事というのは、急傾斜地の表層崩壊や地滑りを防止するための工事で、法面にコンクリートやモルタルでできた格子状の枠を設置して、そのあとに吹付を行うものです。鎌倉から逗子の間の海岸エリアを多く請け負っています。

ほかには下水道の更新案件もあります。下水道の更新は神奈川県内に対応できる会社が少ないので、横浜市や小田原市など遠方の現場も請け負います。

また、横須賀市の災害協力事業者になっているので、台風や降雪などにより災害が発生した場合は緊急対応に駆けつけます。もちろん危険は伴いますが、地域の方から感謝されることが多く、誇りをもって取り組める仕事です。

ーー貴社独自の強みは何ですか?

永井啓太:
社員の平均年齢が若いことと社員数が多いことです。

弊社の平均年齢は34歳と、高齢化が問題視される建設業の中ではかなり若いです。5年前から継続的な採用をすることで、当時の55歳から約20歳も若返りました。さらに採用で社員数が増え、今では1日約50人が働くこともあります。これだけ社員が若く規模が大きい建設会社は珍しいと思います。

毎年新入社員が入ってくると、社内の風通しが良くなり雰囲気も明るくなります。それまで寡黙だった社員が新入社員を熱心に指導してくれるなどといった例もあります。

新入社員の育成は計画的に進めており、5年目までに約20種類の資格をスケジュールに沿って取得していきます。資格の取得費は会社が負担するので、社員はのびのびと資格取得に励むことができます。

目指すは「安心して未来を描ける会社」の実現

ーー10年、20年後にはどのような会社にしていきたいですか?

永井啓太:
社員が安心して未来を描ける会社です。かつて「会社に未来がない」といわれた体験は今でも私の中に残っており、二度と会社に絶望する社員を出さないという決意に変わっています。

具体的にはかつてオーソドックスだった、結婚して家を買って、家族と幸せに暮らすというモデルを安定して実現できるようにするのが目標です。ここ5年で少しずつ実現できていると思うので、今後もより良い環境を目指していきます。

そしていずれは、弊社の努力を地域へ波及させ、次世代の人々を裕福にすることにつながればと思っています。横須賀は地域的・経済的な要因により大学進学を選ぶ人が少なく、収入が低くなりがちな地域課題があります。しかし、弊社でしっかり収入を得られるようになれば、そこから先の世代が豊かに変わっていくかもしれません。

そのためにも会社の規模を大きくしていく必要があります。これからも採用を毎年続けて、近いうちに100人企業になれるように頑張っていきます。

これからも新しい世代とともに未来を描き続けたい

ーー貴社ではどのような人材が活躍していますか?

永井啓太:
横須賀市を中心とした地域の方が多く集まっています。また、工業高校や中学校とのつながりから、学校の先生の推薦で入社する方も多いですね。主な採用区分は新卒です。

かつては「未来がない」とまで言われた弊社ですが、今では若者を中心に優秀な人材が増え、一緒に未来が描けるような会社に変わってきています。

もちろん、今でも別の道を目指して退職する社員はいます。しかし、それは待遇が悪かった過去の弊社とは違ったポジティブな退職です。私はこの変化がとても嬉しく、夢を追う彼らを全力で応援する決意です。

弊社は変革を始めて約5年が経ちます。環境が良くなってきたとはいえ、まだまだ道半ばなので、ぜひ皆さんのような新しい世代の力を貸していただければと思います。

編集後記

長年続いた仕組みを変えるには多大なエネルギーが必要だ。「給与」という根本的かつ複雑な部分を数カ月で改革した永井常務の熱量は「圧倒的」としか言いようがない。しかもその熱は会社の枠を超えて地域へと広がり始めている。きっとこれからも、横須賀の熱の発信地として地域に良い変化をもたらし続けるだろう。

永井啓太/1984年、神奈川県生まれ。同志社大学卒業。馬淵建設株式会社にて5年の修業期間を経て株式会社花和産業に入社。2025年に代表取締役就任予定。NPO法人アスリードにて中学・高校生の就学サポートなど、学校教育活動にも注力している。