※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

ビルメンテナンス業界向けに清掃用品を提供している株式会社阪和。同社は清掃機材や掃除道具に特化しつつも、文具やオフィス用品まで、顧客が必要とするあらゆる商材を取り扱っている。清掃機器の修理部門や自社商品開発など、顧客のニーズを叶えるための取り組みにも積極的だ。売上重視の経営から、社員一丸となって利益重視の経営へと転換し、着実な成長を遂げている同社の代表取締役社長、米谷之宏氏に話をうかがった。

修行を通して築いた経営者としての基盤

ーーもともと家業を継ぐ予定だったのでしょうか?

米谷之宏:
弊社の話を聞く機会はありましたが、継ぐ予定はありませんでした。父は家業である弊社の他に、ビルメンテナンスの事業を行う冨士ファシリティーズ株式会社を創業し、そちらの経営も行っていました。ですが、私が幼いころは詳しい事業内容を知りませんでしたし、父から会社を継いでほしいと言われたこともなかったのです。

思い起こせば、大学受験で挫折を味わったことが、弊社に入社する大きなきっかけだったのかもしれません。就職活動を行うタイミングで父と将来の話をしたことを機に、「私が社会で認めてもらうには父の会社で家族同様の社員の皆さんと一緒に働き、自分の力を試してみるのもいいのではないか。社員のため、お客様のため、社会のためにがんばってみよう」と考えるようになりました。

そんな矢先、弊社の仕入れ先の1社から、「うちで働かないか」と声をかけていただいたのです。勤務先が東京と聞いて、親元を離れるいい機会だとも思い、入社を即答しました。こうした経緯から、父の会社に入る前に、修行させてもらうことになったのです。

ーー修行先ではどのようなご経験をされましたか?

米谷之宏:
カーワックスやタイヤクリーナーなどを扱う自動車製品部で、営業職を3年経験しました。当時は、社長が新しいことに挑戦するべく舵をとった時期だったため、車関連の自社商品の販促を積極的に行いました。当時のCMソングにもあったように、24時間働くことが当たり前のような時代でしたが、今振り返ると、とても充実していたと思います。

またこの頃は、店頭販売の手伝いをしながらユーザーの声を直接聞くなど、消費者心理の研究も熱心に行いました。というのも、その会社は代理店を通して販売していたため、代理店に商品を買ってもらうには、その先にいる消費者が欲しくなるような企画が不可欠だったのです。今は仕入れる側の立場ですが、この経験のお陰で仕入れ先の考え方もわかるようになりました。ときには、ジレンマを感じることもありましたが、両者の視点を持てたことで、ものごとを俯瞰で捉えられるようになったと思います。

ーー貴社ではどのようなキャリアを経て、社長に就任されたのでしょうか?

米谷之宏:
弊社に入社してからは、倉庫管理からはじまり、配送業務、営業と段階を踏みながら、会社のことはもちろん、商品やお客さまの情報を少しずつ蓄えていきました。営業時代に多くの時間を費やしたのは、既存顧客との信頼関係を築いていくことです。

さらに、営業と並行してファミリービジネスである冨士ファシリティーズの業務にも携わるようになりました。弊社の社長に就任したのは43歳のときですが、そのときすでに冨士ファシリティーズで社長を経験させてもらっていましたね。

ーー社長に就任してからどのような苦労がありましたか?

米谷之宏:
時代に合わせて、少しずつ会社の方針を変えていくことに苦心しましたね。父は誰もが一目置くようなカリスマ性を持っており、事業拡大を重視した経営で弊社を成長させてきました。私の代では、バブルがはじけて事業環境が変わってしまったので、これまでの売上を追求する経営から利益を追求する経営に方向転換する必要がありました。

利益を追求するためには、利益率の高い商品の仕入れや仕入れ先の新規開拓が必要です。父の代ではトップセールスが中心となって会社を回していましたが、私の代で全員で力を合わせて営業を行う体制に変更しました。そのため、考え方が異なる父とはよく衝突したものです。入社当時は父に憧れのようなものを持ち、彼のようになるにはどうしたらいいかと随分悩んだ時期もありましたが、自分らしく、お客さまや社員のために力を尽くすことが大事だと気づきました。

多様な顧客ニーズに応える幅広い商品と確かな商品開発力

ーー貴社のサービスについて教えてください。

米谷之宏:
弊社は、主にビルメンテナンス会社向けに、掃除道具を販売しています。加えて、文房具などのオフィス用品も扱っており、お客さまが必要とするものを迅速に提供できる体制を整えています。幅広い商品を扱う理由は、ひとえに「欲しいときに欲しいものを、適正な価格で欲しい数だけお届けする」ことを心がけているからです。

また、弊社は社内にあらゆるメーカーの清掃マシンに対応できる修理部門があります。販売店として修理部門を立ち上げたのは、業界内では弊社が先駆けかもしれません。さらに、お客さまの声を反映させた商品開発も行っています。たとえば、「足元注意マット」は、清掃中の案内をしつつ足元を拭けるようなものが欲しいという声から生まれました。マット自体に「清掃作業中」の文言を入れることで、転倒事故防止に役立つだけでなく、視覚的に注意を促せる商品に仕上がっています。

ーー貴社の強みはなんでしょうか?

米谷之宏:
円滑なコミュニケーションにより相互扶助の関係が成り立っている点です。私は、社員も家族という位置づけで接しています。そうした姿勢によって社内は風通しが良く、社員同士のコミュニケーションがしっかりとれる仲の良い会社となり、互いに助け合って仕事ができるフランクな社内環境ができているのです。三方良しのように、お客さまはもちろん、社員やその先にある社会も大切に考えています。

時代に合わせた新しい市場の開拓に注力

ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

米谷之宏:
これからも利益を追求していくためには、新規顧客の開拓が肝になるでしょう。今後はビルメンテナンス企業だけでなく、飲食店やアパレルショップなどにもアプローチしたいですね。というのも、自社でビルメンテナンスを行う企業が増え、プロ仕様の掃除グッズの需要が広範囲に及ぶようになったからです。

また、近年は流通経路がネットに広がったことにより、人のつながりが希薄になってきていると感じます。以前は、納品時に直接ニーズを聞き出したり、意見交換をしたりしていましたが、今はそうした機会が少なくなってきているのです。だからこそ、年に一度天満橋で開催する展示会をはじめ、SNSなどでも積極的に情報を発信することが重要だと考えています。

加えて、一般ユーザー向けのネット販売にもこれまで以上に力を注いでいく方針です。そうして得た利益をデジタル化や人材へ投資することはもちろん、社員の所得を上げるためにも使いたいと考えています。こうすることで、会社としてさらなる成長を目指す方針です。

編集後記

創業以来の経営方針を改革し、全社一丸となった営業体制を築き上げた米谷社長。途中には、父との衝突や葛藤もあったという。しかし、インタビューを通じて語られた言葉からは、むしろその経験が現在の経営スタイルを形づくる糧となったことが感じられた。社員との信頼関係を大切にしながら、新たな市場開拓に挑む同社の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

米谷之宏/1965年、大阪府生まれ。大阪工業大学を卒業後、株式会社リンレイに入社。3年の修業期間を経て、1991年に株式会社阪和へ入社。2009年に同社代表取締役社長へ就任。2024年、日清会の会長へ就任。同業者間の情報交換活動にも注力している。