※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

日々の食卓を彩り、特別な瞬間を演出するテーブルウェア。株式会社丸勝は、昭和41年に創業された、陶磁器・ガラス・木製品・金属などのテーブルウェアの企画制作、卸売、小売を手掛ける企業だ。

伝統的な美濃焼をベースにしつつ、斬新なアイデアとデザインが特徴で、国内外にその魅力を発信している。代表取締役の小木曽勝信氏は、波乱に富んだ経験を経て、唯一無二のうつわづくりと独自の経営戦略で同社を牽引してきた。これまでの道のり、丸勝の強み、そして未来への展望について話を聞いた。

『惚れて買われるうつわ』を目指して。丸勝の挑戦と転機

ーーまず、御社の事業内容と強みについてお聞かせください。

小木曽勝信:
弊社は、美濃焼を中心に陶磁器やガラス、木製品などのテーブルウェアを企画・販売を行う会社です。特に重視しているのはデザイン性で、石の肌を再現した陶器や金彩の器、陶器製のお盆など、目指しているのは、和洋問わず使える『かっこいい和食器』(※)です。企画は私自身が担当しており、自然やアパレルからインスピレーションを得ています。

(※)「とうしょう窯

弊社のうつわは、高級ホテルや旅館、結婚式場などでも採用されています。意図していたわけではありませんが、結果として上質なライフスタイルを求める層に支持されています。ある老舗飲食店からは、『とうしょう窯のうつわに載せたら料理が生きる』との声をいただき、関東地区の店舗で切り替えが進んでいます。

事業はOEMと店舗販売が柱で、売上の7割はOEM生産によるものです。アパレルブランドやキャラクターグッズ、テレビ局など多様な顧客に対応しています。店舗は東京・かっぱ橋道具街に出店しました。あえて営業担当を置かず、目的を持ってうつわを探す人が訪れる東京・かっぱ橋で、お客様が商品に『惚れる』ことを重視し、販売を行っています。

ーー小木曽社長ご自身のこれまでの道のりと、事業の転機について教えてください。

小木曽勝信:
弊社はもともと両親が始めた小さな問屋で、父も私に継がせるつもりもなかったようです。中学2年生のときに「高校を卒業したら、一人で生きていってくれ」と言われたことを覚えています。そこで、自分で生きていくためにはと考え、商業科に進学しました。

高校卒業後はホテルでシェフとして働き、いずれは自分の店を、と思っていましたが、バブル崩壊で立ち行かなくなった家業を支えるため、弊社に入社したのです。

大きな転機は、ギフト市場の下請けから有名テーマパーク関連のOEMで売上5億円まで伸ばした時期です。ただ、叔母から「事業は何が起こるかわからない」と忠告されたことや、販売数が未定の中で発注個数を先に制作して自社にストックしておく必要があったため、利益はあっても在庫が多くキャッシュが不足する「利益倒産」が起こるのでは、という危機感を強く感じましたね。

この経験から、OEM一本ではなく自社ブランドによる販売へ舵を切る決意をしました。周囲からは反対されましたが、かっぱ橋を実際に訪れ『人々がうつわを目的に来る街』だと確信し、銀行や物件との良縁にも恵まれて出店したのです。

しかし、開店初年度は赤字が続き、社員の多くが退職してしまいました。さらに東日本大震災の影響もあり、1日数人しか来店しない日が続き、「もう無理かもしれない」と思ったこともあります。それでも、お客様が「良い商品に出合えて良かった」と感謝してくれたことで、再び前を向くことができました。おかげさまで今期は店舗も含めて、事業全体が過去最高売上を記録しました。

器の美を世界へ!丸勝が見据える未来のものづくり

ーー今後の展望と挑戦についてお聞かせください。

小木曽勝信:
日本市場の縮小を見据え、今後は世界80億人の市場へ目を向けているところです。すでに南アメリカでの販売を開始し、まずは日系企業を通じて現地の日本食レストランなどに販路を拡大しています。海外展開では、日本で製造したうつわを大切に扱ってくれる現地パートナーとの協業を重視しています。

また、供給体制強化も重要です。関連会社「協進加工株式会社」を子会社化し、外注していた制作を内製化し、柔軟な納期対応が可能となりました。高齢化が進む職人の手作り、手書きなどといった繊細な技術の継承や、当初5人だった従業員が70人まで拡大した中で、時短で働くパート従業員の働きやすさにも取り組んでいます。

将来的にはM&Aを活用し、手づくり陶器や加工技術のさらなる内製化、大量生産への対応も視野に入れています。売上目標は設けず、適正な価格で売れるブランドとして評価され、世界での価値を高めていきたいです。

ーー最後に、小木曽社長が最も大切にしている価値観は何でしょうか?

小木曽勝信:
お客様に喜んで丸勝のうつわを購入いただき、それによってお客様やその先の顧客が幸せになることですね。この「Win-Win」の連鎖が、私の使命だと感じています。

銀座のレストランオーナーが『うつわのおかげで店の評価が上がった』と大量購入してくれたり、若手料理人が『やっととうしょう窯のうつわが買えるようになった』と報告してくれ、私も涙が出るほど嬉しかったことを覚えています。

また、飲食店でうつわを見かけたお客様が、どこの商品かを尋ねて買いに来てくださることもあります。そうした瞬間に「この仕事をやっていて本当に良かった」と心から実感します。

事業は今後も拡大していきますが、この感動や価値観は、ずっと大切にしていきたいです。

編集後記

小木曽社長へのインタビューを通して感じたのは、逆境を乗り越える力強さと、うつわづくりに対する純粋な情熱だった。特に、ビジネスを危機から再生させ、自社ブランドを確立するまでの道のりは、困難な状況でも前向きに取り組み、人との縁を大切にする姿勢があってこそ乗り越えられたものなのだろう。顧客だけでなく、関わるすべての人々がWin-Winになる環境を追求する小木曽社長の哲学をもとに、株式会社丸勝が異彩を放つうつわで世界の食卓を彩る未来に期待したい。

小木曽勝信/1970年、岐阜県瑞浪市生まれ。土岐商業高等学校卒業。株式会社名鉄グランドホテルに入社し、3年間の料理修行を経て、1992年に現・株式会社丸勝に入社。2008年に同社代表取締役社長に就任。プレートや小物などの商品を販売している「co-bo-no」や、食器や雑貨、犬のグッズを販売するオンラインショップ「わんコレ」を運営。