※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

300年以上続く「丹後ちりめん」の伝統を守り続ける株式会社吉村商店。老舗として和装文化を支えてきた一方で、時代の変化に合わせた挑戦も続けている。代表取締役の吉村隆介氏は、41歳で家業を継ぐことを決意し、以来、伝統を守りながら未来を見据えた経営に取り組み続けている。家業を継ぐに至った背景や、今後の展望について話を聞いた。

物流業から家業へ。製造現場を目の当たりにして芽生えた「使命」

ーー吉村社長の経歴をお聞かせください。

吉村隆介:
同社では集荷や配送、クレーム対応など現場仕事に打ち込み、40歳までキャリアを積みました。厳しい仕事も多い職場でしたが、業務の中で「人と向き合う力」と「現場感覚」を身につけることができたのは、大きな収穫だったと思います。

そこから家業に戻ったのは、当時の上司からいただいた言葉がきっかけです。私の実家が丹後ちりめんの家業をしていると知った上司から、一度見学させてほしいと申し出があり丹後へお連れしました。一通りご案内した後、帰りの車の中で私に「進むべき道があるんじゃないか」と言ったのです。

この言葉から、私は今まで向き合ってこなかった家業を見つめ直すことにしました。父の年齢や従業員たちの生活も考えるようになり、そして、家業に戻って自分の責任を全うしようと思うようになったのです。こうして私は41歳で家業に戻り、代表取締役社長として入社しました。

ーー家業を継いだ際の、印象的なエピソードはありますか?

吉村隆介:
初めて工場を訪れたときの出来事が印象的でした。古い織機がガシャガシャと音を立てて動いているのを見て、胸が熱くなったことを今でもハッキリ覚えています。

古い機械でも部品を交換しながら大切に使い続けている光景を目の当たりにして、「ものづくりの魂」を実感したと同時に「これが自分の継ぐべきものなんだ」と感じたのです。それ以来、丹後ちりめんという伝統を守り、次世代へ繋げることを自分の使命だと強く感じるようになりました。

歴史を継承するため、品質に妥協することなく、良い物を多くの人に届ける姿勢を貫く

ーー改めて、貴社の事業と魅力について教えてください。

吉村隆介:
吉村商店は「丹後ちりめん」を扱う、創業194年の老舗企業です。丹後ちりめんとは、江戸時代に丹後の地で生まれた、独特のシボ(凹凸)と繊細な織りが特徴を特徴とした生地です。着物や和装品、ふくさなどの和小物など幅広い用途に使われており、かつては丹後地域全体で920万反もの生産量を誇りました。

現在は、生産量を約13万反にまで減らしていますが、それでも弊社は丹後ちりめんの良さを現代に広めていくために、シルク100%という高い品質を保ちながら、産地ならではの手に取りやすい価格で、生地を多くの方に届ける努力を続けています。

なお、弊社で取り扱っているものは「白生地」と呼ばれる、染色されていない状態の生地です。白生地には「地紋」と呼ばれる織り方によって表現された柄が施されており、弊社の製品をベースに、さまざまな色合いの着物や雑貨が作られています。

現代に丹後ちりめんの魅力を広げるために新たな可能性を探る

ーー今後、特に力を入れていきたいテーマは何ですか?

吉村隆介:
「工場の品質改善」に注力したいと思っています。丹後ちりめんは非常に繊細な製品で、わずかな傷や糸の引っかかりでも品質に影響します。そのため、高品質な製品を作り続けるには、製造工程の精度を高めて、常に品質を高め続ける努力が欠かせません。

そして、未来を作っていくために「新商品の開発」にも取り組んでいきます。着物だけでなく、ホテルの内装やファッションアイテムなど、シルクの特性を活かした新しい用途にも挑戦し、和装文化の魅力をより多くの人に届けたいと思っています。

ーー最後に、今の時代に和装を取り入れる魅力についてお聞かせください。

吉村隆介:
着物は「敷居が高い」と思われがちですが、実は自由に楽しめるものです。既成のイメージにとらわれすぎず、ブーツやスニーカーと合わせて、カジュアルでおしゃれなスタイルを楽しんでみるのもおすすめです。

着物を着て参加するイベントをいくつか開催したところ、地元の大学生を含めた多くの若い世代の方に参加いただき、大きな反響が得られました。この状況から見るに、着物を現代のファッションに取り入れる楽しささえ伝われば、もっと着物の魅力が広がっていくだろうと確信しています。また、着物が身近な存在だった昔と違って、今の世代の方にとって、着物が一周回って新しい存在になっているのも大きな追い風です。

私は、着物が再度注目される土台は整っていると感じています。そんな今だからこそ、丹後ちりめんの魅力や着物の楽しみ方をさまざまな世代に届け、気軽に和装を楽しめる文化へとつなげていければと思っています。

編集後記

伝統を守り続けながら、新たな可能性を模索する吉村商店。着物が珍しくなった今だからこそ、人々に新鮮な感動を届けられる可能性がある。吉村社長の言葉からは、着物文化を新たな形で広げていく決意が感じられた。丹後ちりめんの魅力が多くの人に届き始めた今、今の世代が古き良き着物文化の楽しさを知る日は、そう遠くないだろう。

吉村隆介/1974年、京都府生まれ。大学卒業後は物流業界でキャリアを積み、40歳で家業である株式会社吉村商店に入社。41歳で7代目代表取締役に就任する。