近年、少子高齢化による市場の縮小によって、ますます競争が激化する食品業界。そのような食品業界で、着実に成長を続けるのが、大阪市に本社を構える尾家産業株式会社だ。その舵を握る尾家健太郎氏に今回、同社の強みや今後のビジョンをうかがった。
大手企業から家業への転身。きっかけは「思い出」
ーーご親族が創業した会社ということもあり、会社を継ぐ前提でこれまでのキャリアを歩んできたのでしょうか?
尾家健太郎:
もともと私が継ぐという話はありませんでした。前職からの転職を決めたのは、思い出が大きく影響したと思います。「尾家産業に入社しないか」という話をもらった時、私は改めて自分のことを振り返ってみたのです。その時に、ふと頭をよぎったのが祖父(尾家産業創業者、現在の名誉会長)のことでした。
経営者である以上、祖父には厳しい一面もありましたが、とても可愛がってもらったことが心に残っていますね。前職は、専門性を生かしながら挑戦ができる環境だったので、そこに未練がなかったわけではありません。それでも、私はこうした思い出や「やるしかない」という気持ちから、転職を決めたのです。
社員一人ひとりに向き合い、オンリーワンの会社を目指す
ーーどのような思いで、経営と向き合っていますか?
尾家健太郎:
売上でも会社の規模感でも業界1位を目指したいが、それ以上に社員の満足度ややる気の面で1番になりたいという思いを持っています。
この業界は、参入自体はそれほど難しくありませんが、生き残ることが非常に困難です。生き残るために何が大切なのかを考えた時、「弊社にしかない強みを伸ばすことが最も効果的な方法だ」と確信しました。その強みとは、社員の力です。社員一人ひとりがやりがいを持って活躍できる環境を整えることで、オンリーワンの会社を目指しています。
ーー社員のやりがいを促進するために、どのような取り組みを行っていますか?
尾家健太郎:
弊社では、社員の頑張りを正当に評価することを重視しており、給与水準も業界トップレベルに到達しました。おかげさまで前期に引き続き今期も、トップレベルの給与水準を維持しています。
また、各事業所を定期的に巡回して、社員一人ひとりとコミュニケーションを取って直接アドバイスをしたり、課題について聞いたりしています。
社員が感じていることが会社全体の課題である場合も多く、社員とのコミュニケーションがそれを見つけるためのヒントにもなり得るのです。このような活動は、責任感を高めてくれるので、今後も続けたいですね。
ーー一人ひとりと向き合う姿勢が貴社の強みと感じましたが、そのことについて詳しく聞かせてください。
尾家健太郎:
働く環境として、年代や立場を問わず、新しいことにチャレンジしやすい環境だと思います。たとえば、弊社は食に関する事業を主とした会社ですが、最近ではヘルスケアの分野にも力を入れています。
戦略の推進に管理栄養士をはじめとするヘルスケア専任の、比較的若手のメンバーが貢献してくれています。お客様からの何気ない一言やご意見をお聞きしてオリジナルのプライベート商品を開発したり、ヘルスケア業態に焦点を当てた弊社独自の「やさしいメニュー」提案会を毎年開催しています。
「食」を愛する全ての人ーー社員・顧客の満足度が鍵
ーー貴社の成長に必要なのは、どのような人材ですか?
尾家健太郎:
いかなる状況下でも、常にチャレンジ精神を忘れない方です。自由な発想で仕事に取り組める環境が弊社の強みなので、こうした環境を存分に生かし、自身の成長につなげてほしいですね。
また、弊社は食をメインとした会社なので、食に興味がある方や食べることが好きな人も大歓迎です。具体的なスキル面では、ITスキルを持った方も積極的に募集しています。他の業界と比べるとITの分野で遅れを取っている部分もあるので、この分野を積極的に進めていきたいですね。
ーー今後のビジョンについて聞かせてください。
尾家健太郎:
弊社がお客様の「食」を豊かにするためのパートナーとして存在するためには、社員が仕事の楽しさを見出していることが不可欠だと考えています。だからこそ、社員一人ひとりと向き合って、それぞれが輝ける職場づくりを目指しています。
お客様だけでなく、社員にも「尾家産業」のファンになっていただきたいですね。「この会社が好きだから働きたい」と思ってもらえるように努力しています。こうした社員一人ひとりの高い満足度を通じて、社会的な課題解決や顧客満足度の向上を図っていきたいですね。
編集後記
顧客や売上ばかりを注視してしまう経営者も多い中、会社の規模が大きくなっても変わらない尾家社長の社員への情に、心ひかれる時間であった。大手企業から転職した当時の葛藤は計り知れない。だが、そうした経験が現在の尾家産業株式会社を支えているのは確かだ。尾家産業は今後も大きくなり続けるに違いない。
尾家健太郎/京都大学大学院農学研究科卒。1998年にサントリー株式会社に入社し、その後、2008年に尾家産業株式会社に入社。2023年に同社代表取締役社長執行役員に就任。