
不動産業界において国境を越えた取引を実現するProperty Access株式会社。同社を牽引する風戸裕樹氏の原点には、「自由な働き方」への強い憧れがあった。海外での出会いを経て、日本と世界をつなぐ独自の不動産ビジネスを構築。常識にとらわれない行動力と現地に根差した信頼関係が、国境を越える事業展開を支えている。今までの軌跡、そして今後の事業展開を聞いた。
自由を求めて起業の道へ
ーー早稲田大学をご卒業後、不動産業界に就職されていますが、当初から不動産業界を志望されていたのですか。
風戸裕樹:
はい。その根底にあったのは、「いつか会社を興したい」という強い思いであり、起業しやすい業種として不動産業に目を向けました。そのため、大学卒業後は、マンションや戸建住宅の販売などを手掛ける不動産会社に入社し、起業に向けて経験を積もうと考えたのです。
なぜ私が創業を希望したのかといえば、父が理由です。高校生のころ、父が病気で早期退職したのを間近で見て、会社にしばられず、収入や時間に自由がある働き方をしたいと考えるようになりました。それを叶えるのが、ビジネスオーナーという働き方だったのです。
新卒で不動産会社に入社した後、不動産投資ファンド会社に転職し、28歳のときに資本金100万円で会社をつくりました。決して順調なスタートとは言えず、みるみるうちに資金がなくなり、尽きそうな状況まで追い詰められましたが、元同僚から7億円の物件取引の仕事を得て危機を脱することができました。人とのつながりや人脈に救われたと感じています。
ーーProperty Access設立までの流れと、貴社の事業内容について教えてください。
風戸裕樹:
29歳のときにFCT社(不動産仲介透明化フォーラム)を設立しました。その後、FCTは2014年にソニー不動産のグループ企業となり、同社で事業部長として2年ほど経営に携わりました。それまでベンチャーの自由な雰囲気の中で仕事をしてきたので、大手企業とのスピード感の違いに戸惑ったことを覚えています。
FCTを退職後、イギリスへの留学を考えていたとき、シンガポールで出会ったベンチャーキャピタルの方から、今のビジネスパートナーであるシーラを紹介されました。この出会いがきっかけでシンガポールに移住し、東南アジアの不動産調査に携わることになったのです。
シンガポールを選んだのは、東南アジアのハブであり、治安がよく、家族も安心して移住できることが理由です。ビジネスをしやすい環境で、各国へのアクセスも抜群。しかも、不動産市場もダイナミックに動いていて、チャンスが非常に多いと感じたのです。
シンガポールに居住しながら、将来的なIPOを見据えて、2018年、日本にProperty Accessを設立しました。
事業内容は、一言でいうとクロスボーダー不動産取引(国境を超えた不動産取引)です。現地のデベロッパーと日本人投資家をつないだり、オンラインの商談取引など、マーケティングから実取引まで一貫して手掛けています。
信頼される組織づくり

ーー貴社の強みや、評価されている点はどのようなところでしょうか。
風戸裕樹:
日本も含めて、世界中の不動産を扱えることが強みです。海外の不動産を扱っているので、その分野に精通したプロが在籍しています。宅建の資格保有者が多く、日本と海外の両方の不動産を扱える人材が揃っています。
5000万円程度の物件をキャッシュで買える外国人富裕層に対して、日本的な誠実で細やかなサービスを提供している点も強みの一つです。また、実際に海外で生活しながら現地企業と築いた信頼関係も大きいですね。
ーー採用について教えてください。
風戸裕樹:
コミュニケーション力が高い人、探究心や適用力のある人を求めています。弊社は、自己成長を求める方にとって魅力的な場ではないでしょうか。
採用は、中途の方が100%です。特に不動産関連の経験者で自己成長を求めている方は、世界の不動産を知ることができるうえに、英語もできるようになるという点がメリットですね。
英語力は必須ではありません。なぜなら、社内で英語レッスンを実施していて、希望者は受講可能だからです。費用は個人負担ですが、受講しやすいよう、比較的安価な料金に抑えています。
また、営業部門の体制強化も進めており、高い統率力とやりきる力を持つ人材を求めています。
世界の不動産をシームレスに
ーー今後の展開やビジョンについてお聞かせください。
風戸裕樹:
今後3年で、既存事業の拡張とインバウンドに事業の軸足をシフトさせる方針です。5年後には、世界の投資家リストをさらに拡大し、世界の不動産エージェントやデベロッパー向けのプラットフォーム事業の準備を進めていきます。
今後の海外展開の重点エリアはアメリカです。アメリカの投資家と、特に魅力的なアメリカの物件を扱いたいと考えています。
私たちのビジョンは、世界の不動産取引をシームレスにすること。言葉の壁や知識量の違いなど、国境を越えた不動産取引のハードルを下げて、誰もが簡単に取引できる環境を構築していきます。
私個人のミッションとしては、「世界の不動産人」を増やし、不動産業界にあこがれを持つ次世代を育成したいです。私自身の経験を通じて、「こういうふうになれるのなら、不動産屋になってみたい」と思う人を増やしたいと考えています。
ーー最後に、投資家の方々に伝えたいメッセージがあればお願いします。
風戸裕樹:
弊社は現在、シリーズAのエクイティファイナンスを進行中です。特にコーポレートVCや事業会社との連携を重視しており、資金だけでなく事業シナジーも生み出していける関係を求めています。
投資家の方々にとって、東南アジアの不動産市場は非常に可能性のあるフィールドです。私たちのネットワークやノウハウは、この分野で数少ない“実行力のあるプレイヤー”だと自負しています。
編集後記
自由な働き方を求めて国境を越えた不動産ビジネスを展開する風戸氏の情熱と先見性は特筆すべきものだ。東南アジアという成長市場に早くから目を向け、日本と海外の架け橋となる事業を展開する戦略は、グローバル化が進む不動産市場において大きな可能性を秘めている。人材育成への取り組みからも、持続可能な成長を見据えた経営姿勢を感じた。

風戸裕樹/1981年⽣まれ。早稲田大学商学部卒業後、不動産投資ファンド会社を経て、2010年不動産仲介透明化フォーラム(FCT)を設立。2014年FCT社はソニー不動産のグループ企業となり、ソニー不動産執行役員売却コンサルティング事業部長兼コンサルティング事業部長として、創業に携わるとともに事業拡大に貢献。2016年シンガポールに移住し、東南アジア不動産を調査。2018年Property Access株式会社設立。