
1998年の創業以来、不動産管理業界で成長を続けている株式会社TAKUTO。同社はリーマン・ショックによる逆境を転機に変え、不動産管理とITのシナジーで、存在感を発揮している。
代表取締役の太田卓利氏は、最新技術を駆使した効率的な業務運営で会社の成長を加速させ、顧客や地域に価値を還元することを目指している。太田社長、そしてTAKUTOが見据える未来の姿とは。長年の成長を支える経営哲学やIT活用に注力する同社の最前線を追った。
「魚介類の採取」から始まったビジネスの原点。不動産会社として社長の夢を実現。
ーー太田社長の経歴と創業までの経緯をお聞かせください。
太田卓利:
私は、美しい海に恵まれた本州最南端の和歌山県串本町の出身で、学生時代にはアルバイト代わりに魚介類を自分で採取し、地元の旅館に卸していました。今思えばこれが「商売」の原点ですね。
この活動は単なる小遣い稼ぎにとどまらず、どうやったら効率的に利益を上げられるか、学生なりに考える良い経験になりました。卸先を選ぶ際には、なるべく高く買ってくれる旅館を調べ、取引条件を交渉するなど、ビジネスでいう「市場調査」に近いことを行っていたのです。これらの経験から、収益は努力や工夫次第で大きく変わることを知った私は、自然とビジネスの世界や社長という職業に憧れるようになりました。
この思いを実現するために、高校卒業後は、早く社会経験を積むために就職する道を選びました。まず大手建設会社からスタートし、さまざまな業種に携わりながら、「自分が独立できる業界」を模索する日々。最終的に、学歴ではなく実力で評価される不動産業界へとたどり着いたのです。
私はこの業界での起業を心に決め、約10年間大手不動産会社で経験を積んだのち、30歳で株式会社TAKUTOを創業しました。
それ以降、おかげ様で事業は拡大を続けており、今ではTAKUTOを中心に4つの会社からなるTAKUTOグループを置くまでに成長しました。
ーー創業後、特に苦労したことは何でしょうか?
太田卓利:
何といっても2008年のリーマン・ショックですね。弊社は1998年の創業以降、賃貸仲介に特化した事業で順調な成長を続けていましたが、リーマン・ショック後に転勤や進学に伴う転居が減少した影響で、需要が急激に縮小してしまったのです。いわば、賃貸仲介の弱点を見事に突かれた形となったわけです。
そこで私は、事業の安定性を高めるために、ストック型ビジネスで安定した収益が見込める不動産管理事業に軸足を移すことにしました。同事業は、物件の管理料や更新料、リノベーションに伴う工事受注など、定期的に確実な収益が期待できるのが大きなポイントです。
この方向転換が奏功し、事業成績は無事回復しました。現在は、不動産管理事業を中心に、商業用不動産の賃貸支援や不動産コンサルティングなども展開しています。管理物件数は、2024年時点で4万2000件にまで拡大しています。
会社の成長には、一人ひとりが自分の役割を理解できる文化が大切

ーー会社を運営するにあたり、太田社長が大事にしている考えを教えてください。
太田卓利:
「社員とともに成長する」という考え方を大切にしています。会社の社風や企業イメージは、創業者の性格や哲学が大きく反映されるものですが、その哲学を世界へ広げていくためには、社員の協力が欠かせません。
この相互作用を成功に導くために、社員たちと思いをともにし、ワクワクしながら働ける環境を作ることが大切です。社員が仕事に意義を見出し、誇りを持って働いてくれれば、会社は自然と成長していくと考えています。
そして、社員一人ひとりが自分の役割を理解し、自律的に行動できる文化を醸成していければ、会社の層が厚くなり、柔軟性のある組織へと変革を遂げていくことでしょう。
ーー貴社の強みはどんなところでしょうか。
太田卓利:
弊社の強みは、不動産管理とIT技術を掛け合わせることで、業務効率化や顧客満足度の向上を実現していることです。たとえば、入居者や仲介会社とのコミュニケーションをオンライン化することで、少人数でも高品質なサービスを実現しているほか、入居者には「スマサポアプリ」という専用アプリを提供し、契約情報の確認やマニュアル閲覧、契約内容の変更などもオンライン上で可能にしています。
不動産管理会社から、人々の生活を豊かにする会社へと進化するために
ーー今後、特に注力したいテーマは何でしょうか?
太田卓利:
現在、弊社が特に力を入れているのは、建築業界全体が直面している課題に対応する取り組みです。たとえば、土地の高騰や建築コストの上昇に対応するために古い物件のリノベーションにとり組んでいます。物件の再活用により、物件価値の回復と空室率の低下を同時に目指せる、投資家にとっても魅力的な選択肢だといえるでしょう。
また、今後さらに管理物件数を増やすことを見据え、業務フローの改善や体制の強化にも注力しています。特に、管理業務の効率化やサービスの品質向上に重点を置いており、データを活用した提案力の強化やスタッフのスキルアップを実現することで、クライアントに対して高い価値を提供することを目指しています。
管理業務の効率化やサービスの品質向上を加速させるためには、AI技術の導入が欠かせません。そのためにも、社内エンジニアチームの構築が必要で、将来的には、入居者への自動応答システムやデータ連携の強化など、現場の実情に即した解決策をスピーディーに提供できる体制の整備まで進められるよう、DXの推進にも取り組んでいきます。
ーー長期では貴社をどのように成長させたいとお考えですか?
太田卓利:
20年以内に管理物件数30万件を目指しています。この規模に到達すれば、弊社は不動産管理会社の枠を超え、地域社会やまちづくりに広く影響を与える存在となれるでしょう。
たとえば、地域コミュニティの活性化やインフラの整備、さらには地域住民やオーナー様に価値を還元できる社会貢献活動などが考えられます。こうした取り組みを通じて、一企業から、地域に根差した存在へとあり方を変えていきたいのです。
私自身、このプロジェクトを遂行するため、90歳になるまで現場で指揮を執る覚悟です。業界のリーディングカンパニーとなるべく、これからも全力で取り組んでいきます。
編集後記
株式会社TAKUTOの強みである不動産管理とITの組み合わせには、太田社長が掲げる「管理戸数30万件」を達成するためのポテンシャルと実現性を感じた。今後、AI技術の活用がさらに進めば、同社の成長は一層速度を増していくだろう。TAKUTOが地域とともに歩む企業へと進化を遂げる未来が楽しみだ。

太田卓利/1967年、和歌山県生まれ。高校卒業後、大阪の大手建築会社へ入社するが、独立の道を模索し、1987年に不動産業界へ転身。その後、大手賃貸不動産会社で10年の経験を積み、30歳で株式会社宅都(現:TAKUTOグループ)を設立、代表取締役に就任し、現在に至る。