
1957年創業以来、大阪の食文化を長年にわたって支えてきた株式会社にし家。製粉から自社で手掛ける自家製麺と鮮度と旨みにこだわったかつおだしを用いた海鮮鍋「うどんちり®」や、和牛とおそばのしゃぶ鍋「そばしゃぶ®」などを提供し、大阪市内に7店舗を展開している。さらに、2025年4月には和モダンをコンセプトにした「KINOCAFE(キノカフェ)」をオープン。老舗の伝統を受け継ぎながら、新たな挑戦を続ける同社の事業には、どのような背景があるのか。代表取締役社長の萬浪豊司氏に話をうかがった。
顧客との距離感に魅了され飲食業界に転職
ーー社長のご経歴をお聞かせください。
萬浪豊司:
私は学生時代にいつかアパレル分野で起業したいと考えていたため、大学卒業後はアパレル業界に就職。営業マンとして2年ほど働きました。しかし、実際に働いてみると、アパレル業界の厳しい側面が見えてきて、「このままアパレル業界で働き続けるのはどうなのか」と思い悩むようになりました。
いろいろな業界に目を向けている中で、「実際にお客様と触れ合えるのは面白いのでは?」と飲食業界が気になり始めました。飲食店は、お客さまとより近い距離でふれあえることもそうですが、その日の売上がすぐに現金という形となって表れることで商売の面白さを感じられる、その魅力に次第に惹かれ、飲食業界への転職を検討するようになったのです。
まわりの人とも相談した結果、25歳のときに外食産業の会社に転職を決意。その後、20年間現場で働いたのち、2008年に弊社の社長に就任しました。
ーー社長就任後は、どのような心境でしたか?
萬浪豊司:
社長に就任した2008年はリーマン・ショックの最中で、業績不振が続いて焦りを感じており、本当にしんどい時期でした。ただ、私の中では「仕事に“普通”というものは存在しない。山あり谷あり、浮き沈みがあるのが仕事だ」と考えていたので、苦しくても目の前にある問題を、ひたすら打ち破って乗り越えていきました。
うどんとそばを主軸に大阪市内で7店舗を展開

ーー貴社の事業内容について教えてください。
萬浪豊司:
弊社は、うどんとそばを基軸にした飲食業を営む会社です。製粉から自社で手掛ける自家製麺と鮮度と旨みにこだわったかつおだしを用いた海鮮鍋「うどんちり®」が楽しめる「にし家」と、「そばしゃぶ®」を提供する「浪花そば」、だしと自家製細麺にこだわった「出汁家浪庵(だしやなみあん)」を、大阪市内に合計7店舗を構えています。
また、2025年4月には「KINOCAFE」というカフェを梅田スカイビル1階にオープンしました。「KINOCAFE」を出店した背景には、「創業68年という長い歴史の中で、伝統を守りながら新しいチャレンジをしていく」という弊社のマインドがあります。老舗ののれんを守りつつ、時流に沿った商品開発や事業展開をすることを重視したいという姿勢を体現したといえるでしょう。
ーーメニューや店舗について、どのようなところにこだわっていますか?
萬浪豊司:
店舗のデザインや設計、そして料理の要となる「職人だし」には、にし家ならではの強いこだわりを持っています。
全店舗において、のれんや瓦を取り入れた和風建築のコンセプトを採用。特に「にし家」と「浪花そば」の両本店は3階建て構造となっており、1階は気軽に利用できるランチフロア、2階は全室個室、3階は大宴会場というように、利用目的に応じた多様な空間を備えているのが特長です。
また、メニューに使用する「職人だし」は、宗田鰹節・さば節・うるめ節、いずれも純国産素材のみを使用しており、創業以来代々受け継がれてきた、弊社の命とも言える味です。お店によっては昆布を出汁に使っているかと思いますが、弊社で使うだしは、素材のよさからこだわり、北海道から九州まで日本全国から探し出した素材を厳選。昆布を使わなくとも、豊かな風味とうまみを感じられるだしに仕上げております。
働くことでまわりの人を楽にさせる人材に成長してほしい
ーー貴社で活躍できるのはどのような人物ですか?
萬浪豊司:
「働くことで自分を成長させたい」「仕事を通じて人間として成長したい」という考えを持つ方を歓迎しています。弊社では、鍋の炊き方や上座・下座のマナー、着物の着付け、接客のコミュニケーション技術など、業務を通じて多くの学びを得られます。この環境で人間力を高めようと努力できる方とともに働きたいですね。
私は「働く」とは「傍(はた)を楽にすること」だと捉えています。周囲の人々に安心感を与え、「あの人がいて助かる」と思われる人こそが、真に必要とされる存在です。弊社の業務を通じて、そのような人材へと成長してほしいと願っています。
ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。
萬浪豊司:
前述の、「伝統を守りながら、新しいチャレンジをしていく」というスタイルを、今後も継続したいです。
少し話はそれますが、K-POPのアイドルグループ「TWICE」のサナさんが大好きなお店としてTVで紹介してくださったり、他にも有名な方々が当店のファンとしてたくさんおられます。お客様一人ひとりのためにも、古いものと新しいものの両方を取り入れて、あらゆる世代の方に喜んでいただけるようにプロデュースしたいと考えています。
編集後記
独自のレシピで守り続ける「職人だし」など、随所でこだわりを貫くにし家。老舗の伝統の味を守りつつ、時代のニーズを捉えた柔軟な発想で生まれる新メニューによって、今後、二世代三世代にわたり、愛され続ける店になるだろう。伝統と新たな挑戦の両立を体現する同社の挑戦は、今後も注目を集めそうだ。

萬浪豊司/1982年、近畿大学商経学部(現・経営学部)経営学科卒業。大学卒業後、2年間アパレル業界で働き、25歳のときに飲食業界に転職する。現場で約20年間働いたのち、2008年に株式会社にし家の代表取締役社長に就任、現在に至る。