
株式会社栗田機械製作所は、工業用フィルタープレスを主力とし、高度な「固液分離」技術で多様な産業を支えている企業。同社は、対象物の特性を見極め、最適な解決策を提供する技術力で、国内外から厚い信頼を寄せられている。若くして父の後を継ぎ、幾多の困難を社員と共に乗り越えてきた代表取締役の栗田佳直氏に、その歩みと事業への思い、そして未来への展望をうかがった。
予期せぬ事業承継という逆境を結束の力へ
ーー株式会社栗田機械製作所へ入社されるまでの経緯をお聞かせください。
栗田佳直:
父が会社を経営していたので、いつかは後を継ぐつもりでしたが、まずは外の世界で経験を積みたいと考え、総合商社の丸紅株式会社に入社しました。産業機械を輸出入する部署に配属され、最初の半年は先輩のもとで事務処理のような基本的な業務をしていました。その後、上司の方針で「これからは自由に商材を選んでいい。たとえば日本国産のメーカーのものを海外に売っても良いし、海外のものを日本の企業に売ってもいい。ただし、売上目標は10億円、粗利1億円」といわれたのです。
当時私のような新入社員にとって、こうした自発的に、自由に働けることは貴重な機会だったと思います。おかげで、商材探しから海外メーカーとの交渉、国内顧客への提案といった、一連のビジネスを任せてもらえ、本当に良い経験になりました。当初は10年くらい丸紅で働くつもりでしたが、入社から2年ほど経った頃に父の癌が見つかり、急遽、栗田機械製作所に戻ることになりました。
ーー入社後のことをおうかがいできますか。
栗田佳直:
父には病気のことは伏せて、「東京に飽きたから帰ってきた」と伝えて入社しました。そして、私が戻ってから2年ほどで父は他界し、27歳で代表取締役に就任することになりました。当時は会計の知識を活かして、原価管理や利益管理をしっかり行いたいという思いがありましたが、実績のない若い社長の考えはすぐには現場に浸透せず、温度差を感じることもありました。
ーー社長就任後、特に大きな転機となった出来事は何でしょうか。
栗田佳直:
リーマンショックは本当に大きな転機でした。世間では貸し渋りや貸し剥がしが起こり、弊社も金融機関から抜本的な経営改革を求められる厳しい状況に追い込まれました。その時、私自身も私財を投じ、遊休資産の売却など、できることはすべて行い、会社を立て直すという本気度を社員に示しました。給料も思うように上げられず、ボーナスもままならない本当に厳しい状況でしたが、社員たちは誰一人として手を抜くことなく、実務に真摯に取り組んでくれました。
あの時の社員の頑張りがなければ、今の会社はありません。27歳で社長になった私についてきてくれた社員たちには、本当に感謝しかありません。あの困難を乗り越えたことで、社内の結束力は格段に高まりました。
産業を支える「固液分離」技術の核心

ーー貴社の主力製品である「フィルタープレス」について、詳しく教えていただけますか。
栗田佳直:
弊社の主力製品は、工業用の加圧ろ過脱水機、通称「フィルタープレス」です。これは、液体と固体が混ざったもの(スラリー)を、圧力を使って液体と固体に分離する機械です。たとえば、泥水を泥ときれいな水に分ける、あるいはココアのようなものをココアパウダーと水分に分離するといったイメージです。この「固液分離」という技術が私たちの核となります。
技術の活用範囲は非常に多岐にわたります。たとえば、製鉄所の製造工程で大量に使われる冷却水をろ過し、鉄粉と水に分けて再利用するシステムです。また、皆さんが日常的に使うコピー用紙の表面に塗られている炭酸カルシウムの製造プラントでは、国内シェアはほぼ100%を獲得しています。最先端の分野では、レアメタルの回収や半導体の製造工程、さらには福島の原発処理水の処理にも弊社の技術が検討されています。
さらに、最近では、フライパンのテフロン加工などでお馴染みのフッ素樹脂の脱水にも、弊社の機械が活用されています。これは、過去に開発した生餡の脱水技術の知見を応用したもので、長年のデータ蓄積があるからこそできる提案だと自負しています。
ーー競合他社と比較した場合の、貴社の強みは何でしょうか。
栗田佳直:
フィルタープレスという特定の分野で、これだけの規模と歴史を持ち、専門的に取り組んでいる企業は国内ではほぼ私たちだけです。さまざまな物質のろ過データを長年にわたり蓄積しており、それがお客様への最適なソリューション提案や、先ほどのフッ素樹脂のような異分野への技術応用力につながっています。今後もお客様にとって「ろ過のことなら栗田機械に相談すれば何とかなる」と思っていただけるような存在になりたいです。
世界へ、そして次世代へ。確かな技術で未来を創る
ーー今後の事業展開については、どのようにお考えですか。
栗田佳直:
かつて日本は、高度経済成長期に公害問題に直面しました。その後の人手不足は、自動化の流れを生み出しました。これらは、今まさに新興国が直面している課題です。私たちが日本で培ってきた技術は、環境問題の解決や生産効率の向上に貢献します。このろ過技術や自動化のノウハウは、必ず役立つと確信しています。将来的には、海外での売上が全体の半分以上を占めるようになることを目指し、積極的に展開していきたいと考えています。
ーー採用や人材育成については、どのような点に注力されていますか。
栗田佳直:
弊社の仕事は、お客様である大手企業の専門家の方々と直接対話し、時には彼らから頼られる存在として技術提案を行う、非常にやりがいのあるものです。「ろ過」という専門分野で、お客様の課題解決に深く貢献できる喜びを感じられる環境を提供したいと考えています。そのためにも、技術者はもちろんのこと、経営的な視点も持った人材の育成が今後の重要なテーマです。
ーー最後に、5年後、10年後の株式会社栗田機械製作所の姿についてお聞かせください。
栗田佳直:
これまで培ってきた「固液分離」技術をさらに深化させ、国内はもちろんのこと、グローバルな市場でお客様からより一層信頼される存在でありたいと考えています。そのためには、既存の技術に磨きをかけるだけでなく、IoTなどの新しい技術も積極的に取り入れ、お客様の期待を超えるソリューションを提供し続ける必要があります。「フィルタープレスの栗田」から「ろ過脱水の栗田」として認知されるように、社員一丸となって挑戦を続けてまいります。
編集後記
27歳という若さで事業を承継し、幾多の困難を乗り越え、株式会社栗田機械製作所を業界トップクラスの企業へと導いた栗田社長。その言葉の端々からは、社員への深い感謝と、自社の技術に対する揺るぎない自信が感じられた。また、リーマンショックという未曾有の危機を社員との固い結束力で乗り越えた経験は、同社の大きな強みとなっている。「社員こそが宝」と語る社長のリーダーシップのもと、同社はこれからもろ過技術の可能性を追求し、国内外の多様な産業、そして地球環境の未来に貢献し続けていくのだろう。

栗田佳直/1969年兵庫県生まれ。1992年に関西学院大学を卒業後、丸紅株式会社に入社。1994年に株式会社栗田機械製作所に入社。1996年に父である先代社長の死去に伴い、同社代表取締役に就任。