
慢性的な人材不足に悩む建設業界で、職人と工事会社をつなぐという画期的なマッチングアプリ「助太刀」を開発した株式会社助太刀。現在のアプリ登録事業者数は22万事業者を突破し、圧倒的なシェアを誇っている。電気工事会社を起業後、MBAを取得し、スタートアップ領域への挑戦を図った代表取締役社長兼CEO・我妻陽一氏に、業界が抱える課題と、自社サービスの魅力、今後の事業展開について話をうかがった。
一度建設業界を離れたからこそ見えてきた課題
ーー我妻社長のご経歴を教えてください。
我妻陽一:
設備工事を手がける株式会社きんでんに入社し、ゼネコンの大型現場や再開発事業などの電気工事に携わりました。その後、29歳で起業し、職人を抱える電気工事会社の社長になりましたが、社長といっても現場で図面を書いたりしていたので、仕事の内容は前職とさほど変わりません。「不勉強のまま起業してしまった」という反省から、改めて起業について学ぶため、立教大学大学院に入学し、MBAを取得しました。
ーー大学院で学んだことは、ビジネスにどう生かされていますか。
我妻陽一:
大学院ではさまざまなことを学びましたが、これから事業で成功するためにはITの活用が不可欠だと感じました。建設一筋だった私でしたが、「建設業界でITを活用して、何ができるか」を模索していたとき、職人と工事会社のマッチングというアイデアが浮かびました。
そもそも建設業界では、建設投資額が増加傾向にあるにもかかわらず、慢性的な人材不足が続いています。それは、工事会社の正社員採用が進んでいない上に、約300万人もいる職人と工事会社がうまくマッチングできていないことが原因だと考えられます。しかし、業界内では知り合い同士が電話で人材を手配する慣習が残っており、ITの導入が進んでいません。元請けと職人のつながりが強いことも、人材の流動性を低くしています。
このような課題を解決するために「助太刀」というITサービスを考案しました。一度建設業界を離れ、外から客観的に見つめられたからこそ課題に気づけたのだと思います。
他の求人サイトの追随を許さない、建設業に特化したマッチング

ーー改めて貴社の事業をご紹介ください。
我妻陽一:
弊社は2つのパターンで職人と工事会社のマッチングを行っています。1つは双方をマッチングするアプリ「助太刀」です。月額利用料のみでマッチングフィーは無料という仕組みが高く評価され、登録ユーザーは22万超。関東圏のユーザーが約半数で、関西や福岡、愛知とつづき、全国の皆様にお使いいただいております。次代の建設業界を担う20〜40代のユーザーが約80%を占めている事実に、将来への手応えを感じています。
※各種データは取材時点の情報
もう1つは、正社員になりたい職人と正社員を採用したい工事会社をマッチングする建設業特化型採用プラットフォーム「助太刀正社員」です。アプリ「助太刀」との連動で87職種に細分化した求人を掲載。日中は現場作業で忙しい職人でもスマートフォンでアクセス・応募しやすくなっています。スカウト機能も備えているので、工事会社にとってもピンポイントの採用アクションがとりやすいプラットフォームです。
この2つのマッチングサービスが、他の求人サイトの追随を許さない強みになっています。
ITを活用し、業界の外から新しい担い手を確保する
ーー貴社サービスに対する建設業界の反応はいかがですか。
我妻陽一:
2017年のリリース当時、同様のサービスは存在していませんでしたから、高い評価をもって迎え入れられました。
職人と工事会社の最適なマッチングは、元請けの施工力アップにつながります。そこで大手ゼネコンと弊社がパートナーシップを組むケースが出てきました。
おかげさまで、国土交通省主催の2020年度「i-Construction大賞」では国土交通大臣賞を受賞。また、同じく国土交通省が主導する「建設キャリアアップシステム(CCUS)」と「助太刀」の連携によって、CCUS加入者が「助太刀」で自らの健全性をアピールできるようになっています。
ーーマッチング以外にもITを活用した事業をお考えですか。
我妻陽一:
オンデマンド教育サービス「助太刀学院」を開校しました。「現場で必須の資格をどう取得すればいいかわからない」「休みをとって受講するのは難しい」。そんな声に応える教育サービスです。オンデマンド形式を採用したことで、空いた時間や移動時間などで受講でき、受講後にはデジタル資格書を受け取り、現場で活用できるようになります。
このサービスの目的は、職人から施工管理などへのキャリアアップはもちろんですが、一番の狙いは未経験者に建設業界への入職を促すことです。2030年には約80万人の職人が引退するといわれており(※1)、新しい担い手を確保するためにも、ITは欠かせません。
(※1)国土交通省「建設業を巡る現状と課題」2023年
職人の生活基盤をサポートするという社会的な意義
ーーパートナーシッププログラムの拡充について教えてください。
我妻陽一:
まず「助太刀学院」を中心とした教育事業の強化に注力していきたいと考えています。また、外国人材のプラットフォーマーとしての基盤拡大を積極的に行う方針です。これにより、将来的な新規事業においても、弊社のプラットフォーマーとしての強みを最大限活かしながら、事業を展開できる体制を構築していく予定です。
編集後記
同社は「建設現場を魅力ある職場に」というミッションを掲げている。社員のバックグラウンドは金融、IT、行政、建設とさまざまだが、このミッションへの共感が社内をひとつにまとめあげているようだ。そして、ミッションを達成するために、「IT×建設」を軸にマッチング、正社員採用、教育とさまざまなサービスを展開してきた。これからも新しいサービスを打ち出し、ITで建設業界の課題を網羅的に解決する同社に引き続き注目したい。

我妻陽一/1978年生まれ。株式会社きんでんに入社し、工事部に所属。主にゼネコンの大型現場や再開発事業などの電気工事施工管理業務に従事。電気工事会社を10年以上経営した後、2017年3月に株式会社助太刀を創業。立教大学大学院 経営管理学修士課程修了。