※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

少子高齢化による人手不足が深刻化し、多くの分野で産業用ロボットの役割はますます重要性を増している。そのような時代背景の中、髙丸工業株式会社は業界の牽引役を担ってきた。60年以上にわたり、ロボットシステムインテグレータとして活動する。同社は完全オーダーメイドを強みとし、その高い技術力と信頼から、積極的な営業活動をせずとも相談が舞い込むほどだ。メガバンクでの勤務を経て、家業を継いだ3代目の髙丸泰幸氏。異業種での経験で培った広い視野と、初代から受け継がれる現場主義の精神を胸に、業界の常識を変える挑戦を続ける同氏の思いに迫る。

10歳で決めた社長への道 メガバンクで培った経営の礎

ーーこれまでのご経歴をお聞かせいただけますか。

髙丸泰幸:
私は次男ですが、10歳の頃には「大人になったら父のように社長になる」と決めていました。ただ、父が持つ30年のキャリアとの差は、同じものづくりの道に進んでも到底埋められません。そのため、父とは異なる経営のスキルを身につける必要があると考えました。高校入学後すぐに、商学部の経営コースへ進むことを決意したほどです。高校1年生の時点で、進学する大学の学部も、その中で入るゼミまで決めていました。

その後、父や大学の先輩から「全く違う世界を知った方がよい」との助言を受け、社会勉強の場として三井住友銀行へ入行しました。

ーーメガバンクでのご経験は、現在の経営にどう活かされていますか。

髙丸泰幸:
財務や経営のあるべき姿はもちろん、仕事への向き合い方を徹底的に叩き込まれました。スケジュールを書き出して細かく指摘いただいたり、重要な面談が長引き、多くの方が参加する支店の勉強会に遅刻してしまった際には、社内の行事を蔑ろにする姿勢に対し叱責されたこともあります。その経験が、今では細部まで意識して仕事に取り組む姿勢につながっています。

技術力の源泉は「人」完全オーダーメイドを支える現場のDNA

ーー貴社の事業内容と、業界における強みをお聞かせください。

髙丸泰幸:
弊社は「ロボットシステムインテグレータ」(※)として、事業を展開しています。ロボットに周辺装置やプログラムを組み込み、生産設備として「命を吹き込む」仕事です。創業以来、この事業を50年近く続けており、業界でも指折りの老舗と自負しております。

強みは、中小企業のお客様を中心に、完全オーダーメイドで応えられる点です。その対象は食品から潜水艦まで、あらゆる業界のニーズに及びます。おかげさまで、毎年仕事の半分以上が初めてお取引するお客様です。長年の経験そのものが信頼につながっていると感じています。

(※)ロボットシステムインテグレータ:ロボットを使用した機械システムの導入提案や設計、組立などを行う事業者

ーー銀行から家業である製造業の現場に入る際、戸惑いはありませんでしたか。

髙丸泰幸:
戸惑いよりも、自社の持つ「人の力」に大きな可能性を見出すという発見がありました。「すべての作業の基本は現場にある」という考えが、弊社にはDNAとして根付いています。その教えのもと、入社後2年間は現場作業に専念しました。慣れない環境に苦労し、1ヶ月で7kgも痩せました。しかしその中で、社員たちが成長する姿を目の当たりにしたのです。彼らは日々、異なる壁にぶつかり苦しみながらも、少しずつ乗り越えることで、それを自らの力に変えていました。自分で考えて仕事を完結させる彼らの姿は、エリートが集まる銀行員以上に優秀だと感じたほどです。

目指すは業界のOS 「ロボット業界のマイクロソフト」という未来像

ーー現在、注力されていることはどんなことでしょうか。

髙丸泰幸:
近年、自社商品の開発に力を入れています。着想のきっかけは、父が20〜30年前に見たあるシステムです。おもちゃのロボットを動かすと、本物のロボットが連動して溶接を行うというものでした。その利用者は「ロボットも溶接も分からないけど、これを使ったら上手にできる」と言ったそうです。つまり、ロボットを省人化の設備ではなく、「人の技術を補う道具」として捉えていたのです。

この考え方こそが、ロボットの真の価値を引き出す鍵だと考えています。多くの人はロボットを大量生産向きと考えがちですが、本来は多品種少量生産にこそ真価を発揮するものです。そのためのプログラム変更の手間を劇的に簡略化できれば、市場は単純計算で6000倍になってもおかしくありません。

そこで現在、誰でも簡単にロボットを扱えるシステムの開発を進めています。「ロボット業界のマイクロソフト」として、業界のOSとなるような商品を確立することが目標です。

ーー今後の展望について、どうお考えですか。

髙丸泰幸:
いたずらに規模拡大だけを追いかけるつもりはありません。私にとって会社は家族の一部であり、その血の通った温かさを大切にしたいと考えています。最近、弊社が製品を納入したお客様の工場で、ある光景を目にしました。溶接未経験の若者がロボットを使いこなして溶接を行い、その後に手作業の溶接技術まで習得したのです。ロボットが溶接する様を見て手作業の溶接技術を習得するという、成長と教育の手順は、今までは考えもしませんでしたし、まさに目からうろこでした。これは技術の継承のあり方が変わる瞬間であり、私たちの目指す未来だと感じています。100年先を見据え、守るべきDNAを受け継ぎながら、時代の変化に対応していくことが私の使命です。

編集後記

「ロボット業界のマイクロソフトになる」という壮大なビジョンと、「会社は家族」と語る温かい眼差し。髙丸専務の中には、銀行で培われた冷静な戦略眼と、家業への深い愛情が共存している。初代から続く歴史を受け止め、業界の未来を切り拓こうとするその挑戦は、多くのものづくり企業に希望を与えていくに違いない。

髙丸泰幸/1992年西宮市生まれ。大学卒業後、株式会社三井住友銀行に入行し、異業種での経験を積む。その後、髙丸工業株式会社へ入社。現在は専務取締役として、組立作業や遠隔操作技術といった現場の開発業務に携わる傍ら、経営企画全般を統括。人材育成や顧客への補助金取得支援など、時代の変化に合わせた多角的な取り組みを推進している。