
企業や地方自治体向けに、チームビルディングなどのイベントを企画・運営する株式会社IKUSA。「課題を見つけ、あそびで解決」を切り口にサービスを展開する、「あそび」のプロフェッショナル集団である。代表取締役の赤坂大樹氏にとって、ファーストキャリアで培った営業力と「あそび」への情熱が原動力だ。本記事では、赤坂氏の独立への道のり、事業へのこだわり、そして未来への展望を深く掘り下げる。
「あそび」をビジネスに変えた起業家の原点
ーー独立に至るまでの経緯についてお聞かせください。
赤坂大樹:
私が最初に就職したのはキーエンスです。会社選びの動機は「生きていくための力をつけたい」という強い思いでした。営業職で自分の力を試したいと考えていたのです。大阪で約3年間、名古屋で約3年半、営業としてお客様に物事を伝える力を磨きました。
ある程度の自信を持てるようになった頃、ある気持ちが芽生えました。それは、自分の働き方やクライアント、事業領域を自分で選んでいきたいというものです。他の会社に移るよりも、自分で事業をつくった方がよいと考え、独立を決意しました。
ーー独立されたのは、どのような背景があったのでしょうか。
赤坂大樹:
共同創業者とともに起業し、当初はデジタルマーケティングを事業の柱としました。その後共同創業者がやっていた任意団体をNPO法人化しました。大阪城を訪れる外国人の方に日本の文化を伝え、喜んでもらおうという外遊び、チャンバラ合戦を広める活動です。活動を進める中でお客様の喜びに手応えを感じていきましたが、NPOではどうしてもメンバーのコミットメントに差が出てしまいます。本格的に事業化するには限界があると感じました。
そこで、メンバーが本気で活動できるよう会社として事業に取り組むべきだと考え、株式会社の事業として事業化することにしました。色々なご縁もあり、数年でコンサルティング事業と同等の利益が出るようになり、この「あそび」の事業に軸足を置くことを決め、後の「あそび総合カンパニー」になるきっかけになりました。
ーー貴社が企画するイベントの最大の強みについて教えてください。
赤坂大樹:
最大の強みは「課題解決」を目的としている点です。弊社は体験型イベント・研修のクリエイティブカンパニーであり、お客様の課題を解決するためにサービスをつくるのが特徴です。お客様の目的や課題を深く掘り下げ、その解決策として最適なイベントをゼロから企画・制作します。
全国規模で法人営業を展開し、マーケティング部隊を内製化しているイベント会社はほとんどありません。この点も、弊社の大きな強みだと自負しています。
年間1400件ものイベントを実施しているので、多種多様な企業様からご依頼をいただいています。データを見ると、企業イベントの7割は従業員数1000人以上の大企業です。しかし、ベンチャー企業や中小企業からもご依頼があります。「みんなで何かをしたい」「コンテンツを提案してほしい」「アイデアを実現してほしい」といったニーズが多いです。特に、人材育成や採用に注力している企業様には、弊社はお役に立てると考えています。
ーーこれまで経験されて来たことは、貴社の組織づくりにどのように活かされていますか。
赤坂大樹:
弊社のクライアントの多くはスポットでの利用が中心です。また、毎年担当者が変わることも珍しくありません。これは、常に新しいお客様を見つけ続けなければならないことを意味します。この特徴に対応するため、セールスとマーケティングの部隊を内製化しました。情報収集から新商品の開発、ご提案までを迅速に行うことで、新規開拓に強い組織を構築しています。
これは、キーエンスでの営業時代に学んだ「勝ち筋」を参考にしています。また、単に売上を追求するだけではありません。お客様に寄り添うことや、社員が顧客ニーズを感じ取り、新しいサービスを企画・開発できる文化を重要視しています。
顧客の心をつかむ「あそび」と成長を求める人材

ーーサービスを導入した企業の反応はいかがですか。
赤坂大樹:
「内定辞退率が下がった」「コミュニケーション活性化のきっかけになった」という企業様は多くいらっしゃいます。内定者や新入社員が、直属の上司以外にも相談できる先輩を見つける。あるいは社内に新たな知り合いが増える。こうしたことが、社員の定着につながるようです。
中には、3年、4年と連続でご利用いただく企業様もいらっしゃいます。また、年間3〜4回イベントを実施してくださる企業様も数十社にのぼります。
ーー貴社で活躍されているのはどのような方でしょうか。
赤坂大樹:
「やりたいこと」があり、仕事の中身にこだわる人です。お客様に本質的な価値を提供したい。お客様が楽しんでいる姿を目の前で見たい。自らのクリエイティブで人々を熱狂させたい。このような「欲」がある人には最適な環境かもしれません。
弊社は楽さや効率、報酬だけで人を集める会社ではありません。そのため、ワークライフバランスを重視し、仕事をパーツとして捉えたい人には向いていないかもしれません。
私たちの使命は、「あそび」の価値を最大化して社会に貢献することです。これは決して楽な仕事ではありませんが、大きなやりがいがあります。だからこそ、会社の事業に自身の「やりたいこと」を重ねられる仲間と、熱い思いを持って共に挑戦したいと考えています。
「あそび」で未来を創造する経営者のビジョン
ーー10年後、20年後の未来の展望についてお聞かせください。
赤坂大樹:
多くの企業にとって、採用と定着は企業の大きな課題です。その中で、定着や飲み会以外での接点づくり、みんなが集まるハレの場として社内イベントや研修といった施策が当たり前になる未来を目指しています。それらが、企業のゴール達成のための合理的な投資として認識されるような未来です。10年後、20年後には、社内エンゲージメントを高めたいときに「IKUSAに相談しよう」と自然に思ってもらえる存在になりたいですね。
また、地方では人材が減少し、イベントを企画・実行できる人材も不足しています。そのような地域に、私たちが培った「あそびコンサルタント」が提案しにいきます。そして、地域を盛り上げるイベントや祭り、非日常の体験を提供していきたいと考えています。
ーー最後に、本記事の読者へメッセージをお願いします。
赤坂大樹:
「スキルアップ」を口にする若手は多いです。しかし、そのスキルを何のために、どこで活かすのかが重要だと考えます。売りやすいものもいいかもしれませんが、自信があるなら自分が心から「これだ」と思える商材やコンセプトを見つけてください。そして、幸せにしたい対象に、正面から向き合ってみるのもいいのではないでしょうか。
編集後記
赤坂氏の言葉からは、事業に対する並々ならぬ情熱が伝わってくる。「あそび」という軽やかなテーマの裏に隠された、徹底した顧客の課題解決へのこだわりだ。キーエンスでの経験で培われた確固たる営業戦略。そしてコロナ禍を乗り越えた柔軟な発想力。これらが「あそび」をビジネスへと昇華させる同社の原動力となっている。型にはまらない発想で人々の心を動かし、社会を豊かにする同社の今後の展開に注目したい。

赤坂大樹/2005年大学卒業後、株式会社キーエンスに入社。デジタルマーケティング事業を主軸とする株式会社TearsSwitch(現・株式会社IKUSA)を創業。リアル合戦エンターテインメント「チャンバラ合戦」を事業化。「あそび総合カンパニー」をビジョンに事業展開。これまでに100種以上のサービスでチームビルディングや地域課題の解決を図る。年間1400件超のイベントを実施。著書に『あそぶ社員研修のススメ』(幻冬舎)。