※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

総合商社の兼松株式会社に入社し、海外の大型プロジェクトを牽引してきた重田和康氏。30代で海外合弁会社のトップに立ち、現在は兼松ロジスティクス アンド インシュアランス株式会社の代表取締役社長として組織を率いる。同社は物流と保険の機能を併せ持つ唯一無二の存在だ。サプライチェーンが複雑化し世界的なリスクが高まる現代、なぜ「物流×保険」のかけ合わせが必然なのか。AIに代替できない人にしか生み出せない価値とは何か。同社のビジョンと次世代に求める人物像についてうかがった。

若き日の熱狂と叱責から生まれた「経営者マインド」

ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。

重田和康:
大学卒業後、兼松株式会社に入社し、長らく輸出関連の業務に携わりました。特に印象に残っているのは、入社10年目頃のことです。当時、台湾での半導体工場立ち上げと、海底ケーブル敷設に伴う光ファイバー関連の輸送という、2つの巨大なプロジェクトが同時期に重なっていました。その頃は1カ月半も家に帰れず、会社近くに寝泊まりするような日々。一泊だけ家に帰れた朝、幼い娘に「また来てね」と言われるほど、自宅に帰るというよりはたまに顔を出す「お客さん」のような状態でしたが、この2つの巨大なプロジェクトをやり遂げた時の達成感は、今でも鮮明に覚えています。

ーー30代で社長に就任された当時の心境はいかがでしたか。

重田和康:
社内で白羽の矢が立ち、インドネシアの合弁会社社長に就任しました。しかし、当時の私はまだ「従業員マインド」から抜け出せていませんでした。ある時、現地のパートナー(株主)に対して、決算後の利益処分について「配当はこのくらいでいいでしょうか」と軽い気持ちで相談してしまったのです。すると、「それでもお前は経営者か。株主との対話をそのように曖昧に済ませるようでは、経営者失格だ」と激しく叱責されました。ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けると同時に、会社を預かる者として、出資者に対して利益をどう還元し、どう投資していくかを論理的に説明する責任があるのだと目が覚めました。この経験が、私の「経営者マインド」への覚醒であり、経営者としての原点になっています。

唯一無二の「物流×保険」がサプライチェーンを守る

ーー現在、貴社が展開されている事業の強みについてお聞かせください。

重田和康:
最大の強みは、物流事業と保険事業をワンストップで提供できる点にあります。一般的な総合商社では、物流子会社と保険代理店が別々に存在していますが、両機能が一体化しているのは弊社のような商社系子会社としては唯一無二の立ち位置です。

近年、企業の海外進出が進み、サプライチェーンは世界中に長く伸びています。同時に、自然災害の激甚化や地政学的なリスク、サイバー攻撃など、企業を取り巻くリスクはかつてないほど高まっています。サプライチェーンを途絶えさせないためには、保険による金銭的なリスクヘッジだけでなく、代替の輸送ルートの確保や在庫拠点の分散といったロジスティクスの観点からのバックアップが不可欠です。この2つをかけ合わせ、お客様のサプライチェーン全体を包括的にお守りできるのが弊社の価値です。

ーー非常に重要な機能ですが、その必要性に気づいている企業は多いのでしょうか。

重田和康:
実は、潜在的なリスクを可視化し、適切な対策を打てている企業は決して多くありません。巨大な企業であっても、事業部ごとにリスク管理が分断されており、全社的な視点が欠けているケースが散見されます。弊社が提供する「物流×保険」というかけ合わせは、現代のサプライチェーンにおいて不可欠な機能であると確信しています。しかし、その重要性が世の中に広く認知され、浸透しているとは言い難いのが実情です。だからこそ、私たちが先頭に立って啓発していく必要があると強く感じています。

単なる企業の紹介にとどまらず、学生や世の中に対して、この事業がいかに社会的意義を持つ「必然性」があるか、そしてそこにどれほどの「面白み」が詰まっているかを伝えていくことが私たちの使命です。

顧客に感謝される前に自分が顧客に感謝する

ーーそうした課題を解決していくために、何が必要だとお考えですか。

重田和康:
常に顧客に寄り添い、深く入り込む姿勢です。サプライチェーンの根幹を守る私たちの仕事は、お客様の企業存続に関わる本質的な部分でお役に立つことができます。私は社内で、「お客様に感謝される前に、まず自分たちがお客様に感謝しよう」と伝え続けています。

お客様から感謝される仕事をするためには、まず自分自身がお客様や私たちを支えてくれるサプライヤーに対して、感謝の念を持つことが大前提だと思うからです。その双方向の信頼関係があってこそ、真のパートナーとしてビジネスを前進させることができると考えています。

ーーAIなどの技術革新が進む中、人にしかできない役割とは何だとお考えですか。

重田和康:
事務的な作業の多くは近い将来、AIに代替されるでしょう。しかし、個社ごとに異なる潜在的リスクはAIには判断できません。お客様自身も気づいていない潜在的なリスクを対話の中から見つけ出し、解決策を提案することは、人間にしかできない高度な専門領域です。これは、人間にしかできない深い洞察力と提案力があって初めて成立するものです。だからこそ、視野を広く持ち、ビジネスの複雑な構造を理解することに面白みを感じられる人材を求めています。

ーー最後に、貴社が目指す5年後、10年後の未来についてお話いただけますか。

重田和康:
日本経済は古くから貿易によって成り立ってきました。日本の強さを維持するためには、サプライチェーンのリスクマネジメントが必要不可欠です。私たちは単に利益を追求するのではなく、業界のトップランナーとして知見を蓄積し、他社が模範とするような存在になることを目指しています。その使命を全うすることで、5年後、10年後の社会に大きなインパクトを与えていくという確固たるビジョンを持っています。日本の経済的基盤を裏側から支え、守り抜く。これほどダイナミックで社会的な意義の大きな仕事はありません。この志に共感し、一緒に日本の未来をつくっていける若い世代の方々に、ぜひ私たちの仲間に加わってほしいと願っています。

編集後記

世の中の裏側でダイナミックに動くモノの流れ。それを守る「物流×保険」という独自のビジネスモデルは、変化の激しい現代においてまさに「企業の命綱」である。重田社長の言葉の端々からは、過去の強烈な原体験に裏打ちされた経営者としての覚悟と、自社の事業が日本経済の未来を支えるという強い使命感がひしひしと伝わってきた。AIの波が押し寄せる中で、あえて「人間にしかできない泥臭くも高度な提案」に価値を見出す同社の姿勢は、本質的なビジネスの面白さを教えてくれる。先駆者として日本のサプライチェーンを牽引する同社が、これからどのような軌跡を描くのか非常に楽しみだ。

重田和康/1989年 兼松江商㈱(現 兼松株式会社)入社。2000~2007年 インドネシア合弁会社PT Dunia Express Transindo社長、2012年~2015年 ベトナム合弁会社 Vietnam-Japan International Transport Co., Ltd会長、兼松㈱ 運輸保険部長を経て、2024年に兼松ロジスティクスアンドインシュアランス㈱ 代表取締役社長に就任。