※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

日本のキャッシュレス化が加速する中、半世紀以上の歴史を持つユーシーカード株式会社が大きな転換点を迎えている。2024年に代表取締役社長に就任した福岡和大氏は、競争が激化する個人向け市場から「法人特化」へと戦略をシフトさせた。その決断の背景には、銀行員時代の広報経験で培った「客観的な視点」と、ある先輩から授かった「『いい人』を辞める」という教訓があった。「脱・八方美人」を掲げ、組織の抜本改革に挑む同氏の組織変革の真髄と、リーダーとしての覚悟に迫る。

広報経験で培った「客観性」と摩擦を恐れぬ信条

ーーこれまでのご経歴について、お聞かせいただけますでしょうか。

福岡和大:
学生時代は主に経済学を学び、メディアの世界に興味を持っていました。しかし就職活動を通じて銀行というフィールドの広さに惹かれ、株式会社富士銀行(現・株式会社みずほ銀行)の門を叩きました。

入行後は法人営業や本部法人部門などを歩みましたが、キャリアの転機となったのは広報部門での経験です。ここで「世の中から会社がどう見られているか」を徹底的に叩き込まれました。組織の中にいると、どうしても「行内の論理」や「社内の常識」で物事を考えがちです。しかし広報の仕事を通じて、記者の方々の厳しい目線に触れ、自分たちが客観的にどう評価され、何が問題視されているのかを痛感しました。耳の痛い指摘も含めて経営層へ伝えていく。その経験が、現在の経営判断における「客観性」の土台になっています。

ーー仕事に向き合う上で、大切にされている信条はありますか。

福岡和大:
「摩擦を恐れずに、言うべきことは言う」という姿勢です。これは30代半ばの頃、当時の上司に「誰からも好かれる人間なんていないし、そんなことばかり考えていたら疲れてしまうぞ」と言われたことが原点になっています。

銀行員時代、とくに若い頃は、お客様からも社内からも「いい人」と思われたい、いわば「八方美人」でありたいと考えがちです。私自身もそうでした。しかしその上司は、「聞く耳は持つべきだが、変にいい顔をせず、伝えるべきことはきちんと伝えなさい」と諭してくれました。

この年齢になり周囲を見渡すと、全方位に好かれようとして肩に力が入っている人は、かえって本来言うべきことが言えなくなっているように見受けられます。もちろん、周囲への「気遣い」は大切です。しかし組織を良くするためには、嫌われることを恐れず、信じる正義を伝える覚悟が必要です。その重要性を、先輩の言葉から学びました。

銀行からカード業界への転身 未開拓の「法人決済」に勝機

ーー現職に就かれた経緯と、まず着手したことについて教えてください。

福岡和大:
長年、銀行で法人営業の最前線にいましたが、50代半ばにしてユーシーカードへ移ることになりました。銀行とは文化も気質も異なる環境で、一から挑戦できることに非常に新鮮なやりがいを感じています。

その中で、社長就任にあたり私が下した最大の決断が、個人向け以上に「法人向けカード」へ資源を集中させることです。現在、個人向け市場はポイント還元競争が激化し、莫大なコストを要する消耗戦の様相を呈しています。対照的に、企業間決済の領域には未だ広大な可能性が眠っています。

手形決済の廃止やインボイス制度への対応など、企業の経理業務は今、変革の時を迎えています。法人カードやコーポレートカードを導入すれば、経費精算の効率化のみならず、内部統制の強化にも直結します。昨年は国内最大手の電機メーカーグループに約10万枚のコーポレートカードを導入いただくなど、大規模な案件も結実しました。株式会社みずほ銀行の顧客基盤という強みを活かしつつ、顧客企業のシステムに合わせて機能を柔軟に調整するなど、法人ニーズに徹底的に寄り添うことで独自の価値を創出しています。

ーー事業戦略の転換に伴い、組織面ではどのような改革を進められているのでしょうか。

福岡和大:
新技術の活用と、新たな収益源の開拓に注力しています。昨年秋に新組織を立ち上げ、既存事業の枠を超えた新規ビジネスの開拓に着手しました。同時に、社内の業務効率化や知見の継承にAIを活用する動きも加速させています。長年の歴史がある分、業務知識がベテラン社員に属人化している点が課題でした。これらをマニュアル化してAIに学習させ、誰でも過去の事例や対応策を即座に引き出せる仕組みの構築に挑んでいます。

「変化」を察知し 先回りして動く組織へ

ーーそうした仕組み作りが進む一方で、社員一人ひとりにはどのような意識変革を求めているのでしょうか。

福岡和大:
繰り返し伝えているのは、「気がつく人になってほしい」ということです。単に「変化があるな」と思うだけでは不十分です。気づいたのであれば、そこに対して「具体的な行動」を起こさなければ意味がありません。

営業であれば、お客様との何気ない会話や雰囲気から「何か新しいことを始めようとしているな」と予兆を察知し、先回りして提案する。そのためには、要望を聞くだけでなく、雑談を通じて相手の懐に入り込む人間力が求められます。若手向けの勉強会に私自身が登壇してコミュニケーションの要諦を伝えたり、海外の決済事情を肌で感じる海外研修を復活させたりと、社員が視座を高められる機会を積極的に設けています。

ーー最後に、今後の展望と求める人物像とはどのようなものでしょうか。

福岡和大:
社会の決済インフラを支える企業であり続けたい、その思いは変わりません。将来的にはプラスチックカードという形状は消滅するかもしれませんが、クレジットカード番号を起点とした決済手段としての機能や、私たちが担保する「信用」の価値は不変です。だからこそ、既存の枠にとらわれず、未知の領域に挑む意欲を持った方に、ぜひ加わっていただきたい。変化の激しい業界ですが、それは自分の可能性を試す絶好の機会でもあります。前向きな思考で、共に新しいユーシーカードの形を創り上げていける方をお待ちしています。

編集後記

銀行員時代のエピソードとして語られた「脱・八方美人」という言葉が鮮烈だった。一見、堅実な銀行出身の経営者という印象だが、福岡氏の言葉の端々からは、形式にとらわれず「本質」を突こうとするリアリストの眼差しと、社員一人ひとりと対話を重ねる温かみが同居している。法人特化という明確な戦略と、社員の「気づく力」「行動する力」を重視する組織改革。この両輪が噛み合ったとき、同社がどのような進化を遂げるのか、その行方を注視したい。

福岡和大/1968年、東京都出身。1993年早稲田大学政治経済学部卒業後、現・みずほ銀行に入行。法人営業、広報、執行理事などを歴任し、2024年4月にユーシーカード代表取締役社長に就任。決済を取り巻く環境変化を見据え、ユーシーカードの中長期的な企業価値向上を推進している。