
1987年に大手通信会社へ入社して以来、黒電話からスマートフォン、そしてクラウドへと進化する通信業界の変革を最前線で駆け抜けてきた那谷雅敏氏。2023年に株式会社KDDIエボルバとりらいあコミュニケーションズ株式会社が統合して誕生したアルティウスリンク株式会社。2025年、同社の代表取締役に就任した那谷氏は、顧客との接点を「点」から「面」へと広げる「Total CX² Design Company」としての事業展開を強力に推進している。昨今のAI導入加速によりあらゆる対応の自動化が模索される中、同氏は、すべてをAIに置き換えるのではなく、人間の感情や細やかな配慮において、独自の介在価値を見出している。AIが台頭し、顧客の声が多角化する現代において、「人」が担う独自の価値や、社員の自律的な成長を促す事業戦略についてうかがった。
変革の最前線で見出した「顧客と向き合う」真の価値
ーーまずは、ご自身のキャリアのスタートから現在までの歩みをお聞かせください。
那谷雅敏:
1987年に、当時の第二電電(現・KDDI)へ入社しました。通信の自由化という法改正を受け、新しい電話会社が誕生するタイミングでした。私自身の中に「既存の組織に属するのではなく、自らの手で新しいものをつくっていきたい」と考えたことが入社の決め手です。
当時は黒電話の時代でしたが、そこからポケットベル、自動車電話、ガラケーからスマートフォンの時代、そしてアプリケーションでクラウドにつながる現在まで、約38年間にわたり営業の現場でお客様に寄り添い続けてきました。国内にとどまらず、アメリカ駐在を含めたグローバルな環境で、目まぐるしく進化する通信テクノロジーを事業として運営し、常に変革の渦の中で育ってきた経験を持っています。
ーー激動の通信業界を歩む中で、ご自身が最も重視されてきたことは何ですか。
那谷雅敏:
私が一貫して大切にしてきたのは、「変革に耐えうる社員・部下を育成すること」、そしてお客様に対して「変革によって何が変わるのかを明確に伝えること」です。社員にもお客様にも、安定を重んじる方と変革を重んじる方の両方が存在します。だからこそ、日々の業務の中に変化を生み出し、変革にチャレンジできる環境をつくることが重要です。それによって、自分自身のキャリアパスが拓けたり、世間から喜ばれたりする機会をいかに創出するかを意識してきました。
お客様に対しても、変革による価値を明確に示さなければ納得していただくことはできません。社内の会議室にいるだけでは世の中の変革を肌で感じることはできないため、私は常にお客様と新しい取り組みについて議論を交わし、現場の肌感覚を重視してきました。これまでにお渡しした名刺は14万枚にのぼり、現在でも週に一箱ほどのペースでなくなるほど、多くのお客様と対話を重ねています。
ーーKDDI時代から現在の貴社の事業に携わるようになった経緯を教えてください。
那谷雅敏:
KDDIでビジネス事業を担当する中で、月額料金の問い合わせ対応からネットワークの敷設、移転対応といった幅広いお困りごとを、より広範囲に解決できる方法があるのではないかと考えていました。転機となったのは2020年頃のコロナ禍です。社員が出社できず業務が滞る状況を目の当たりにし、外部の拠点で業務を担う体制の必要性を痛感しました。
こうした背景から2021年、KDDIのビジネス事業の中で回線の開通手配などを担う部門から、約500名の社員を当社の前身である旧・KDDIエボルバへ移管し、事業をまとめていきました。当時のKDDIは、社員の高齢化が進む一方で、旧・KDDIエボルバには若手社員が多く在籍していました。通信業界特有の事務処理やBPO業務は熟練者が求められるものの、若手がなかなか入りたがらない領域でもあります。
そこで、KDDIのプロフェッショナルを期間限定で現場(旧・KDDIエボルバ)に送り込み、若手へスキルトランスファー(技術継承)を行うことで、自走できる強い組織をつくる狙いがありました。3年後には移管したメンバーをKDDIへ帰任させましたが、単にマニュアルを渡して業務を委託するのではなく、親会社のプロを直接現場に送り込んで若手を徹底的に育て上げ、自走できる強い組織をつくる。そんな高度な人財戦略を進めていく上で、当社の存在はさらに欠かせないものになっていきました。
ーー経営統合を経て、お客様への価値提供にどのような変化を感じていますか。
那谷雅敏:
私たちが提供する価値によって、お客様の商品に対する満足度が大きく変わるという実感を得たことです。「全人口がお客様」という通信会社の視点とは異なり、企業の顧客対応を間に入って担う事業ならではの社会的な価値や企業価値に気づきました。
こうした手応えは、2023年の企業統合を経てさらに強まりました。コンタクトセンターで受けた業務にとどまらず、その後の事務処理や顧客接点の高度化まで含めて支援できるようになり、お客様の課題を「点」ではなく「面」で捉えられるようになったからです。統合によって対応できる領域と人財の幅が広がり、より包括的な価値提供が可能になったと実感しています。
「点」から「面」へ 5つの事業領域で挑む新たなステージ

ーー代表に就任された背景と、経営層として大切にされているお考えをお聞かせください。
那谷雅敏:
アルティウスリンクの良さを「面」に広げ、お客様のあらゆる部門や経営層に直接ご案内していく役割を担うべく、2025年に当社を率いることになりました。私は長年の営業経験があるため、お客様企業と直接対話をして事業を拡大していくことが重要だと考えています。そして経営において最も大切にしているのは、「社員のキャリアステージアップ」です。全国90カ所以上の拠点で働く社員たちは、顧客の企業担当者に成り代わって業務を行っています。自社への所属意識以上に顧客企業に入り込み、お客様と向き合う意識が高くなります。彼らがその現場経験を存分に活かし、将来的に複数の企業を支援できる人財へと成長していくための道筋を描くことが不可欠だと考えています。
ーー顧客接点の領域で、現在注力されている新たな事業展開について教えてください。
那谷雅敏:
2026年4月にビジョンステートメントとして「Total CX² Design Company」を掲げ、新たなスタートを切りました。この「CX²」というのは、お客様の「カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)」と、私たちを含めた「コーポレートトランスフォーメーション(企業変革)」という2つの意味を掛け合わせたものです。
具体的には、お客様との接点を5つの領域に分類しました。1つ目がマーケティングなどを行うCS(カスタマーサクセス)、2つ目が祖業であり確かな品質を誇るCC(コンタクトセンター)です。さらに、3つ目が、一般事務・営業事務・業界固有の事務業務などの間接業務を請け負い、支援するBO(ビジネスオペレーション)、4つ目が給与計算などコーポレート業務のアウトソースを請け負う領域。そして5つ目が、IT基盤を設計・運用まで一体で支援するIT分野となります。
従来のセンター業務という「点」のサポートにとどまらず、これら5領域を横断し、お客様の事業活動全体を「面」で捉えていくのが私たちの独自性であり、最大の強みです。
ーーお客様の事業を包括的に支える上で、海外での取り組みはどのように進めていますか。
那谷雅敏:
経営統合の相乗効果として、すでに海外でも大規模な体制を構築しています。たとえばフィリピンには、約1万1,000人規模で事業を展開する拠点があります。英語での対応が可能なため、日本企業が海外進出する際のサポートはもちろん、国土が広くWebや電話での対応需要が高い現地企業への支援も担うことが可能です。
また、BPOサービスに関しては、ベトナムでの展開を加速しているところです。日本語が堪能な若者が多いという環境を活かし、日本のお客様の業務処理を担う組織をつくっています。こうしたテクノロジーの進化やグローバル化に対応した体制は、国内のお客様に対しても大きな差別化要因になります。
AIの進化と「人の介在価値」がつくる未来の顧客体験
ーー中長期的なビジョンと、その実現に向けた戦略をお聞かせください。
那谷雅敏:
2030年に向けて「業界No.1」という中長期目標を掲げています。その実現に向けて私たちが重視しているのが、お客様の声の価値をさらに高めていくことです。
これまでコンタクトセンターでは「VOC(Voice of Customer)」としてお客様の声を蓄積してきました。しかし現在は、電話だけでなくSNSやチャット、Webサイトなど、お客様との接点が大きく広がっています。こうした多様なチャネルから寄せられる声を統合的に分析し、新商品開発やサービス改善、さらには企業変革につなげていくことが重要だと考えています。私たちは単に顧客の声を集めるだけでなく、その声から新たな価値を生み出し、お客様企業の成長に貢献する存在でありたいと思っています。
また、こうした価値提供をさらに強化するため、2026年に「サービス統括本部」を立ち上げました。5つの事業領域を横断しながら、サービスの全体最適化や新たな価値創出を推進する組織です。従来のように個別の業務を支援するだけでなく、お客様のバリューチェーン全体を見据えながら、事業やサービスを有機的につなぎ合わせることで、「点」ではなく「面」で支援できる体制を強化しています。
ーーAIについては、具体的にどのような活用をされていますか。
那谷雅敏:
技術の進化において重要なのは、すべてをAIに置き換えるのか、それとも人が介在すべき領域を見極めてAIを使うのかという判断軸です。効率だけを考えればすべてをAIにするという発想に陥りがちですが、顧客の年齢層やコミュニケーション手段は多岐にわたります。どこにAIを導入すれば価値が上がり、どこで人に切り替えれば顧客の満足度が高まるのか。この運用設計こそが私たちの強みです。
直近ではAIコンタクトセンター構想を発表しましたが、将来的には自社運営のセンターを持たないお客様へのAIの提供も考えていく方針です。AI導入による効率化だけでなく、空いた人員を本業にどう活かすかという「お客様企業の人員育成」も支援していきたいと考えています。
ーーAIと人が共存する環境において人が担うべき役割とは何だと思われますか。
那谷雅敏:
AIが得意なことと、人だからこそできることを見極め、適切に組み合わせていくことだと考えています。
AIは膨大な情報の処理や分析を得意としていますが、人の感情や価値観、相手の状況や文脈を踏まえた判断までは担いきれません。特にお客様とのコミュニケーションでは、効率性だけではなく、相手にどのように受け取られるかという視点が重要になります。
実際に、文章作成や審査業務などでもAI活用が進んでいますが、最終的な表現や判断については人が確認し、適切な配慮が行われているかを見極めています。AIによる効率化が進むほど、その結果を補完し、人らしい価値を加える役割はむしろ重要になっていくと考えています。
実践的教育でお互いに成長し社会に貢献する企業へ

ーー新しい業務に対応するための人財教育への取り組みを教えてください。
那谷雅敏:
人財教育は非常に重要であり、これまで以上に熱心に取り組んでいきます。特にAI人財の育成については重点施策のひとつに掲げ、生成AIを業務活用できる環境構築や認定制度の設置など、さまざまな環境を整え始めています。キャリアパスの整備もしっかりと進め、会社全体を見渡して方向性を理解してもらう教育にも注力していきます。
また、学んだことや成功事例を組織全体に横展開する仕組みづくりも始めました。社員がAIを活用して何を開発し、何ができるようになったのかを社内システムで日々報告し合っています。誰かが一方的に教えるのではなく、お互いの成長を発表し、吸収し合う文化が根付いてきています。多数の拠点で多くの社員が働く環境だからこそ、この知識共有のスピードと効果は絶大です。
ーー最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
那谷雅敏:
私たちは、日本全体の事業プロセスを支え、社会に貢献する企業でありたいと考えています。そのためには、お客様の身になって声を聞き、SNSなどを通じて届く顧客の思いをしっかりと理解することが最も重要です。これが自分自身の成長や、社会貢献の根本になります。
お客様の顧客に寄り添い、社会に貢献しながら自分自身を高めていける、やりがいを重視した環境がここにはあります。社会に貢献したいという思いを持つ方にとって、生の声が聞ける企業としてアルティウスリンクは唯一無二の存在です。ぜひ、私たちと一緒に新しい価値を創造していきましょう。
編集後記
通信業界の激動を38年にわたり駆け抜けてきた那谷社長の言葉からは、現場への深い愛情と確かな熱量がひしひしと伝わってきた。AIによる自動化が急速に進む中、人の感情や細やかな配慮という領域にこそ「新たな価値」が生まれるという視点は、これからのビジネスにおいて重要な指針となるだろう。顧客の真の課題に寄り添い、人とテクノロジーの融合によって社会に貢献し続ける同社が、今後どのような未来を切り拓いていくのか、大いに期待が高まる。

那谷雅敏/1987年、現在のKDDI株式会社にあたる第二電電株式会社へ入社。法人向けビジネスにおけるソリューション営業を最前線で強力に推進し、2019年には執行役員に就任した。2021年からはビジネスデザイン本部を立ち上げ、お客様のニーズを捉えた新規事業の開発やDX(デジタルトランスフォーメーション)の展開を力強くリード。2025年、アルティウスリンクの代表取締役社長に就任した。