※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

1950年に創業し、現在77期目を迎える株式会社書泉。「書泉」と「芳林堂書店」の屋号を掲げて東京の秋葉原や神保町、高田馬場に店舗を構え、厳しい状況が続く書店業界において事業の黒字化を実現した。教育・エンターテインメント業界で培ったイベント企画やノウハウを「本屋」に落とし込み、独自のブランドを構築している代表取締役社長の手林大輔氏に、縮小市場の中で逆境を乗り越える同社の組織変革と、未来への展望をうかがった。

異業種での経験が活きる「体験の価値」と「数字の把握」

ーーまずは、貴社に参画された経緯をお聞かせください。

手林大輔:
51歳の時に、一般的な転職サービスを利用して自ら応募したのがきっかけです。もともと前職は教育業界におり、そこでもエンタメに近い事業に携わっていましたが、「衣食住」に関わる必須のものよりも、あえて無駄なところでお金や時間を使うことこそが一番人間らしいと考え、エンタメの塊である本屋を選びました。

現在の書泉は、1950年の創業から数えて「77期目のベンチャー企業」だと捉えています。時代や市場が変化したにもかかわらず、長年ビジネスモデルが変わっていなかったため、今まさに会社を根本からつくり直している最中なのです。

ーー多彩な企画を生み出す「視点」はどのようなご経験から培われたのでしょうか。

手林大輔:
一番役に立っているのは、前職でライセンスビジネスに長く関わってきたことです。IPを作成している側が、何を大切にして製作・育成してきているかという考えと、どのようなルールで世の中ではライセンスビジネスが行われているかを理解したことが、現在の企画につながっています。

また、「しまじろうコンサート」などのイベント企画・事業に関わっていたことも大きいですね。昨今は、お客様が「特別な一日」に時間とお金をかける傾向が強くなってきていると感じています。生活の「ハレ」の部分をどう演出していくのか、そこの値付けをどうするのかという視点が、現業にも大いに役立っていると思います。

利益構造の改革と「定価」という常識の打破

ーーお客様に店舗へ足を運んでいただくために、こだわっていることは何ですか。

手林大輔:
「書泉や芳林堂書店でしか買えない、体験できないことがある」ということにこだわり続けています。それは独自の購入特典かもしれませんし、著者の方のサインや、応援したいタレントさんに会える時間かもしれません。単に「本を買える場所」というだけでなく、「この本屋に来るのが楽しい」空間をいかにつくるかということです。たとえば、過去の書籍の復刊企画「書泉と、10冊」では、65タイトルを復刊して9万冊近くを売り上げました。

今後は、電子でしか読めないコミックの「紙化」や、原作絵にこだわったPOP UP企画、著者の方やつくり手と一緒に実施するイベントなどに取り組んでいきたいと思っており、「推したいものがある“アナタ”を推します!」という気持ちで、「推しまくる、本屋」をコンセプトに据えています。

また、お客様からいわれる「アタマオカシイ本屋」という言葉は、「そこまでやるか!」「やってくれると思ってた!」というお客様の声を実現できて、初めていただける最高の褒め言葉だと思っています。「また書泉がなんかやってるよ」と喜んでもらえるような仕掛けを続けていくことこそが、独自のブランドをつくっていくと信じているのです。

ーー事業を黒字化へと導いた、具体的な改革の手法を教えてください。

手林大輔:
前提として、書店業は原価が高い上に人件費や家賃もかかるため、販促費すら満足にかけられないという「利益が出にくい」構造にあります。これを打破するためには「本は定価で売るしかない」という思い込みを捨て、売り方を根本から工夫する必要がありました。具体的には、本単体ではなくキャラクターのアクリルスタンドなどの特典をセットにして販売するなどして、利益を確保できる価格設定を行っています。

また、オンライン通販では「送料無料」を当たり前とせず、物理的な発送にかかる実費として適正な送料をお客様からいただく形に改めました。さらに、イベントも単なる販促ではなく、チケット単体で収益が上がるエンタメとして成立させています。全体を1%ずつ細かくコストダウンするのではなく、こうしたインパクトのある箇所の構造を正しく見直したことが黒字化の鍵でした。

自走する組織への変革と社員に約束できる仕組みづくり

ーーブランドを形づくる社員に対して、経営体制の面でどのような還元をお考えですか。

手林大輔:
厳しい時期を経てようやく黒字化し、事業形態の変化に確信を持てています。だからこそ、「会社が目指すべきこと」を達成すると「自分たちの生活も豊かになる」という当たり前の仕組みを、現在わかりやすく整備しているところです。その分、社員にも「数字にこだわる」「自分の業務を数字で把握する」ことを求め続けます。さらに「考え続ける」「とりあえずやってみる」姿勢も同様です。

私自身、毎週土曜日には必ず現場の数字や、今後の戦略について社内へメールを発信し、社員が自発的に企画を説明する場も設けています。自分たちが取り組んでいることを「数字で理解すること」と同時に「企画や施策は、まずはやってみること」を推奨し、メンバーからの「これをやると儲かると思います」「楽しいと思います」という生の声を大切にしています。

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

手林大輔:
弊社は今年の9月から77期に入りました。そのうえでまずは、書泉・芳林堂書店の熱心なファンの方が今以上に増えている状態をつくり、「俺たちの書泉」のような評判が広がると嬉しいですね。近年では海外の方が弊社の店舗の様子をVlogで発信してくれるなど、インバウンドの注目度も高まっています。

また、経営的には利益率を3%台に持っていき、自走し続けられる会社でありたいと思います。そして、数年後に100期目を迎えても、さらに東京にある“変わった本屋”であり続けてもらいたいと思います。観光に来た人が「せっかく東京に来たんだから、書泉・芳林堂書店に行こうよ」と思ってもらえる場所にしていく決意です。

編集後記

厳しい状況が続く出版・書店業界において、独自のエンターテインメント化を推し進め、事業を黒字化した手林氏の言葉には確かな熱がこもっていた。特に印象的だったのは、数字という冷静な指標と、ファンを熱狂させる「アタマオカシイ」企画という真逆の要素を融合させている点だ。社員一人ひとりが自律し、自らも楽しみながら「推しまくる」姿勢が続く限り、同社が生み出す新たなエンターテインメントも異次元へと飛躍を続けることだろう。

手林大輔/1970年、富山県生まれ。同志社大学文学部卒業。株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、幼児向けの新規事業立ち上げや、キャラクターのライセンス・イベント事業に長く携わる。2022年に株式会社書泉の代表取締役社長に就任。着任3期目で単年度黒字化を達成し、現在に至る。