【ナレーター】
その後、2002年に4代目社長へ就任。鋳物を地域が誇れる産業にするべく、展示会への出展を始めとした新たな施策に次々に打ち出した結果、売上高は10倍以上に増加。
その成長を実現できた要因と秘訣とは。
【能作】
“仕事が楽しいこと”が根本だと思うんですよ。自分のやっていることに誇りを持って楽しく思うことというのが一番の成長の秘訣じゃないですか。これが楽しくなかったら成長なんて絶対しませんよ。
特に当社なんかは元々が伝統産業でいう生地屋さんで、問屋さんがいて問屋さんとしか仕事をしていなかった。だけど直接何かを言い出すと問屋さんを飛び越える形になるわけで、結構業態が崩れる可能性があると思ったんですよ。
それで僕はどうしたかというと営業しないと決めたんですよ。要するに展示会で見てもらってほしいという人が来れば対応しようと。それで欲しいと言った人が高岡の問屋さんと付き合いがある場合はそちらを介して買ってくださいと伝えていました。
こういうやり方をすれば絶対に業界を崩すことはないと思ったんですね。わかったことって伝統産業でつくっているものは若干古いんですけれど、実は流通も伝統だったということがわかりまして。新しい流通の開拓ってしていなかったんですね。
そんなことで一応業態を変えずに。当社も昔からやっている仏具とか茶道具とか花器の製造は今現在もやっています。だから何も変わってなくて。
ただやっている仕事、昔100%だった仕事が今4%ぐらいしかやらなくなってしまった。96%は新しく開拓した自社商品で行なう場所になりました。
【ナレーター】
現在も高い人気を誇る、曲がる「KAGOシリーズ」は、自由自在に食器を曲げて使用することが出来る、能作の看板商品のひとつだ。知られざる開発秘話に迫った。
【能作】
ユーザーに直接お売りしている店員さんって結構いい意見を持っているんですね。最大公約数を知っているんですよ。これをつくれば10人中3人か4人が欲しがるなって、その感覚でものを聞ける。そういう情報を得て商品開発をしていきました。
そんな中で出てきたのが、うちは銅合金を扱っていますよね。風鈴とかをつくっていますけれど、「食器ってできませんか」って言われたんですね。
それで保健所に電話して聞いたんです。「真鍮とかで食器をつくっていいですか」と。法律があるのでダメと言われて、それで考えたのがステンレスか錫かなと考えたわけですよ。
ただステンレスは融点、溶かす温度が高いので錫は低いですよね。だから錫だなと思ったんですけど、色々調べてみると世界で錫100%でやっているところがどこにもないんですよ。
なぜなら錫は曲がってしまうぐらい柔らかいでしょう。100%は世界でやっていない、じゃあ当社でやろうというのがきっかけなんですよ。
ところが曲がってしまうので食器には使いづらいわけです。それで「どうしようか」と考えたんですね。曲がってしまうんなら曲げて使えばいいじゃないかと。単純な発想なんですけれどね。それで曲がる食器や籠というのができたと。
そういうものが当社でつくれると思ったときは嬉しかったですよ。なぜなら、生活に密着していますからね。ですので、そういう食器類を一気に増やしたというのがありますね。
【ナレーター】
地域の発展のために貢献したい。そう思って仕事に励む人を一人でも多く増やすことが、地場に根ざす企業の使命だと能作は力強く言う。
地方創生へ込めた想いについて、印象深いエピソードを交えて次のように語る。
【能作】
当社の女性社員で、富山県の大きな企業に勤めていた子がうちに来たんですよ。
「なんであんないいところに勤めていてうちに来たの?」って聞いたら、「私、地域のために仕事をしたいんです」と言うんですよ。「あそこは富山県の企業じゃないの?」と言っても「いや、東京ですよもう」と。「地域のためじゃなくて、もう富山支店みたいなもんですよ」という。
そういう意識を持っている若い人も結構いるんですよね。僕は今後そういう子どもたちを増やしていきたいんですよ。いずれ地域に戻ってきて自分が生まれた場所のための仕事をちゃんとやっていきたいって。
そのためにはちゃんと子どもたちの教育を我々企業(大人)がやっていかなくてはいけないことでしょう。それは理想ですね。
悪い地域ならそんなこと言わないけれど、富山県っていいところなんですよ。なので、やっぱり子どもの教育を民間は民間並みに頑張っていることが大事なんじゃないですか。
絶対変えられますよ。そうじゃないと子どもたちが地域に残らないんですよ。当たり前に東京の大学を出て東京で就職すれば一生安泰みたいなことがどこかにあるんで。違うだろうということを示していきたい。
企業って変わるんですよ。絶対に。それはそれでいいと思っているんで。ただ基本は地域の役に立つことをしていきたいなと。
【ナレーター】
今後は海外展開の加速と自社にできることを模索し、実現していく方針だと語る能作。その展望と、現在取り組んでいる施策とは。
【能作】
「能作プレシャス」という台湾の会社なんですが、そこから東南アジアへ行こうと。だからアメリカ、ヨーロッパもいずれ別会社をつくっていこうとは思っています。それは世界戦略という意味でやっていきたいと思っていて。
後は産業観光を今やっているとお客さんがコロナ前で年間13万人来られたんですよ。なので、色々なことやっているわけですよね。例えば今やっているのは『錫婚式』という10年目の結婚式。
後は来たお客様が「能作さんに来たんですけれど、この後どこに泊まったらいいですか?」とか色々尋ねるわけですよ。なので、旅行業の免許を取得して今旅行をセット販売したりとかしています。
後は娘のプランで、当社の製品を購入して段々こう曲げているとぐちゃぐちゃになってくるじゃないですか。そういうのをこっちで全部引き取って、新しくつくり替えて出してあげようというSDGsじゃないですけれどね。そういう考え方で。
材料として引き取るには古物商許可の免許が要るわけですね。それで今、その免許も取っています。
後、実は酒販免許(通信販売酒類小売業免許)も取っているんですよ。これは何かというと、インターネットで日本酒と当社の商品をセットで当社から販売しようということで。
当社は鋳物屋なんですけれど、基準は変わっていないですよ。その時々に変わってくるものですからそれはそれで僕はいいなと思っているんです。
【ナレーター】
400年以上続いている富山県高岡市の鋳物づくり。この伝統産業に轍をつけ、その素晴らしさを世界に発信するべく、能作の挑戦は続く。