【ナレーター】
累計販売本数2億本を突破した「DHC薬用リップクリーム」をはじめ、化粧品や健康食品で圧倒的な知名度を誇る「株式会社ディーエイチシー」。長年、カリスマ創業者の強力なトップダウンによって急成長を遂げてきた同社だが、ある時、50年の歴史における最大の転換期を迎える。
創業者の退任と事業承継だ。会社の屋台骨が揺らぐ中、新社長のバトンを託された宮﨑緑は、当時の社内の空気を、生々しくこう振り返る。
【宮﨑】
就任当初は、一言で申し上げるなら「不安」しかありませんでした。強力なリーダーシップを持っていた創業者が退任し、誰も経験したことのない「第ニ創業期」という未知のフェーズに突入することは、社員の誰にとっても想像以上の出来事だったからです。
戸惑いから会社を去っていく社員もおり、そうした姿を見て私自身も心が揺れたことはありました。しかし、「自分たちでこの会社を前に進めていくしかない」という覚悟は変わりません。一刻も早く、全社員が第ニ創業期の意義とビジョンをしっかりと描ける組織にならなければならないと強く感じていました。
【ナレーター】
カリスマ経営者からの突然のバトンタッチ。去っていく社員もいる中、なぜ宮﨑は逃げずにこの難局に立ち向かえたのか。その強さのルーツは、自身の「異色のキャリア」にある。
実は、DHCの祖業は「翻訳業」だ。宮﨑も「英語を使った仕事がしたい」と、翻訳事業の営業職として入社した。しかし約20年前、充実した日々を送っていた彼女に、突如として創業者から大きな辞令が下る。
【宮﨑】
ある時、創業者から「DHCは通販だけの会社ではない。これからは流通チャネルでもしっかりとブランドを展開していくから、そのための強い営業部隊をつくってくれ」と命じられました。当時の私は翻訳の営業をしており、化粧品や健康食品の知識も、小売り営業の経験もありません。思わず「なぜ私なのですか?」と問い返したほどです。
すると、「優秀な営業担当は何でも売れるはずだ。君は翻訳しか売れないのか?」と問われました。そう言われると、「いや、売れるのではないか」と持ち前の負けず嫌いな性格に火がついたのです。未知の領域に対する不安よりも、「経験のないことをやってみたい」という好奇心が勝りました。振り返れば、私は常にその「好奇心」を原動力にして、前に進んできたように思います。
【ナレーター】
未知の領域への挑戦。畑違いの部署に飛び込んだからこそ、彼女は強烈なトップダウン組織の中で「ある重要なこと」に気づく。
【宮﨑】
新しい領域では、自分一人の力だけでは何もできません。誰かを頼り、協力を仰ぐためのコミュニケーションを惜しまないことの大切さを学びました。商品一つを取っても、研究開発を担う研究員を始め最終的な製品になるまでに数え切れないほど多くの社員が関わっています。
営業は、そうした多くの人たちの代表として商品をお客様に届ける役割です。「決して一人で仕事をしているわけではない」という感覚は、その時に強く胸に刻まれました。
【ナレーター】
「一人でできることには限界がある。だからこそ、人を頼り、対話を惜しまない」。その信念は、社長就任後の「第ニ創業期」における組織改革でも存分に発揮された。
縦割りの組織を見直し、社員全員で会社を磨き上げるという挑戦は、やがて社内に確かな「変化」を起こす。それは、社員同士が称え合うために2026年に新設された社内表彰制度での出来事だった。
【宮﨑】
非常に嬉しかったエピソードがあります。社内表彰の最終選考に残った3つのユニットのうち、2つは売上を牽引する事業部門でしたが、残る1つはバックオフィスである「総務ユニット」でした。
彼らはオフィス移転に伴う「断捨離プロジェクト」を立ち上げ、時には無関心な反応をされながらも社員に不用品の廃棄を呼びかけ、その奮闘ぶりを社内ポータルでユーモア交じりに報告し続けてくれました。
そして最終的に、全社員の投票で選ばれたのは、その総務ユニットだったのです。売上や利益だけでなく、縁の下の力持ちとして会社を支えるバックオフィスの努力に対し、全社員が感謝の意を示す。そんな素晴らしいカルチャーが社内に育っていることを実感しました。