斬新な発想で「豆腐」の可能性を広げる食品会社

相模屋食料株式会社 代表取締役社長 鳥越 淳司

本ページ内の情報は2016年11月当時のものです。

日本が誇る伝統食品の豆腐。誰もが一度は口にしたことのある食品だが、冷奴や味噌汁など、料理レパートリーは意外に少ないという人が多いのではないだろうか。

そんな豆腐の世界で注目の企業がある。機動戦士ガンダムのキャラクターをかたどった『ザクとうふ』が大ヒットを記録した相模屋食料株式会社だ。その後も女性向けの『マスカルポーネのようなナチュラルとうふ』『とうふで、グラノーラ。』などを発売し人気を集めている。さらに豆腐の可能性を広げるべく、様々な開発を続ける相模屋食料株式会社代表取締役社長の鳥越 淳司氏を訪ねた。

結婚を機に、サラリーマンから経営者の道へ

-前職についてお聞かせ頂けますでしょうか?

鳥越 淳司:
私は元々サラリーマンでした。父も一般的なサラリーマンでしたので、帝王学を学んできたわけでもありません。雪印乳業に就職し、その初任地が群馬県でした。担当は牛乳の営業で、スーパーのバイヤーの方と商談をするのが仕事でした。当時、あるスーパーの担当者の方と仲良くなり、その方は次期社長になられる方でしたが、よく話をしていました。

当時の会社ことは好きでしたが、もっとこうした方が良いのになど不満を話していると、「そう思うなら、自分で会社をやってみればいいじゃないか」と言われたんです。自分で考え、責任も自分で取るというのが私には向いているなと思い興味を持ちました。

-相模屋食料に入社されたのは2002年ですね。

鳥越 淳司:
ちょうど、会社の経営について興味を持ち始めた頃、妻と出会ったんです。創業者は妻の祖母で、2代目が妻の父でした。そして三人娘のうちの三女だった妻がゆくゆくは会社を継ぐだろうとされていました。

結婚することになった時、社長をやってくれないかと言われ、その時はどんなリスクがあるかも考えずに、とにかくやりたいという気持ちが強かったですね。豆腐の知識は全くありませんでしたが、やるからにはトップを目指したいと思いました。
2002年に入社し、2007年に社長に就任しました。

夢は見るものではなく、叶えるもの

-入社後、社長に就任されるまでについてもお聞かせ頂けますでしょうか?

鳥越 淳司:
とにかく何でも自分でやるというのが私のモットーですので、今でも何でも自分ですることがほとんどですね。前職の時に、雪印集団食中毒事件を経験し、私も現地へ行き謝罪をしていたのですが、当時は「製販分離」が徹底されており、工場の中の実態については全く知らなかったのです。なぜこんなことが起きたのかと聞かれても営業が答えられない、こんな罪深いことはないと強く感じました。

入社後の2年間は、まず製造の現場で、どんなものでも作れるように、職人技を身につけました。やはり、工程を「知っている」ではなく、「自分でできる」ことが大切だと思いました。商品開発も自分でできますしね。

営業や、時には配送などもすべて自分で行ってきました。とにかく夢中でしたので大変だとかは考えたこともありませんでしたね。皆からはやりすぎだと言われますが、今でも決算の資料づくりや売り先の開拓まであらゆることをやっています。責任を取るのは私ですので、好きなようにやらせてもらっています。

-御社の中長期的な目標は何でしょうか?

鳥越 淳司:
当初から売上1,000億円の企業を目指そうと言っています。何年までにという具体的なものはありませんが、全く見えないところまで突き進むという思いです。始めは笑われました。今200億円を突破して、笑っていた方々がいつ1,000億円になるのかと期待してくださるようになりました。
豆腐は日本の伝統食品です。「伝統=守る」ということがメインに捉えられがちですが、私はそんなことはないと考えています。もっと攻めても良いし、誰もやらないなら逆にチャンスだと思いやってきました。

中小企業は自由度が高いので、大企業の真似をする必要はないと思います。技術力は負けても、アイデアと瞬発力では負けません。1,000億円は夢のような話ですが、夢は見るものではなく叶えるものです。目標に向かって突き進んだ者が最後には勝てると思って進んでいます。

スピード=気合×根性

-御社の強みはどこにあるとお考えですか?

鳥越 淳司:
スピードを大切にしています。そしてその速さを支える気合と根性を重視しています。やはり中小企業の強みはスピードです。議論する前に、とにかくやってしまう、そして臨機応変に軌道修正しながら進んでいくことです。

採用の際も根性がありそうかどうかを重視しています。頭が良いか、何をやってきたかよりも、やる気があるかが重要なのです。弊社のほとんどのスタッフは高卒です。いつも言っているのは、学歴がすべてではないということです。やる気で前進する会社が強いと思っていますので。一生懸命が格好悪いみたいな風潮がありますが、うちは、必死にやります。必死な人間が最後には勝つと信じています。

相模屋食料が手掛ける、独創的な豆腐の数々。

-今後の事業展開についてお聞かせいただけますでしょうか?

鳥越 淳司:
豆腐をもっと面白くしたいですね。『ザクとうふ』のヒットで、ターゲットを絞った商品でも認められると分かった時、豆腐ってもっと可能性が広がると思いました。今は飲む豆腐や、豆腐の総菜なども開発しています。デザート売り場に置きたいなどとは考えておらず、あくまで豆腐の範ちゅうからは出ませんが。

江戸時代に豆腐百珍という、100個の豆腐レシピ本が出版されています。でも実際のところ皆さんがよく食べられている豆腐のメニューは、湯豆腐や味噌汁、麻婆豆腐など実に少ないんです。

レンジで簡単にできる『ひとり鍋シリーズ』が好評をいただいていますが、色々な形で提案することで、豆腐をおいしそうと思ってもらうことが大事だと考えています。豆腐という素材の面白さを追求することで、可能性がもっと広がると確信しています。

自己主張より、まずは相手に合わせる

何事も1から順番に解決してくことが大切だと鳥越社長は語る。

-社長の考える、優秀な人材の共通点についてお教え頂けますでしょうか?

鳥越 淳司:
スキルだけではなく、相手に合わせることができる方ですね。例えば、クセのある経営者の隣にいるような方は、スキルやアイデンティティーを持ちながらも、相手に合わせ、うまく自分の力を発揮されていると思います。また、これまでやってきた成果はあるけれども、そのやり方に固執せず フレキシブルにアレンジしたりできる方ですね。一度成果を出すと、そのやり方をなかなか変えられない場合も多いと思います。自己主張もするが、まずは相手に合わせる、でも埋没はしないということでしょうか。

-人材のマネージメントで大切にされていること、また御社でこの部分が足りないと感じていることはありますか?

鳥越 淳司:
その人の目線に合わせて話をすることですね。私は会議では難しいことや理論めいたことは言わず、悩み相談のような話を皆の前でします。以前のやり方のままではうまくいかないが、簡単に発想の転換もできない。それを一度リセットし、ステップを踏んでから動こうというような話をします。

テレビゲームの中のステージも1から順番に攻略していくことが大切で、いきなり上のステージに進んでも大きな敵には勝てませんよね。今の現場で起きていることで、何か気づきがあるような話をするよう心がけています。

足りないと感じているのは、気合いと根性で進んでいるので、とりあえず道にコンクリートを敷かずに走っていますが、その後はコンクリートを敷く作業ですね。それは専ら私の役割ですが。せっかく走った基盤が荒れたままになってしまうので、裏方として支えることも重要ですね。

編集後記

一生懸命やることが格好悪いというような風潮もあるが、「気合いと根性論」を大切にしていると言いきる鳥越社長。同社の特徴であるスピードと斬新な発想で、今後もあっと驚くような豆腐商品を私達に届けてくれることだろう。

鳥越 淳司(とりごえ じゅんじ)/1973年京都府生まれ。早稲田大学商学部卒業。1996年雪印乳業に就職。その後、1951年設立、相模屋食料株式会社の2代目社長の三女と結婚。2002年に同社に入社し、2007年に33歳で代表取締役に就任。趣味は機動戦士ガンダム。『ザクとうふ』で世間の注目を集め、その後も女性向けの『マスカルポーネのようなナチュラルとうふ』、『とうふで、グラノーラ。』などのヒット商品を生み出す。著書に、「ザクとうふ」の哲学(PHP研究所)。