約50年間、多くの企業が採用していた“末締め翌月末払い”という給与の支払い方。そこにメスを入れたのが、株式会社ペイミーだ。実際の労働時間に合わせ、給与を即日受け取れるサービス『Payme』を2017年11月にリリース。フィンテックの新たなサービスとして、今注目を集めている。同社代表取締役の後藤道輝氏のインタビューから、『Payme』を通じて築かれる新たな日本の姿に迫る。

海外ボランティア経験を通して気づいたこと

―ご幼少時代から学生時代の経験についてお聞かせいただけますか?

後藤 道輝:
父は消防士で母は看護師という、両親ともに“人を助ける”職に就いていたということもあり、私自身も幼い頃からボランティア活動に興味を持ち、ボーイスカウトに所属し、海外も含めて色々な活動に参加していました。

高校1年生のときにYMCAのスタディーツアーでタイの貧困地域にボランティアに行く機会がありました。ボランティア先はエイズの子どもたちがいる孤児院だったのですが、半数は20歳まで生きられないだろうという話を聞き、無力感とやるせなさを感じた記憶があります。「同じ人間なのに、なぜ?」と思いました。そこから国際協力や開発経済に興味を持ち、慶応義塾大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)で開発経済を勉強しました。

―大学時代もボランティア活動は続けていらっしゃったのでしょうか?

後藤 道輝:
カンボジアに井戸をつくりに行ったこともあります。ただ、インドネシアでジェトロのインターンシップとして工業団地で手伝いをしていた際、発展するインドネシアの経済を見て、「井戸をつくるよりも起業家か投資家になって、自動運転の車両やソーラーシティをつくったほうが、サステナビリティもある」と思い至りました。そこから、開発経済の勉強を追求することをやめ、東南アジアや日本、米国に拠点を持つベンチャーキャピタルであるEast Ventures株式会社に入社しました。

転機となったある人物との出会い

―East Venturesにご入社された経緯についてお聞かせいただけますか?

後藤 道輝:
22歳の時に、インターネットで「インドネシア 日本」というワードを入れて検索をしていたときに偶然ヒットしたというのがきっかけです。East Venturesの松山太河さんとの出会いがなかったら、まだ途上国でボランティアをしていたかもしれません。スタートアップというものを知れたという意味で、自分にとってのターニングポイントになったかと思います。ここで働きたいと思い、Facebookでメッセージを何回も送り、採用していただきました。当時、アジアへの投資を視野に入れていた時期で、私がインドネシア語を話せるということも幸運だったと思います。最初はシェアオフィスのごみ捨ての仕事から始めて、丁稚奉公みたいな形で少しずつ色々なことを勉強させていただきました。大学卒業後はそのままそこに就職した形です。


―その後、East Venturesではどのようなキャリアを積まれたのでしょうか?

後藤 道輝:
大学時代に起業家か投資家になりたいと考えたものの、起業するアイデアも当時は特に持っていなかったので、投資家の手伝いをしようと思いEast Venturesに入ったのですが、投資家の手伝いをしていても投資家にはなれないということに途中で気づいたんです。野球監督のサポートをしていても、監督にはなれませんよね。ですので、成長している投資先の企業に出向させていただきました。それで、株式会社メルカリや、クラウドファンディングのサービスを運営する株式会社CAMPFIREにて経験を積みました。その後、縁あって株式会社ディー・エヌ・エーへ転職しDeNA戦略投資推進室に配属となりました。

“給与”に着目した理由

―ディー・エヌ・エーではどのようなことを学ばれましたか?

後藤 道輝:
一番勉強できたことは構造的な事業の見方です。こういう事業モデルで事業を進めたら、いくらくらいの営業利益が出せそうかという試算をするなど、構造的に物事を考える力を培うことができました。


―その後、御社を設立されるまでの経緯をお教えいただけますか?

後藤 道輝:
ディー・エヌ・エーで女性向けのメディアを軸にした事業に携わっていたのですが、その後、フィンテックへとシフトするべく下調べをすることになりました。その中で、一番身近なお金であり、CtoCのお金でもBtoBのお金でもなくて、BからCに変わる瞬間の給料というお金については、まだあまり注目されていないということに気付いたのです。それならば、“給料”をテーマにした新たなサービスを行うのも面白いかなと思うようになり、起業を決意しました。


―起業後に苦労された点はありますか?

後藤 道輝:
2回目の資金調達は少し大変でした。国内のベンチャーキャピタルを順番に回っていく形で、地道に集めましたね。時には「子どもだけでフィンテックができるのか」という反応をされることもあります。そんな時には「ミレニアム世代だからこそできる“ミレニアム金融”を目指しています」と伝えました。最終的に2018年の1月に4億円の資金調達をすることができました。

給与即日払いサービス『Payme』の全貌

給与支払いサービス『payme』の管理画面。数回の操作で給与申請が可能となっている。

―御社の事業である『Payme』とは、どういったサービスなのでしょうか?

後藤 道輝:
従業員に対する給与の即日支払を可能にするサービスです。プロダクトとしてはシンプルです。アプリとウェブがあって、メールアドレスとパスワードを入れると、働いた分だけのお金が表示されて、従業員は申請ボタン押せばすぐに申請できます。今は、会社に対してまず福利厚生として導入していただくという形で、導入企業数の増加を図っています。

国内の単身世帯の2人に1人が貯金0だと言われています。一方、銀行のカードローンの残高は増えているそうです。そういう状況の中で一番身近な給料というお金の仕組が、50年間“末締め末払い”という形のまま何も変化してこなかった。これは、従業員が無意識のうちの企業に対して1ヶ月間貸付をしている状態と同じです。『Payme』のサービスを使う際には手数料も発生します。しかし例えば、新社会人は実際に給与が振り込まれるのは5月下旬ですよね。ところが、4月から既に生活費は発生しています。大学生にとってはゴールデンウイーク前のお金の方が、5月下旬に振り込まれるお金よりも価値がありますし、働くお母さんにとっては夏休み中にもらえるお金の方が9月下旬に振り込まれるお金よりも価値があります。そういう中で、我々は“給料の自由化”という事業を通し、“名前もお金もない人が声をあげられるサービス”を目指しています。つまりは、バングラデシュのグラミン銀行が行うようなマイクロファイナンスを目標としています。


―導入した企業にとってのメリットは何ですか?

後藤 道輝:
まずは従業員の信用情報の保護ですね。そして、従業員の定着率や求人応募数の向上です。例えば3日間働いて1万円もらえるといったように、細かな報酬を得ることができればモチベーションが維持されます。また、企業への導入は無料にも関わらず、導入することで求人応募数が平均で3.7倍くらい上がっています。これは、以前より“日払い”というものへの需要が高かったということも関係しています。飲食・物流・派遣といった職種ですと導入後には5倍近く上がることもあります。

現在(2018年3月時点)、導入企業数は72社以上、導入先の従業員数は12000人以上です。職種は、飲食・物流・派遣のほか、訪問介護や家事代行などもあります。ゆくゆくは、ペイミーがお財布や銀行的な立ち位置になれると思っているので、最終的にはそこから貯蓄に寄せたいと考えています。今後は、事業提携ニーズとして銀行やペイメントサービス、バイト系の求人と提携していきたいですね。

資金の偏りによる機会損失のない世界を創造する

―今後の展望についてお聞かせください。

後藤 道輝:
年内には月次流通金額を10億円にしたいと考えています。そのためには20万人くらいのユーザーを抱えることになるかと思います。月次流通金額10億円を含め、ある程度ふり幅が出てきた段階で次のビジネスを仕込んでいく予定です。具体的には、お財布アプリですね。給料からそのままスマホにチャージして使えるようになったらいいなと思っています。アルバイトで稼いだ3万円をチャージするのはなかなか敷居が高いかもしれませんが、同じ3万円だとしても、給与の即日払い申請をスマホで行うことは気軽にできると思うので、そこからチャージに繋がるようにしていきたいと考えています。最終的なビジョンとしては、“資金の偏りによる機会損失のない世界を創造する”ことを目指しています。


―採用活動に際してのお考えをお聞かせください。

後藤 道輝:
今のところは知人を中心に採用している状況ですが、今後、採用活動をする際には、スキルよりも相性を重視したいと思っています。「一緒に新しい金融機関をつくっていこう」「名前もお金もない人が声をあげられるサービスをつくろう」といった目標に向かって、共に歩んでいける人だと嬉しいですね。

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編集後記

今まで特に疑問ももたず、“そういうものだ”と思っていた給与の“末締め翌月末払い”。そこに対する不便さを解消するという画期的なサービスは、私たちにフィンテックサービスの更なる可能性を気づかせてくれたと言っても過言ではない。常識を覆したペイミーが手掛ける、今後の新たなサービスに期待したい。

後藤 道輝(ごとう・みちてる)/慶応義塾大学卒。卒業後、在学中からインターンシップで働いていたEast Ventures株式会社に入社。株式会社メルカリ、株式会社CAMPFIREに出向し、実績を積む。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。DeNA戦略投資推進室で構造的な事業運営を学び、2017年7月、株式会社ペイミーを設立。同社代表取締役となる。

※本ページ内の情報は2018年3月時点のものです。