国内最大級のコミック配信サービス『まんが王国』を始めとするデジタルコンテンツを提供している株式会社ビーグリー。2017年3月に東証マザーズへ株式上場し、さらに1年後の2018年3月20日には東証第一部への上場も果たした。このスピーディーな市場変更には、同社事業の拡大が好調に推移していることはもちろんだが、取締役とともにIPO(株式公開)業務にあたった現・社長室チーフ、新田栞氏の貢献も見逃すことはできないだろう。短期間に2度の上場を実現させるという、20代女性としては稀有とも思える実績を持つ新田氏に、重責に挑む原動力について伺った。
新卒で上場を経験して知ったバックオフィスの重要性
-東京理科大学ご卒業後、不動産販売の株式会社オープンハウスに入社されましたが、入社を決められたきっかけはどのようなものでしたか?
新田 栞:
実は、元々は医学部を志望していました。命を助け、“生”に最も必要な場所にいる医師が格好良く感じられて、幼少の頃からの夢だったのです。ただ一浪しても国立の医学部に入ることが叶わず、東京の大学に進みました。
大学では教員免許のカリキュラムを取っていたのですが、就職活動で一般企業の方に接するようになると進路の考え方が変わりました。特にオープンハウスの方は皆さん自信があって、お一人お一人が自分自身の考えを持っていたのです。それでいて会社の展望については皆さんが同じ方向を向いていて、それがとても素敵に思えたことが、入社を決めた理由ですね。
-オープンハウスは、入社された2013年に東証一部に上場されていますね。当時も上場の準備に携わっていましたか?
新田 栞:
オープンハウスでは管理部門に配属されたので、担当していた業務に関する部分ではお手伝いすることもありました。会社の方針で入社時に宅建(宅地建物取引士)の資格を取っていたので、各種許認可の届け出や宅建業法に関する整備などをしていましたね。管理部門は会社の屋台骨を支える重要な部署だと知ることができました。
「私でなくてはできない」仕事ができる環境を求めて
-前職で上場を経験された翌年に御社に転職されたそうですが、なぜ全く違った業種を転職先として選ばれたのでしょうか?
新田 栞:
オープンハウスで管理部門に配属されたことで、組織の仕組みをしっかりと作ることが会社を支えることにつながると知りました。そのため業界で選ぶのではなく、管理系のバックオフィスに携わりたいと決めたのです。そしてあまり大きすぎず、自分の貢献度がわかりやすい中規模の会社が理想でした。まだ社会人2年目だったこともあり、該当する求人は少なかったのですが、IPO業務を募集していたビーグリーに出会い、「ここだ」と思いました。
-吉田社長の第一印象はどのようなものでしたか?
新田 栞:
カジュアルでフランク。業種が全く違うということもありますが、前職が皆スーツに白シャツだったのに、社長の吉田はデニムで面接に現れてとてもギャップがありました。そして面接も選考者を振るい落とすようなものではなく、私自身を見て判断したり、お互いに不一致がないかどうか確かめたりするような話し合いの場でした。若手でもIPO業務を任せてもらえるという希少さはもちろんだったのですが、面接が終わった時点で「私はこの会社に絶対入る」と選ばれる立場ながら決めていましたね(笑)。
-女性でIPO業務に興味のある方はまだまだ少ないと思いますが、御社に入社する魅力をどのように感じていらっしゃいましたか?
新田 栞:
「私でなくてはできない」仕事ができることが魅力でした。大企業では多数のメンバーが互いにカバーし合いながら物事を進めていくことが多いものですが、私は自分の役割がはっきりと見える規模の会社に入り、自分だからこそできる仕事がしたかったのです。そして上場は株式会社にとって大きな目標のひとつです。社員として、攻めながらも支える仕事を望んでいた私にとって、最も求めている業務ができると思いました。
自身の中の迷いを消した役員からの一言
-IPO業務に関わられて、どのようなことが大変でしたか?
新田 栞:
社長室が上場業務部を兼ねていて、代表を始め各事業部長の要望を聞いたり、上場のためにすべきことを話したりする機会が多くありました。しかし、私はまだ入社したばかりということもあり、異なる考えがあっても上層部に意見することに躊躇していたのです。しかしそれでは求められているスピードと内容のバランスが取れず、かなり難しさを感じていました。
しかしある時、役員から「相手が社長だから、部長だからと考えるのではなく、何が会社のためになるのかを第一優先に考えなさい」と諭されました。この言葉をいただき、「立場を気にしながら発言するのではなく、例え嫌われてでも会社のためになることを優先しよう」、それが私の全うすべき業務だと思うと迷いが消え、今につながる私の指針になっています。
-社長や役員の方とやり取りする中で、大事にされていることはございますか?
新田 栞:
人によって何を求めているのか、どうアウトプットすべきかが全く違うので、そこはコミュニケーションを取ることが大事だと思っています。信頼してもらえないと業務に必要な情報も集まりにくくなると思うので、例えばメールの返信は早めに、せめて一言だけでも返すなど、相手に安心感を持ってもらえることを大切にしています。業務の幅が広いので、何事にもすぐに対応できるよう仕事をためないことにも気を付けています。
東証一部上場を実現できた2つの理由
-2017年3月にマザーズに上場した1年後の2018年3月に東証一部上場を果たされました。東証の鐘を鳴らすときにはどのようなお気持ちでしたか?
新田 栞:
皆で鐘を鳴らしたときは、高揚感でいっぱいでしたね。しかし一番感動したのは、そのひと月前に東証(東京証券取引所)から一部上場への承認の連絡が届いたときです。なぜか担当役員ではなく私宛に電話がかかってきて、担当役員の了承のもと私が電話を受けたのですが、「本日上場承認のリリースを出します」と聞いたときには、思わず感極まって泣きそうになりました。でもその後は市場変更までの業務に追われてしまい、感動を味わったのは一日だけだったかもしれません(笑)。
東証一部に上場すると会社の信頼度もぐっと上がりますし、やはり社員が誇りを持てるようになりますよね。社員の皆に良い影響を与えられたと思うと、「やりきった」という自分の達成感だけでなく、とてもうれしく感じました。
-2度も上場を実現された中で、多くの苦労があったかと思います。なぜやり遂げることができたのでしょうか?
新田 栞:
今はまだそれほど人数が多い会社ではないので、人に頼らず自分が責任を持つ必要があったからですね。主体性が身に付く環境だったことが幸いでした。
そしてなにより、自分特有のプライドがあったからかも知れません。誰かに憧れるのではなく、自分で目標を定めてやり遂げたいのです。辛いこともありましたが、それ以上に達成感を感じられるから、逃げずに続けられたのだと思います。
メリハリをつけた働き方で女性のロールモデルに
-プライベートを充実させるために気を付けている仕事術はお持ちですか?
新田 栞:
私はオンとオフをしっかり区別しますね。仕事が落ち着いていれば定時で退社しますし、一つのことにダラダラと時間を取られることがないようにしています。一旦離れて気分転換しているときにアイディアが閃くこともありますからね。
会社も無駄な残業を美学とする風潮がなく、メリハリのついた働き方を評価してくれるので、社内での女性の働き方の良い手本になれるとよいですね。
-新田様ご自身の今後の展望については、どのように考えていらっしゃいますか?
新田 栞:
今は投資家の方たちに向けたIR活動をしているので、証券アナリストなど相手の信頼をより得られる資格を取ることを考えています。管理部には理財や法務のスペシャリストが多数いますが、私は専門性よりもゼネラリストとして広く組織を見て経営に関わり、IRや広報に役立てたいと思います。
女性ならではのイベントについては、社内に育休産休の制度が整っているので不安はありません。実際にその制度を活用している先輩社員も複数名います。まずは資格の取得など、実力に合ったキャリアアップを30歳までに目指したいですね。
編集後記
新卒入社した会社でIPOに興味を持った新田氏が、経験が重視される業務でありながら若手に大きな裁量を任せるビーグリーに出会えたことは、とても幸運だったと思う。しかしそれはきっと、周囲の風潮に流されることなく自分の興味や信念を貫ける新田氏だからこそ得られたチャンスだったのだろう。組織におけるバックオフィスの重要性を自認する新田氏の存在は、ビーグリーの更なる成長を支える大きな力となるに違いない。
新田 栞(にった・しおり)/1990年3月生まれ。東京理科大学卒業。
株式会社オープンハウスに新卒入社。2014年株式会社ビーグリーに転職し、入社と同時に取締役とIPO業務にあたる。2017年東証マザーズへ株式上場、翌年2018年3月20日には最短で東証第一部へ市場変更を実現させた。2018年4月より社長室チーフに就任。愛読書は「置かれた場所で咲きなさい(幻冬舎)」。趣味はヨガと、愛犬と過ごすこと。