5年間増益を継続させた「行動」とは

―企業のトップとなって5年間、増益を続けておられます。なぜ、新しい組織をさらに成長させることができたのでしょうか。

鈴木 一平:
まず私は、じげんから提示された成長戦略とは別に、リジョブを知ることから始めました。M&A後も残ってくれた100名ほどの従業員全てと面談し、時には食事も交えながらそれぞれの想いを聞いたのです。

するとわかったのは、リジョブの従業員には「自分」がこれからどうしたいかよりも、「私たち」や「会社」を主語にしてリジョブがお客様に対してどうあるべきかを語る人が非常に多いということでした。利益は結果としてついてくる、という考え方です。

その組織風土を創り上げた前経営陣に感謝するとともに、利益拡大をミッションにじげんから加わったメンバーとの、価値観の融合が最優先だと思いました。

そのため、相互理解のためだけの合宿を開催しました。その後社内の雰囲気はかなり変わったと感じています。

業界ナンバーワンサービスを提供するリジョブの強み

―美容・ヘルスケア業界の求人サイトでトップシェアを持つ御社サービスの強みについてお聞かせください。

鈴木 一平:
決してオーナー本位の受注を取るだけではなく、業界全体の未来を考えて行動するという従業員一人ひとりの熱量ですね。

求人を出すオーナーには、土日関係なく長時間働いてくれる正社員を求める方が多いのですが、美容師の労働環境改善が求められる中、従来の働き方だけを提示していては、採用につなげることが難しくなっています。

現在美容室は増えている反面、人口が減少して施術対象のお客様は減っているので、一人当たりの売上利益が増えづらく、美容師は経済的に厳しい職業と言われています。好きだけど続けることが難しいという業界になってきているのです。

そんな背景があるにも関わらず、オーナーの要望通りのワークスタイルばかりを扱っていたら、求人を掲載できても美容業界が上向くことは難しいものです。

そのために私たちは、多様性ある働き方を受け入れてもらえるよう、オーナーに働きかけることもしています。

世の中に浸透しつつあるダブルワークの概念を美容業界にも広め、極端な話、担当するお客様が来店する日だけ美容師として働くようなワークスタイルをも認めてもらうことが、マッチングを成功させる秘訣であり、美容業界の人手不足を解消する手段・この業界を活性化する起爆剤になると思っています。

そしてオーナーに対してそのような提案を、熱意を持って真摯に伝えられるメンバーがいることが、我々の強みなのではないでしょうか。

多様性あるワークスタイルの受け皿を拡大

―今後を見据え、どのようなことを実現していきたいですか?

鈴木 一平:
ひとつは、働き方の多様性を受け入れてくれるサロンの割合を増やすことです。

例えば週3回、時短OKのような働き方は、我々が10年前に美容ヘルスケア業界に参入した時にはほぼ皆無でしたが、今では美容業界で25%、ヘルスケア業界では17%の割合のサロンが受け入れてくれています。これをあと3年程度で、美容業界で3分の1、ヘルスケア業界で4分の1の割合までに増やしていきたいです。

もうひとつは、マッチングした先で働くスタッフの方と施術するお客様とをいいご縁で長くつないでいくことです。

今はクーポンサイトが広まっているので、お客様が定着しづらい面があります。そして我々のマッチングした採用も、長く続かないこともあります。

我々の使命は、採用された方に活躍していただくことだと思っているので、採用数の最大化よりも、その採用によって生まれた「結び目」を最大化することにチャレンジしていきたいです。

ソーシャルビジョンを掲げる理由

ー御社がビジョンではなく「ソーシャルビジョン」を掲げておられるのはどのような理由からでしょうか。

鈴木 一平:
私たちの興味は、自分たちの会社がどうなりたいかというビジョンよりも、世の中をこうしていきたいという想いにあるので、ソーシャルビジョンを掲げました。

これまでは「日本が誇る技術とサービスを世界の人々に広め、心の豊かさあふれる社会を創る。」と掲げていましたが、創業10周年を機に「人と人との結び目を世界中で増やし、心の豊かさあふれる社会を創る」へと変更しました。

従来のビジョンは内包しつつ、心の豊かさを誰もが享受できる世の中にするために、人と人との結びつきを深めようという想いを込めました。

IT化が進み、人と人とが簡単につながりやすいこの時代だからこそ、その結び目を温もりあるご縁に深め、社会課題をビジネスで解決しようとする私たちの存在意義が、より共有しやすくなるのではと思っています。

編集後記

学生起業の挫折を経て、経営者としての再出発を見事に成功させた鈴木社長。事業を通じた社会課題の解決を常に念頭に置く姿が印象的だった。

多様な「縁」を大切にするリジョブなら、今後様々な事業のプラットフォームとして、活躍の場を広げていくのではないだろうか。

鈴木一平(すずき・いっぺい)/1986年生まれ。和歌山県出身。ダブルエル株式会社の保手濱彰人氏や株式会社Gunosyの福島良典氏ら創業者を輩出する東大起業サークル『TNK』に参加し、20歳でファッション通販ベンチャーを起業する。2011年に株式会社じげんへ入社。経営企画を経て、2014年、M&Aによりじげんグループの連結子会社となった株式会社リジョブの代表取締役に就任する。

※本ページ内の情報は2019年12月時点のものです。