事業拡大のための手段として、今や活発に行われているM&A。しかし、シナジー効果を得ることができず不調に終わっているケースは、実に半数以上に上るという。

そんな中、大手企業が多数参入する求人メディアにおいて業界トップクラスのシェアを持ち、2014年にM&Aされて以降、5年連続で増益を続けているのが、株式会社じげんグループの株式会社リジョブだ。

美容業界に特化した求人メディア『リジョブ』は、業界初の「成果報酬ウェイト型システム」によって掛け捨てリスクを軽減し、採用コストを従来の約3分の1~2分の1に削減。

個人オーナーを中心に支持を獲得してシェアを伸ばし、登録会員数約36万人・掲載求人数約2万6,000件(※)の求人メディアへと成長している。
※2019年12月時点

そのリジョブをM&A直後から率いるのが、代表取締役・鈴木一平氏だ。20歳での起業と挫折の経験を最大限に生かした経営者が語る、組織の融合と成長の秘訣とは。

初めての起業と挫折

―社長は20歳で起業を経験されていらっしゃいますが、経営者になることは早くからお考えだったのですか?

鈴木 一平:
父が経営者だったこともあり、自ら事業を起こしたいという意識は学生時代からありましたね。税理士や建築家など様々な職業に憧れつつ、進路はビジネス分野のカリキュラムを新設した専門学校に進みました。

ところが、教えを受けたいと強く希望していた先生が、入学後に辞められてしまったのです。

かなり落胆しましたが、どうにかしてビジネスへの関わりを深めたいと思って、当時急成長していたSNSであるミクシィで様々な人にコンタクトを取ったのです。

そこで出会ったのが、東京大学起業サークル『TNK』を立ち上げた保手濱氏です。

起業を目指すメンバーと共にサークルに関わっていく中で、自分自身も起業したいという想いが明確になっていきました。


―起業サークルのご出身とのことですが、起業ノウハウを得られやすい環境だったのでしょうか。

鈴木 一平:
当時の『TNK』は起業に限らずビジネスに係るナレッジを経営者の方々から学ばせていただく機会が多く、例えば株式会社サイバーエージェントの藤田晋氏や株式会社ドリコムの内藤裕紀氏らのお話を伺う機会が得られるなど、刺激的な環境ではありました。

ただ、今でこそ多くの経営者を輩出している『TNK』ですが、当時は設立したばかりで起業経験者もおらず、自分たちの手で蓄積した独自のナレッジはない時代でした。

私自身、賞金を資本金の原資にしようと出場したビジネスプランコンテストで、審査員に辛辣なご意見とともに事業プランを批評されました。特別賞はいただきましたが、審査員を見返したいと思ったことが、最初の起業のきっかけになったのです。


―その事業は軌道に乗せることができたのでしょうか。

鈴木 一平:
いえ、審査員にご指摘いただいた通りでした。当初のビジネスプランでは事業が成り立たず、すぐにクローズの意思決定をしました。

その後、新たに立ち上げたアパレル事業では、事業も軌道に乗り一時は社員90名ほどの規模になったのですが、事業の多角化を進める中で立ちゆかなくなりました。

何度キャッシュショートに直面しても、倒産する日を迎えるまで何とかなると信じていたのは、今となっては経営者として未熟だった故ですね。

上手くいくイメージしか持っていなかったので、非常にショックでしばらくは何も考えられない状態でした。

事業と組織は両輪

―その後、株式会社じげん様に入社されたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

鈴木 一平:
実は倒産のタイミングが婚約者との結婚準備を進めていた時期と重なり、このまま過去を引きずっていても仕方がないと、動き出したのがはじめのきっかけです。

私に新規事業を任せてもらえるような環境を探そうと思い、いくつかの企業とお話させていただきましたが、その場では私のこれまでの経験は全く評価されませんでした。

それらの企業は、既に決定している新規事業のミッションで即戦力になるスペシャリストを求めていました。しかし、学生起業して営業もマーケティングも経理も何でもやってきた私のキャリアは、むしろどの分野においても広く浅いものでしかないと判断されたのですね。

そんな時に出会ったのが、じげんで代表取締役社長を務める平尾です。倒産も含めた私の経歴を肯定的に捉え、じげんで新しく事業を起こさないかと言ってもらえました。

当初平尾からはアパレル事業立ち上げのオファーがあったのですが、私は過去の経験から在庫を持つ事業を再びするつもりはありませんでした。

そのため経営企画担当として入社し、それからは「1日1つサービスを生み出す」というミッションのもと、毎日平尾とともにアイディアを練り上げていきました。


―じげんの平尾社長と活動される中で、特に印象に残ったことはなんでしょうか?

鈴木 一平:
平尾が経営者として、事業と同じくらい組織づくりにこだわっていることに衝撃を受けました。

組織に対して非常に時間を使いますし、社内のディスカッションや他社事例も参考にして、チャレンジと安心を両立できるような制度設計を常日頃行っていました。

これは今私も経営者として非常に大切にしている部分です。「事業と組織は両輪だ」とよく言われますが、平尾に学び、真に理解できたように思います。

当初固辞していた社長就任を受諾したきっかけ

―2014年にじげん社がM&Aをした株式会社リジョブの社長に就任されました。当初は固辞されたそうですね。

鈴木 一平:
はい。ずっと断っていました。当初は元の経営陣が退任されるという前提があり、外部から入ったばかりの私が100名の従業員をけん引できる自信が全くなかったのです。


―そこから一転して社長就任を受諾したのは、どういったきっかけがあったのでしょうか。

鈴木 一平:
リジョブの事業ならエンドユーザーと直接関わることができるのではないかと考えたときに、社長就任を決意しました。

私がこれまで関わっていたビジネスは、例えばある求人媒体の情報をお預かりして最適化し、運営する企業にお返しするようなモデルでした。

大規模な媒体に関与することで、間接的に日本全国の方々に貢献していると考えることはできましたが、直に接するのはあくまでも媒体を運営している企業の担当者。顧客企業の意向に沿わなくてはならないことに歯がゆい部分もありました。

リジョブならエンドユーザーに直接つながり、その期待に最大限に応えることができるということが、私にとって大きな魅力に感じられたのです。

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