株式会社フェイス
代表取締役社長 平澤 創

平澤 創(ひらさわ はじめ)/1967年京都府生まれ。大阪芸術大学芸術学部音楽学科卒業。1990年任天堂株式会社に入社後、1992年に株式会社フェイスを設立。1999年世界で初めて携帯の「着信メロディ」をダウンロードする仕組みを創り、世界約100ヵ国、累計約90億台以上の携帯端末に搭載される。2002年当時、創業社長として史上最年少35歳で東証一部上場。2004年特許庁長官表彰(産業財産権制度活用優良企業)、同年、藍綬褒章(国家褒章)を史上最年少で受章。フェイスは、「音」に関連する事業を積極的に行っている企業グループ。1910年創立の日本で最初のレコード会社「日本コロムビア」などを傘下に持つ。「あるものを追うな。ないものを創れ。」の企業理念に基づき「日本初」「世界初」の事業を創出している。世界的に音楽の聴き方、楽しみ方が日々変化する中、音楽をはじめとするコンテンツを人々に届ける新たな仕組みを創出し続けている。

本ページ内の情報は2016年11月時点のものです。

私達のライフスタイルの一部となっている音楽。その音楽を聴くスタイルも、レコードからCD、インターネットによるデジタル販売、さらにスマートフォンの普及に伴い昨今では定額制の音楽配信などが台頭してきた。
このめまぐるしく変動する音楽業界で注目を集めている株式会社フェイスは、2014年に日本で最初のレコード会社日本コロムビアを連結子会社化し、大きな話題となった。
世界で初めて携帯電話の「着信メロディ」を考案・実用化し、世界約100ヵ国で定着させた株式会社フェイスの代表取締役社長の平澤 創氏に話を伺った。

25歳で創業、34歳で東証一部へ上場

創業は25歳とお若いですが、そのきっかけについてお教え頂けますか?

平澤 創:
元々、私は創業するつもりはなかったんですよ。ミュージシャンを目指して大阪芸術大学に進学し、バンド活動に精を出していましたね。そして、後に数々のヒットを生み出したプロダクションでアルバイトをしていた時、うちに就職しないかと誘っていただいたのですが、今後について不安に思う面もあり、結局地元のゲームメーカーである任天堂に入社しました。

大ヒットを記録したゲームの音楽を担当していましたが、やはり音楽の道に進みたいと退職しました。CDがよく売れている時代でしたが、当時アメリカでインターネットが普及し始めていて、CDとは違う形で音楽をユーザーに届ける手段を考えたいと1992年に創業しました。今思うと、25歳で起業って、本当に無謀ですよね。

創業9年目で東証一部に上場されました。

平澤 創:
創業してからは、ある程度できるところから少しずつ事業を展開させていきました。音楽をデータ化してダウンロードできる技術はありました。一方で、ダウンロードにより課金するという方法を知り、曲のデータを無料で提供してもらうかわりに、その売り上げの何%を支払いますという交渉を行い、ビジネスモデルを確立しました。

社員も初めは、任天堂時代の同期と2人でしたが、人脈が広がるにつれて、システム開発を行う優秀なソフトウェアの技術者をヘッドハンティングしました。さらに証券会社の営業マンもスカウトし、株式公開の実務などを担ってもらいました。

私は経営=プロデュースだと考えています。自分にない知識を持つ人間を集めて、一つの大きなことを成し遂げることが私の仕事です。

100年後にどんなスタイルで音楽を聴いているのかを考えていく

2014年には日本コロムビアを買収され、フェイス・グループもさらに進化されていると感じています。

平澤 創:
日本コロムビアの件は、縁だと思います。これだけめまぐるしく変化する世の中の流れも考えて、今だというタイミングで、連結子会社にすることにしました。日本最初のレコード会社が持つ豊富なライブラリーなど、その資産を守りたいという思いが強かったですね。

一方で当グループには、まだまだイノベーションが求められていると考えています。レコード会社は厳しい生き残り競争にさらされていますが、近ごろ立ち上がっている各種音楽配信サービスの音楽の仕入れ元はレコード会社なんです。卸し先がCDショップから、配信業者に変わっただけで、これはイノベーションではありません。

100年後も音楽は無くならない。音楽の楽しむスタイルがどのように変化するのか、考えることが重要だと平澤社長は語る。

私は大学院等で講演を行う機会がありますが、今の18歳~22歳の若者の中で、CDを買ったことがない人の割合がとても高いことに驚きます。また、テレビを持たない人も増えてきました。ただし、CDが無くなる時代が来ても、音楽自体が無くなることはありません。そこで、100年後にどんなスタイルで音楽を聴いているのかを考えていくことが、我々のロングテーマなんです。

今後はどのような事業展開を考えられていますか?

平澤 創:
音楽の楽しみ方は原始時代に戻ると言われることもありますが、音楽の起源はライブです。現在ライブ市場に関しては右肩上がりですので、VR(バーチャルリアリティ)配信などは今後のテーマのひとつとも言えるでしょう。

信頼関係を築ける人=活躍できる人

御社で活躍できる人材とは、どのような人でしょうか。何か共通点などはありますか?

平澤 創:
弊社は、無から有を生みだすという特殊な業界ですので少し難しいのですが、あえて言うなら、友人をつくる力がある人でしょうか。やはり人間関係の構築が上手な人はコミュニケーション能力が高いので、活躍できると考えます。

社名である「フェイス」には信頼関係という意味も含まれています。信頼関係は、つくるものではなく、時間が経って生まれるものだと思っています。人と信頼関係を築くことができる人は、それが力になると思います。

弊社の最終面接では、想定外の質問をすることが多いです。そのときの対処の仕方や人柄を見ます。私は突拍子もない発言をするような、特別なキャラクターを持つ、いい意味での変人が好きですね

平澤社長の考える、成長できる働き方についてお聞かせください。

平澤 創:
大きく考えて2つあると思います。1つは特に若い頃、いかに良い上司と出会えるかです。「良い」とは人によっても感じ方が違うので、相性が良いという意味です。また経験を重ね、部下ができた時は、好かれる上司でなく、尊敬される上司になることが重要だと言っています。やはり仕事なので厳しさは必要。好かれると尊敬されるでは大きな違いがあります。

もう1つは、若いうちからいかに仕事を任せてもらえるかです。任せる立場からすると、リスクもあるし勇気がいることですが、いい意味での無茶振りというのも必要だと思っています。やはり、構いすぎると自ら考えることができなくなってしまいますし、失敗することはとても大切ですので。失敗しない人は成長しません。

また、こんな部下なら仕事を任せられると思う条件は、先程も申したように友人をつくる力のある、コミュニケーション能力の高い人間です。そのような人は失敗しても、誠実に対処することができると思います。

若手の発想とベテランの経験を融合させる

ユニークな考え、発想を持つ人材が必要と語る平澤社長。より多くのユニークな人材を募集するため、学生向け就活サイトは使用していないというのも同社ならではである。

今後、御社にはどのような人材が必要だとお考えですか?

平澤 創:
ユニークな人材です。人とは違った考え方ができる人が良いですね。もちろん、専門性が高い、業界経験があるなどの要素も重要ですが、その中でも個性の際立った人を年齢問わず求めています。

弊社は現在、新卒採用に関しては、学生向け就活サイトを使わずに自社の専用ページのみで募集をしています。このような方法をとるようになってからは、広く一般の中からではなく、自分で調べてたどり着いた人のみが応募されますのでユニークな人が集まるようになりました。

現状の課題と、御社の未来像について教えてください。

平澤 創:
課題としては人材の強化ですね。我々のビジネスはアイデアが重要ですので、本当に人が全てだと思います。アイデアに対して、熱意を持ってついて来られる人が必要です。

2017年10月に当社は創業25周年を迎えるのですが、それに伴い社員の平均年齢も高くなってきました。やはり現代は、あらゆる変化のスピードが速いので、20代が活躍できる会社にしていきたいですね。若手の柔軟な発想と、ベテランの経験を合わせていくことが大切だと思います。そのためにも若手の教育にさらに力を入れたいと考えており、個性を大切にしながらいかに活躍できる人材に育てていくかを試行錯誤しているところです。

また、特殊な業界のため、評価制度についてもまだまだ改善の余地があると考えています。今の日本では、欧米のように年俸の決め方なども確立されていませんので、これも課題として取り組んでいきたいですね。

編集後記

「あるものを追うな。ないものを創れ。」の企業理念のとおり、平澤社長からは「無」から「有」を生みだすことにこだわり、イノベーションを続けるという強い意志が感じられた。100年後にどんなスタイルで音楽を聴いているか、同社が導き出す答えを楽しみにしたい。