※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

日本の2021年における食料自給率は38%で、食料の大半を輸入に頼っている現状がある。そのような状況の中でも、食料自給率96%超えの高水準を維持しているのが鶏卵だ。

今回取材した株式会社ホソヤでは、養鶏機械の開発・販売を通して多くの養鶏家を支えている。そんな同社の創業の背景には、代表取締役社長の細谷泰氏の祖父の「優しさ」があった。

どのようにして株式会社ホソヤは世界と取引をするほどの企業にまで成長したのか、細谷社長に創業のきっかけや他社にはない強みなどを聞いた。

祖母の荒れた手を見て考案した「自動給餌機」が大ヒット

――貴社では養鶏機械の開発と販売をメインに手がけているとうかがいました。少し珍しい事業だと思うのですが、そもそもなぜ養鶏の機械を手がけるようになったのでしょうか。

細谷泰:
創業のきっかけは、戦後間もない頃まで遡ります。現在弊社がある場所は、かつて祖父母の家があった敷地で、祖母が庭先で内職として養鶏をしていました。鶏の世話をする祖母の荒れた手を見た祖父が「どうにかもう少し楽に作業できるようにならないだろうか」と考えたのです。

そこで祖父は小屋の中に、洗濯機のモーターを持ち込み、それを改良して自動給餌機をつくりました。当時は小屋の中にモーターを置くなんて非常識だと言われていましたが、結果として祖父が考案した自動給餌機は多くの養鶏家から絶賛されることになったのです。

この自動給餌機は科学技術庁長官賞を受賞し、それから鶏舎そのものや鶏が産んだ卵を運ぶコンベア、鶏糞を堆肥化する機械の開発などにも事業を拡大していきました。

地産地消にこだわったブランド卵事業も好評

――養鶏の機械を取り扱っている会社は、ほかにも数社あると聞きました。他社と比べて貴社にはどういった強みがあるのか教えていただけますか。

細谷泰:
機械を開発するだけでなく、自社で鶏を飼育している会社はオンリーワンです。弊社では実際に鶏を飼って、それら鶏舎設備を試験、改良を重ねながら、さらなる開発を進めています。

また、海外から仕入れた機械を日本向けに調整して提供できるのも自社工場を持つ弊社の強みです。弊社はドイツ、オランダをメインに機械を仕入れていますが、お客様によっては餌の出し方などが合わない等、全てが日本仕様に見合ったものとは限りません。そのため、機械のメインの部分はドイツ、オランダ製のものを使い、付帯部分を弊社の部品を使うといったように組み合わせを工夫しています。

――養鶏も行っているそうですが、養鶏事業でも他社と差別化している点はありますか。

細谷泰:
養鶏はブランド卵で地産地消にこだわっております。ファームは静岡県にあり、地元産の茶葉やマリーゴールドの花弁などを餌に混ぜています。この鶏卵は、熱を加えても卵の黄色が退色しないとお客様からも好評です。

また、卵は値段が安いので一定以上の量を配送しないと移動コストが高くなってしまいますが、弊社のファームは静岡県にあり、その地理的位置から愛知県と神奈川県の両方に販売することで、大量の卵を取り扱うことができます。

畜産のイメージを払拭していきたい

――社長に就任される以前は、出版業界で仕事をしていたとお聞きしました。そこから全く異なる養鶏業界へ来て、何か感じたことはありますか。

細谷泰:
食は人間にとって絶対に必要なものですし、その中でも卵は日本での自給率が96%を上回る基幹産業とも言えるものです。弊社では世界各地に自社設備を輸出していますが、海外の展示会に参加したときに、海外では養鶏の仕事はかなり社会的地位が高いことを知りました。

一方、日本では畜産業というと、良いイメージを持っていない人も少なくありません。畜産業のイメージがあまり良くないのは分かっていましたが、このイメージを払拭したいと感じるようになりました。特に若者から魅力を感じてもらえる産業にしたいですね。

設備の開発・販売以外でもより一層の貢献を目指して

――今後注力していきたいことについて教えていただけますか。

細谷泰:
社員が自己実現できる環境をより整備していくことです。世の中には仕事をしなくても生活できる人もいますが、大半の人は仕事をしなければいけませんよね。ですので、せっかく弊社で働いてくれるのであれば、愉しんで働いてもらいたいと思っています。そして、そのための環境整備をするのが、社長としての役割なのかなと。

――今後の事業方針についても、何か注力したいことがあれば教えてください。

細谷泰:
今までは養鶏業界の地位向上の為と考え、養鶏事業の方に注力しました。原点に回帰し、労働人口が減る中で、さらなる機械化、自動化の為の製品の開発、改良に重きをおきたいです。

鶏インフルエンザなどの防疫対策から、昨今では他の農場視察が難しい。そこで、今年、機械事業部の工場に弊社設備のショールームを開設しました。あらゆる側面から、養鶏業、畜産業に従事する方々の為、貢献したいと思います。

編集後記

養鶏で手が荒れた祖母を見て、どうにか楽をさせたいという祖父の思いから誕生した株式会社ホソヤ。今では海外へ設備や肥料を輸出するまでに成長し、世界でその技術が活用されている。

ホソヤに来てほしい人材について「弊社で愉しみながら自己実現を目指してくれる人なら、老若男女誰でも何歳でも大歓迎」と語る細谷社長を見て、社員の幸せを守りたい細谷社長の優しさが垣間見えた。

細谷泰(ほそや・やすし)/1976年神奈川県生まれ。1994年湘南学園高等学校卒業。1999年國學院大學卒業。同年東京ニュース通信社入社。2000年株式会社ホソヤ入社。2002年常務取締役に就任。2004年NY大学ESL入学。2005年ロンドンへ居を移し2006年までGlobal Diplomat associationでExecutive Directorとして勤務。2007年株式会社ホソヤに復帰し、代表取締役に就任。