※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

オリジナルデザインを施したプリントTシャツは、学校の文化祭や体育祭、会社のイベントや地元のお祭りなどで多く活用され、仲間との団結力を高めるためにいまや欠かせないアイテムになっている。

このオリジナルTシャツやグッズの製造・販売を行っているのが、山梨県に本社を置く株式会社フォーカスだ。

同社の創業者である常松憲太氏は、「オリジナルTシャツを作るまでにはデザインを考えたり、発注数を確認したりする作業がありますが、注文なさる方は基本的に無報酬で働かれています。そのようなホスピタリティ精神の高い方に安心できるサービスを提供することで、社会の明るさを創っていきたいのです」と語る。

新型コロナウイルスの蔓延により廃業寸前の状況から這い上がり、コロナ禍前よりも売上を伸ばすことに成功した常松社長の思いについて伺った。

高校卒業後から会社を設立するまでの経緯

--高校をご卒業されてから会社を立ち上げるまでの経緯についてお聞かせください。

常松憲太:
大学受験に失敗してからは何もする気が起きず、アルバイトをしたり当時衆議院議員だった父親の事務所で働いたりしていました。

知人のつてで山梨に引っ越してからも職場をいくつか転々としていたのですが、
1998年に入社した卒業記念品を取り扱うアスフィール株式会社には約11年間勤務しました。

アスフィールの代表である山本社長には営業や経営についてたくさんのことを教わり、経営者として会社を運営するうえで大切なことをたくさん学ばせていただきましたね。

--ご自身の会社を設立されたきっかけは何だったのでしょうか。

常松憲太:
前職で卒業証書や学位記を入れるファイルホルダー事業の立ち上げに携わったことで、自分でも一からグッズ販売をやってみたいと思い、2009年に株式会社フォーカスを設立しました。

当初はあまり会社の規模を大きくすることは意識していなくて、とりあえず自分ひとりが食べていける分くらいの収益があれば十分だと考えていました。

最初は前職でお世話になった取引先などから注文を受けてグッズ制作を行っていたのですが、一部の学校から文化祭や体育祭で着るプリントTシャツを作ってほしいと依頼を受けるようになり、オリジナルTシャツの販売を開始しました。

--オリジナルTシャツの製造・販売を手がけるようになって心境の変化などはございましたか。

常松憲太:
驚いたのが、生徒さん一人ひとりの名前と共に“フォーカスさんありがとう”と書かれた色紙をいただいたことです。

それまではBtoBの仕事だったので、実際に商品を使った方の感想を聞く機会はほとんどありませんでした。

そして私自身も、お客様のために仕事をするというよりも、取引先の担当者にうまく取り込めばいいという考えが染みついていたんです。

しかし、オリジナルTシャツ製作を始めてからは、お客様に喜んでいただくことにやりがいを感じるようになりました。

以来、それまでのお仕事をお断りしたり同業者に引き継ぎをしたりして、創業から4年後、オリジナルTシャツ事業に専念することにしました。

--事業を一本にしぼることに不安はなかったのでしょうか。

常松憲太:
不思議と不安はなかったですね。

とにかくお客様の期待に応えられるように頑張らなくてはという思いが強くて、事業が上手くいかないかもしれないという考えはありませんでした。

事業成長のターニングポイント

--オリジナルTシャツの販売のみを行うようになってから、会社の業績はどのように変化していったのでしょうか。

常松憲太:
2015年には売上10億円を突破し、猛スピードで会社の売上規模が拡大しました。

ただ、組織体制が整っていない状態で受注数の増加を急ピッチでカバーしようと増員した結果、人が入ってもすぐ辞めてしまうという悪循環に陥っていました。

さらに10億円を達成した後は売上が鈍化し、停滞期が長く続きました。

もう何から手をつけていいかわからない状態だったので、今振り返ってみても一番辛かった時期ですし、二度と戻りたくはないですね。

--問題解決につながったターニングポイントはあったのでしょうか。

常松憲太:
いろいろと模索してみたものの結果が出なかったので、会社運営の方向性について外部の有識者の方々にコンサルをしていただいたりもしました。

そんな中、コロナウイルスの流行で雲行きが一気に怪しくなりました。2020年の2月末に政府から学校閉鎖を要請され、それ以降学校行事が軒並み中止となりました。

Tシャツ製作の依頼がぱたりと止まってしまい、売上は9割減にまで落ち込み、会社存続の危機に陥りました。

しかし、創立後最大のピンチが、弊社にとって大きな転換期となりました。

日本政策金融公庫から新型コロナウイルス感染症特別貸付を受け倒産は回避できたものの、貸付金を返済するために抜本的な経営改革が急務となりました。

そこで借り入れをした3億円のほとんどを製造工場の設備投資に充て、プリント加工から出荷までのスピードを格段にアップさせました。

また、サービスの質を向上させた分、商品の値上げをし、粗利益率を上げることで売上を回復させることに成功しました。

フォーカスの強みについて

--今の貴社の強みについてお聞かせください。

常松憲太:
弊社ではご注文いただいた当日に商品を出荷し、お届けする地域によって差はありますが、最短で翌日にお届けしています。

地域のお祭りや文化祭は日にちが決まっているため、当たり前ですが実施日に届かなければ商品は何の価値も無くなってしまいます。

イベント当日までに商品が届き、オリジナルTシャツに袖を通していただいたり、オーダーメイドのバッグを使ったりしてもらうことで、ようやく価値が発揮されるわけです。

そのため、発注をいただいてから商品を配送するまでのスピードを重視し、Amazonなどのネット通販が行っているように「今日注文して明日届く」サービスを行っています。

既製品ではなくお客様が求めているデザインを提供でき、なおかつ短納期というのはお客様にとってメリットが大きいと考えています。

同業他社で翌日発送を行っているところもありますが、特急料金として追加の金額を請求していることが多く、弊社のように追加料金なしというのは珍しいと思いますね。

また、注文段階でお客様に明確なイメージがなくても、ヒアリングを通してまっさらな状態からイメージ通りのデザインに落とし込める技量があるのも、お客様にご満足いただけているポイントだと感じています。

今後もこれらサービスの体制を整えることで、お客様の自由度を高めていきたいと思っています。

--貴社では顧客対応に力を入れているようにお見受けしましたが、この理由についてお教えください。

常松憲太:
弊社ではお客様のご要望に応えることを最も大切にしており、それは新入社員に最初に教育する部分でもあります。

私たちはご注文いただいた段階から、お客様の持ち物をお預かりしているという気持ちでいます。

お客様ファーストを常に意識し、たとえば商品をお届けした後に「思っていた色味と違うのでやり直してほしい」と修正依頼を受けた場合は、1枚からでも対応しています。

収益の面を考えたら痛い出費ではありますが、お客様に満足していただき、イベントを心から楽しんでいただくことこそが私たちの最大の報酬だと考えています。

--今後はどのようなことにチャレンジしていきたいとお考えでしょうか。

常松憲太:
昨年の頭から機械の入れ替えを行い、対応可能なカラーが増えたことで、導入前と比べてカラーの注文は約4倍に増加しました。

今はスマホのアプリで簡単にデザインができるので、自分で考えたデザインをそのままプリントしたいというニーズが増えています。

同業者の殆どはメッシュ状の版にインクを乗せ、1色分ずつ穴からインクを押し出すシルクスクリーンプリントという手法を使って製造しているため、使用する色が多くなるとその分値段が高くなってしまうんです。

しかし、弊社では設備を拡充させ、モノクロでもカラーでも同じ金額で提供できる生産体制を整えたことで、他社との差別化を図っています。

ホスピタリティ精神にあふれた社会を目指す

--今後の貴社の目標についてお聞かせください。

常松憲太:
オリジナルTシャツが1枚1500円以内で作れて、最短で翌日届く弊社のサービスは社会にまだ浸透していないと感じています。

そこで弊社の知名度を高めるため、2027年から2028年までの上場を目指しています。

理由は、弊社のサービスを利用していただく方を増やし、ホスピタリティの精神が日本全国に広がることを望んでいるからです。

というのも学校や会社でグループTシャツ製作を担当する方々は、基本的に無報酬で仲間のために大変な仕事を請け負っているんですね。

自分にとって利益があるからやっているのではなく、周りの方々からの「みんなで同じTシャツを着て一致団結できて楽しかった」「このTシャツのデザインいいね」という言葉だけを原動力にしていらっしゃると思うんです。

このことに気付いたときに、私たちのお客様は何てホスピタリティ精神にあふれた方々なのだろうと改めて考えさせられました。

さらに弊社のお客様のうち、5%の方々からはサンクスメッセージをいただいています。

他社の実態がどうかはわかりませんが、この割合はとても高いと感じています。

オリジナルTシャツ製作を通して、学校や職場の仲間たちに喜んでほしいという思いが広まることで、地域や学校、会社というグループの中に楽しみや喜びが生まれ、愛にあふれた明るい世界になったらいいなと思っています。

社員教育とフォーカスの求める人物像について

--貴社が社員教育で大切にされているポイントは何でしょうか。

常松憲太:
即戦力となる人材を育てるのではなく、数十年後に人の役に立てる人間になってほしいと考えています。

たとえ別の会社へ転職したとしても、その人自身が周囲から頼られる存在に成長してもらえればいいと思っていますね。

たとえば、すぐに業務で必要になるわけではありませんが、新人研修ではバランスシートや損益計算書の読み方、経営についてなど、ビジネスにおいて必要な知識を学ぶ場を設けています。

おそらく弊社のような中小企業でこうした研修を実施しているところはないと思いますし、少し変わったやり方なのかもしれません。

ただ、自分の仕事が会社にどのような影響を与えるのかを客観的な目線で見るという、ビジネスパーソンとして重要なことを学んでほしいと思っているのです。

--貴社が求める人物像についてお聞かせください。

常松憲太:
日本国内あるいは世界で起こっている変化について常に関心を払い、そのうえで自分の仕事がいかに社会や人の役に立つのかを考えられる人がいいですね。

採用面接でも応募者の関心度合いを図るために、時事問題に関する問いを投げかけ、みんなでディスカッションをしてもらっています。

仕事の取り組み姿勢に関しては、あくまでも会社を優先するのではなく、お客様のやりたいことに耳を傾け、優先する人であってほしいと願っています。
会社の利益や仕事の効率を重視し、お客様からの要望をないがしろにするようなことはしてほしくありませんから。

編集後記

大学受験に失敗してからは何かを頑張るという気力がなく、職場を転々としていたという常松社長。しかし、オリジナルTシャツを納品した学校の生徒たちから毎日のように届く感謝のメッセージに心を打たれ、この仕事にやりがいを見出したと語る。ホスピタリティ精神の輪を広げ、明るい世の中を作っていきたいと願う株式会社フォーカスを応援していきたい。

常松 憲太(つねまつ・けんた)/高校卒業後はさまざまな仕事を経験し、1998年にアスフィール株式会社に入社。2009年にグッズ販売を行う株式会社フォーカスを設立。その後オリジナルTシャツの製造販売に特化し、2015年には売上10億円を突破。新型コロナウイルスの蔓延により売上が大きく落ち込んだものの、設備投資を始めとした経営改革を行い、2022年12月時点で売上20億円を達成している。