※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

震災やコロナウイルスの感染拡大など、数々の荒波に揉まれながらも、470年以上の歴史を築き上げてきたのが清酒メーカーの小西酒造株式会社だ。

この長い歴史を持つ同社を率いているのが、代表取締役社長の小西新右衛門氏。同氏が会社を経営するうえで大切にしているのが、松尾芭蕉の言葉「不易流行」だという。

小西酒造株式会社は一体どのように時代に適応してきたのか、小西氏に経営者として大切にしている考え方を聞いた。

時代に合わせて変化する「不易流行」の考え方

――小西社長は小西酒造15代目当主とのことですが、長い歴史を持つ会社の社長に1991年から就任されて、何か感じることはありますか。

小西新右衛門:
阪神・淡路大震災やコロナ禍など、長い歴史の中でいろいろな問題を乗り越えてきたことについては、非常に感慨深い思いがあります。弊社は473年にわたる歴史がありますが、江戸時代には上納金や、昭和には農地改革といった制度の変化にも対応してきました。

社長に就任して、弊社の長い歴史を振り返る面白さもありますし、大変な歴史を乗り越えてきたことによる自信も得られました。

歴史を勉強することによって将来を見ることができ、それは本質を見ることにもつながる。経営者として歴史を振り返り、本質を見る努力を欠かさないようにしています。

――473年もの歴史があると、伝統を守ることと新しいものを取り入れることの両立が難しくもあるのではないでしょうか。

小西新右衛門:
社長に就任したときに、過去と現在と未来をどのように融合させるかを考える必要があると考え続けていた時に松尾芭蕉の「不易流行」という言葉に出会いました。

「不易流行」という言葉には、「つねに新しさを求めて挑戦していくことの中にこそ、永遠に変わらない本質がある」という意味があります。

私はこの言葉をとても大切にしていて、変えてはいけないものは守りながらも、時代に合わせて変われる企業にしていきたいと日々感じています。

長い歴史の中で得たストーリーが強み

――貴社が積極的に顧客の声を反映し商品開発している理由をおうかがいできますか。

小西新右衛門:
私は消費者であるお客様の声が最も大切だと考えており、お客様のことをよく知らずに商品を開発・販売するのは、メーカーとは呼べないと思っています。

私はワープロやインターネットプロバイダー、通販、自社カタログなど、時代に合わせて新しい技術やビジネスを取り入れてきました。それは、お客様の声を直接聞ける手段を手に入れたいという思いがあったからです。

――顧客の声を第一に取り入れることのほかに、貴社の強みはどのような点にあると考えていますか。

小西新右衛門:
私は「歴史伝統では商売ができない。でも、歴史伝統はお金では買えない」という言葉をよく使っています。歴史伝統だけで商売ができるかというと難しいですが、歴史からストーリーをつくってお客様へ伝えることはできます。


昨今は商品や企業にも、ストーリー性が求められています。弊社には長い歴史を通して面白いストーリーがたくさんありますから、それはほかにはない強みだと思います。

たとえば、日本遺産に認定された「『伊丹諸白』と『灘の生一本』下り酒が生んだ銘醸地、伊丹と灘五郷」のストーリーの中には、伊丹や灘のお酒が江戸で珍重され、元々馬借で運んでいたものを菱垣廻船という混載船で運んでいたが、供給が間に合わず樽廻船という専用の船で運んだというストーリーなど様々な面白いストーリーがあります。

ユネスコ無形文化遺産への登録を目指す理由

――ユネスコ無形文化遺産登録への取り組みもされていると聞きました。具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

小西新右衛門:
私は「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」で会長をしており、それには将来的に日本酒をユネスコ無形文化遺産に認めてもらいたいという思いを抱いています。

ユネスコ無形文化遺産に登録されれば、2025年に開催される大阪・関西万博などを通して、さらに多くの人に日本のお酒やお酒文化を知ってもらうことができるのではないかと考えています。

それぞれの市場に合わせたマーケティングで海外展開も


――今後は海外展開にも力を入れていきたいとうかがいましたが、その点について詳しくお聞かせください。

小西新右衛門:
海外展開では、それぞれの市場に合わせた商品や、それぞれの国の消費者に合う商品を開発することが大切です。

先ほど「不易流行」という言葉をお伝えしましたが、やはり日本酒として変えてはいけないところを守ることは絶対に大切ですが、それぞれの市場に合った商品を開発することもマーケティングとして欠かせません。

ウイスキーやワイン、ジン、ウォッカなどは世界共通のものですが、「日本酒」はまだ世界の共通言語とは言えない状況です。ですので、もっとマーケティング面で地道な努力を重ねながら、日本のお酒がどんなに面白いのかを工夫して紹介していきたいです。

編集後記


海外展開を見据えつつも、今後は日本の若い人へ、よりお酒の面白さを伝えていきたいと話す小西社長。伝統を守りつつも、新しいものを取り入れる「不易流行」をモットーに、小西酒造株式会社が日本酒を貴重な日本文化として国内、そして世界へ広めていくことに期待したい。

小西新右衛門(こにし・しんうえもん)/1952年生まれ兵庫県出身。1975年甲南大学卒業後、小西酒造株式会社に入社。2年間のイギリス留学を経て、1991年代表取締役社長就任。伊丹商工会議所会頭、日本酒造組合中央会 副会長。2015年藍綬褒章受賞。1999年、日本人で初めて「ベルギービールの騎士」に任命されるなど、クラフトビール業界への進出にも意欲的に活動。2021年日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会会長就任など、日本酒の歴史文化保存に務める。2022年旭日小綬章受賞。