※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

少子高齢化により日本市場の縮小、ショッピングセンターやネット通販の台頭等により小売・流通業界は大きく変貌している。そんな中、主たる得意先である百貨店に加えEC販売や新たな販路拡大に力を入れているのが、創業127年を数える老舗傘メーカーのオーロラ株式会社だ。

同社は傘を中心に商品を展開しており、ストールやマフラー、帽子などの服飾雑貨を販売している。

時流にあった商品を開発し、販路拡大を進めている若林社長の思いについて聞いた。

オーロラ株式会社の歴史と特徴について

ーー貴社のこれまでの経緯についてお教えいただけますでしょうか。

若林康雄:
私の4代前にあたる創業者が明治29年(1896年)に洋傘の卸売業を始めたのが、現オーロラ株式会社の起源です。
江戸の末期皇女和宮内親王が降嫁される折、同行して江戸に出て明治になってから洋傘と和装のショールの製造・販売を始めたと聞いています。

ーー貴社で製造されている傘の特徴についてお教えいただけますか。

若林康雄:
弊社では基本的に傘の生地を頂点の部分から下の方に向かって縫っていく、いわゆる“関東縫い”をしているのが特徴です。

上から生地を縫って行くことで、傘をさしたときに頂点の部分がきれいになり、実用的にも雨の水滴が残りにくくなり防水性が高まるこの手法で作っています。

しかし、二枚の生地の合せが少しでもズレたり、運針に片寄りがあったりするとボーダーの部分がずれて、しかもごまかしが利かないため、熟練の技術が必要です。
生産性でいえば先に下部から縫った方が簡単ですが、弊社は今述べたメリットを追求し敢えて関東縫いでひとつひとつ丁寧に製造しています。

ーー貴社では傘のほかにもショールや帽子などの販売もされていますが、洋装を取り扱うようになった背景について教えていただけますか。

若林康雄:
創業者の出身である京都は当時刺繍の産地でもあり、刺繍は夏の日傘に用いられると同時にショールでも用いられており、戦後洋装化の流れの中で、スカーフの取り扱いを始め、1994年には帽子の取り扱いも開始しました。

現在ではこうした傘以外の服飾雑貨も売り上げの柱になっています。
弊社では長年カシミヤなどの天然繊維を使った製品を取り扱っており、商品別にサプライチェーンの最適化に努め、百貨店を中心にクオリティの高い製品をお客様に提供し続けています。

ーー1953年には東レ株式会社さんと提携し、ナイロン洋傘の販売を開始されていますね。

若林康雄:
ナイロンの製造を始めた東洋レーヨン(現・東レ株式会社)さんが、ナイロンを用いた製品を拡大されるに当たって当社は国産初のナイロン洋傘の製造で協力する事になりました。

今では“ナイロンの傘”というと安物のイメージがありますが、当時は物性的にも耐候性にも優れた先端の素材だったのです。

それまで傘に用いられていた綿とか絹の天然繊維と異なり、ナイロンで織った織物には防水性を高める加工が必須でした。又ナイロン糸は織る工程で静電気が発生し易く織りキズが頻繁に発生し苦労したと聞いています。

この様に新しい素材を用いた商品をいち早く取り入れ、実用化に至りました。

コロナ禍の外出規制と消費者の志向の変化

ーー貴社ではさまざまな製品を取り扱っておられますが、どの商品が最も購入されているのでしょうか。

若林康雄:
当社の売上の約50%は傘で、最近では特に日傘の需要が伸びています。

日傘は、1980年代頃まで“年配の女性が使うもの”というイメージがあり毎年20%ほどずつ売上が減少していましたが90年代後半頃になると今度は美白ブームが始まり、日傘が再注目されるようになりました。
しかし、ここ数年、新型コロナウイルスの蔓延により外出する機会が減ったことで、日傘以外にも雨傘や帽子の売上が激減し、非常に苦しい思いをしました。

ーー貴社の今後の戦略として新規取引先の開拓を挙げられていましたが、くわしく教えていただけますか。

若林康雄:
これまで弊社の主な取引先は全国にある百貨店でしたが、消費者の購買行動の変化もあり、残念ながら百貨店業界全体の中での服飾雑貨の売上高は年々減少しています。

百貨店はその地域の一等地に店舗を構えていることが多く、そのお店の立地を最大限生かす為の努力をされているのですが、他面その影響もあって弊社の売り場スペースが狭くなったり、グランドフロアから他のフロアに移ったりということも起きています。

そこで弊社では独自でお店を出店したり、商品を直接お客様にご購入いただけるようECサイトを活用したインターネット販売に力を入れたりして、販路の拡大に取り組んでいます。

2023年6月10日、当社初のコンセプトストア「オーロラ」を東京都渋谷区の東急プラザ表参道原宿4階にオープンしました。

これまでの百貨店を軸にした卸売事業に加えて直接消費者にアプローチし新規顧客の獲得を目指しています。

夏には世界最大級のメタバースイベント「バーチャルマーケット2023 Summer」にも出店し、ECにひもづけたVR(仮想現実)コンテンツを打ち出し、自社オンラインストア・原宿コンセプトストア・メタバースのオムニチャネル化を推進しています。
また2023年12月2日〜17日に開催した「バーチャルマーケット2023 Winter」にも参加しました。

コンセプトストアは“体感”“体験”の機会を提供する店舗で、公式オンラインストアへ誘客するためのショールーミングストアです。

店内ではオンラインストアで展開する「デジタルオーダーシステム」の紹介や大型のガーメントプリンターや刺繍機も設置し、商品のカスタマイズサービスも提供中です。
Z世代や外国人客といった新規顧客の開拓を進めています。

これまでは新しい企画商品を開発することに意識が向いていましたが、現在はより消費者、購買者視点に立って販売の為に必要な売り方、お店の運営にも注力していきます。

現代では小売のチャネルが多様化していますので、BtoCを含めさまざまな販売チャネルを確保したいですね。

ーー海外へ販路を拡大される予定はあるのでしょうか。

若林康雄:
ヨーロッパやアメリカへも弊社の傘を販売していきたいと考えています。

これまでにも海外で自社商品の販売経験はあって、以前パリで開催されたプルミエールクラスというアクセサリーやファッション小物の国際展示会に出店したことがあります。

この展示会をきっかけに、パリの百貨店で行われたジャポンフェスティバルにも採用して頂き、日本の商材を展示していたスペースで弊社の傘も販売していただきました。

最近ではこうした活動がコロナ禍でできていなかったので、再開して少しでも海外との接点を広げていきたいと考えています。

ーー実店舗の出店についてはいかがでしょうか。

若林康雄:
これまで私たちは弊社の知名度はあまり高くないのではと思い込んでいたのですが、お客様のなかにはオーロラの名前を知っていて、弊社のブランドを選んで購入してくださる方もいらっしゃいます。

これは大変うれしいことで、ようやく弊社が提供している商品の品質や機能性の高さが認められ、消費者の方に認知されはじめているのだと実感しています。

この認知度の高まりを生かし、近い将来自社ブランドの商品を販売する店舗などを立ち上げたいと考えています。

若林社長が求める人物像

ーー若林社長はどのような方に入社してほしいと思われていますか。

若林康雄:
世の中では日々さまざまな課題が生まれ、価値観も多様化しているため、弊社ではこうした多様なものや新しいことに好奇心を持ってチャレンジできる方を求めています。

同時に現役で仕事に携わる私たちも今までの固定観念を捨て、時代に合った商品開発や販路の開拓などを行う為にも日々成長して行く必要があると話しています。
創意工夫できるスキルを重視しています。

固定観念に縛られず、これまで培ったものづくりのノウハウも生かしながら、消費者の視点で新しいアイディアを生み出せる人に私たちの仲間になってほしいです。

編集後記

創業127年の老舗傘メーカーの経営者である若林社長は、売上の大半を占めていた百貨店の売り場スペースが縮小されてきたことに危機感を覚え、新たな販路の開拓を進めているという。商品のクオリティの高さを生かしつつ、EC販売を強化するなど時流の変化に合わせた販売戦略を次々と編み出している。会社の伝統を守りながら、新たな挑戦を続けるオーロラ株式会社に注目していきたい。

若林康雄(わかばやし・やすお)/1957年東京都生まれ。1980年慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、株式会社丸井に入社。1985年若林株式会社(現オーロラ株式会社)に入社し、1987年に副社長、1997年に代表取締役社長に就任。日本洋傘振興協議会の会長、日本アパレル・ファッション産業協会監事、日本メンズファッション協会理事“いい夫の日”を進める会実行委員長、天然繊維循環国際協会副理事長も務めている。