※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

近年、宿泊業界では、公式サイトを経由して予約を受け付けるダイレクトブッキング(直予約)の比率が向上している。

それまでの主流であったオンライン専用旅行会社(OTA:オンライントラベルエージェント)では、手数料の発生や、プロモーションに必要な顧客情報を収集できないことが大きな欠点となっていたためだ。

そんな中、ダイレクトブッキングに特化した宿泊予約エンジン「tripla Book」を提供しているのが、tripla株式会社だ。

多言語対応のチャットボットサービスや、顧客情報管理システムなどを提供し、宿泊業界をITソリューションで支援する、高橋社長の思いを聞いた。

ダイレクトブッキングに特化した宿泊予約サービスを提供

ーーまずは貴社の事業内容についてご説明いただけますか。

高橋和久:
宿泊予約をする際は、OTAや旅行代理店を経由する方法もありますが、弊社は公式サイトから直接予約するダイレクトブッキングに特化したサービスを提供していることが特徴です。

宿泊予約エンジン「tripla Book」では別のページに遷移せず予約できるため、公式サイトからの予約数の増加につながります。また、お客様の質問にAIが自動で回答するチャットボットサービス「tripla Bot」は、英語や中国語、韓国語など多言語にも対応しているのがポイントです。

さらに、tripla Bookとtripla Botを連携させ、顧客情報を一元管理できる「tripla Connect」という顧客管理システム(CRM)も提供しています。一般的なCRMサービスだとどうしても高額になりがちなのですが、宿泊施設に特化したサービスとすることで、月に1万円程度でご利用いただけるのがメリットです。

ーー今後どのようにサービスを展開していきたいとお考えですか。

高橋和久:
私たちは1つの宿泊施設でサービスを多層化し、顧客満足度の向上を目指しています。2023年11月には、Web広告の運用代行サービス「tripla Boost」をスタートしました。広告運用をして集客基盤をつくり、ホテルや旅館のファンを増やすためのお手伝いをしていければと思っています。

ーー競合他社との差別化となるポイントについて教えていただけますか。

高橋和久:
他社ではシステム開発を外注していることが多いのですが、弊社は社内に専任のエンジニアが在籍し、1度に30種類ほどの新機能をリリースすることが可能です。これが大きな差別化ポイントとなっています。

また、他社の場合は機能を追加するごとに料金が加算されますが、弊社は1つのパッケージとして提供しているため、宿泊施設側はコストを大幅に削減できるのもポイントです。

自営業の人が多い環境で育ち、起業するハードルは低かった

ーー幼少期や学生時代のエピソードをお聞かせいただけますか。

高橋和久:
父は祖父の事業を継いでいますし、私はサラリーマンがほぼいない環境で育ちました。そのため私にとってはむしろ起業をする方がハードルが低く、サラリーマンの方が大変だと思っていました。

工場の隣に実家があったため、学校から帰ってくると祖母に教わりながら帳簿をつけたりしていたので、小学生の頃から自然と簿記の勉強ができていましたね。

私が後を継ぐことを望んでいた祖父に工学部に進むように言われ、その通りに進学し、後を継ぐルートを歩んでいました。しかし、卒業する前年に祖父が亡くなり、父からは、無理に後を継がなくてもいいから好きなように生きなさいと言われたため、卒業後は興味のあったMBA留学を選択しました。

ーー複数の企業でキャリアを積んでいらっしゃいますが、キャリアチェンジをしてきた理由は何でしょうか。

高橋和久:
はじめはフィリップモリスジャパン合同会社に入社しました。オーストラリアのメルボルンに転勤になった際に、タバコの広告が全面的に禁止されていて、パッケージもすべて真っ白だったことには驚きましたね。

商品の特性上どうしても制約が多い状況の中でビジネスを展開しなければいけない場面も多く、もう少し自由度の高い商品を扱い、これから伸びそうな業界に転職したいと思い、アマゾンジャパン合同会社に入りました。しかし、組織が急速に成長するにつれ、自分の仕事の範囲が狭まり、多くの業務の中の一部分だけを担当することになってしまいました。

そこで、次のステップに進むべく、元同僚の鳥生(現CTO)が起業したtriplaの前身である株式会社umamiに参加しました。

今後の展望について

ーー今後サービスをどのように拡大していきたいとお考えですか。

高橋和久:
旅行者の方々が適切な値段で、それぞれのご希望に合ったホテルや旅館に泊まり、旅行を楽しんでいただけるようサポートしていきたいと考えています。

また、日本国内の宿泊施設ではおよそ10%のシェアを獲得しているので、さらに拡大しつつ、M&Aも進めながら海外の売上比率の向上にも注力していこうと考えています。

ーー海外進出についてはどのような計画を立てていらっしゃるのですか。

高橋和久:
ホテル業界ではアジアが盛り上がってきているので、アジアの観光地を中心に進出していこうと考えています。具体的に言うとベトナムやタイ、マレーシアなどですかね。

ホテルの予約システムのうちおよそ75%は同じシステムなので、他社と弊社のシステムを統合する作業は比較的簡単にできます。

弊社のシステムを導入すれば、システム管理にかかっていた人件費をカットでき、利益効率を上げられる、というメリットをアピールし、積極的に海外進出を行っていく予定です。

外資系の高級ホテルでは、各国で広くサービスを展開していることがシステムの採用基準になっているので、海外展開を進めて提案の土俵に乗せていきたいですね。

採用方針・読者の方々へのメッセージ

ーー採用に関してはどのようにお考えでしょうか。

高橋和久:
弊社は70%近くが外国籍の方々ですが、台湾の方の比率が高くなっているので、公平性を保つためにインドネシアやベトナム、タイの開発者を増やしていく予定です。

また、弊社ではそれぞれが目的を持って働ける組織をつくることを目標としているため、1つの職務に特化したジョブ型を進めています。

新卒採用の予定は今のところないですが、今後はインターンを積極的に受け入れていきたいですね。

ーーこれから就職活動をする学生の方々にメッセージをお願いします。

高橋和久:
今の学生さんたちは私たちのときと比べると優秀な方が多いと感じています。ただ、効率ばかりを追い求めるのではなく、情熱や興味を持って仕事に打ち込んでくれる人がいいなと思っています。

なぜなら、1ヶ所だけを掘り進めるのではなく、遠回りでもその周りも掘っていくことで核心にたどり着けると思っているからです。

たとえば営業にしても、お客様から求められたことだけに対応するのではなく、その会社の損益決算書や貸借対照表を確認することで、本当の課題が見つかることもあります。そのため、仕事以外のことでも好奇心を持っていろいろなことに取り組んでほしいと思っています。

編集後記

これから成長が見込まれる市場でチャレンジしていきたいと、さまざまな業界を渡り歩いてきた高橋社長。そんなときに元同僚の鳥生氏が始めたインバウンド向けの観光事業に興味を持ち、今に至る。

宿泊業に特化したDX支援を行う数少ない企業として、tripla株式会社は今後も日本や世界の宿泊業界を盛り立てることだろう。

高橋和久(たかはし・かずひさ)/栃木県出身。北海道大学大学院工学研究科(当時)卒業。株式会社TKK入社後、Wake Forest UniversityにてMBAを取得。フィリップモリスジャパン合同会社、A.T.カーニー株式会社にてコンサル業・国内外の営業・マネジメント業務を経験。アマゾンジャパン合同会社のファッション事業部長、日本コカ・コーラ株式会社のEC事業部長を経て、2015年に株式会社umami(現・tripla株式会社)に取締役として入社。2016年に代表取締役CEOに就任。