※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

日本では環境汚染の一因となる廃プラスチックの処理が課題となっている。日本国内で排出される廃プラスチックのうち4分の3は焼却され、リサイクルが進行していない状況だ。

そんな中、廃プラスチックや古紙、古着の回収とリサイクル事業を行っているのが、株式会社山室だ。

同社は1913年(大正2年)に古紙問屋として創業した歴史ある企業で、業界のトップとして国と話し合いを重ねながら、環境保護に関する取り組みや改善活動に励んできた。

祖父から経営の手綱を引き継ぎ、次々と改革を進めている畑純一氏の思いを聞いた。

幼少期から思いは変わらず、家業を継ぐことだけを意識

ーーおじいさまから会社を引き継がれたそうですが、早いうちから自分の跡を継いでほしいと言われていたのですか。

畑純一:
小学生の頃から跡を継いでもらいたいと言われていましたね。

祖父は全国製紙原料商工組合連合会(全原連)の会長を務め、さまざまな賞を受賞しました。そんな祖父からは「自社だけが儲けることや賞をもらうためでなく、業界のために貢献し、その実績を評価される人間になりなさい」と言われてきました。

ーーその後の進路についても家業を継ぐことを前提に決められたのでしょうか。

畑純一:
そうですね。家業を継ぐために製品全般の勉強をしておき、人脈を作るために当時弊社の一番の取引先だった本州製紙(現:王子マテリア株式会社)に就職しました。

しかし入社2年後、突然本州製紙と王子製紙の合併が決まり、これを一応の区切りとして退職し祖父が経営していた会社に入ることに決めました。

会社を立て直すため孤軍奮闘した日々

ーー家業に入られてギャップは感じましたか。

畑純一:
実際に入社してみると、5時まで仕事をしたら毎晩取引先と麻雀やお酒を飲みに行くという業界で、このままでいいのかなと心配になりましたね。そこで決算書を確認してみると、やはり経営状態は悲惨なものでした。

こうした状況を刷新するため、入社2年目の頃に役員として経営に携わりたいと会長に伝えました。しかし、勤務年数の長い社員たちを差し置いてお前を任命することはできないと却下されてしまったのです。それでもいずれ自分が社長になって、この先も会社を存続させたいという熱意が消えることはありませんでした。

ーーそこからどのように経営を立て直したのでしょうか。

畑純一:
役員になれないならば今は準備する期間ととらえ、とにかく勉強しましたね。

そこで古紙以外の廃棄物のリサイクルにも着手しようと思いつき、行政の認可を取得するため廃棄物処理法について学び、申請手続きを進めていきました。

こうして10年かけて業界で初めて一般廃棄物処理施設設置許可や、一般廃棄物処理業の許可をほぼ全店で取得したのです。

経営者として進めてきた改革・今後の取り組み

ーー経営者になられてからはどのような改革をされてきたのでしょうか。

畑純一:
前社長が高齢になり社長を引き継いだわけですが、ようやく自分で舵を切れるようになったので、これまで経営を立て直すために準備してきたことにひとつずつ着手していきました。まずは利益率を確保しようと思い、廃プラスチックや古着のリサイクル事業を開始しました。

廃棄されたプラスチック製品を中国に輸出し、古着は国内の工場でリサイクルを行うようになった結果、自己資本比率は80%にまで上がりました。

ーー今後はどのような事業に取り組まれる予定なのでしょうか。

畑純一:
今は歯ブラシやボールペンなど、プラスチック製品のリサイクル事業に取り組んでいます。プラスチック製品にはリチウムイオン電池を内蔵しているものもあり、分別されずにそのまま捨てられてしまうと、処理中に発火する恐れがあるのです。

そこで弊社では、リチウムイオン電池を取り除く機械の導入を決めました。これはマグネットプーリーという非常に強力な磁石でリチウムイオン電池を取り除くものです。

新しい設備の導入費用などでおよそ3億円かかりましたが、この新事業が軌道に乗ればさらに業績が上向くと期待しています。新しい設備が2024年2月に完成予定で、すでに墨田区と交渉して4月からは200t/月の廃プラスチックを引き受けることが決まっています。

150年続いた企業を今後200年、300年と続けていくためには、失敗を恐れず新しいことをやり続けるしかないと思っています。また、新事業をはじめるにあたって知識をインプットするため、勉強に多くの時間を割きました。

まだ誰もやっていない新しい取り組みなので成功するかどうかは未知数ですが、失敗がなければ成功もないと思っています。

山室が求める人物像

ーー貴社ではどのような人材を求めていますか。

畑純一:
リサイクル業の仕事は廃棄物を取り扱うので臭いもしますし、いわゆる3Kと言われる仕事です。それでも環境保護の一助となる仕事に誇りを持ち、リサイクルに関わる仕事がしたいという人を求めています。

また、建材の原料や家畜の肥料にリサイクルするなど新しいSDGsの取り組みとなるリサイクル事業を、自由な発想で廃棄物の新たな活用方法を生み出してくれる方が来てくれるといいですね。

弊社は100年以上の歴史があるので、体質の古い企業だと思われるかもしれませんが、積極的に社員の意見を聞き入れますし、どんどんチャレンジしてほしいと思っています。

一方で、コツコツとルーティンワークをするのが得意な人も大歓迎です。人の欠点をつつくのではなく、それぞれの良さを評価するようにしています。そのためルーティンワークをしてきっちり定時で帰りたいという男性も歓迎しますし、同じような働き方をしたい女性にもぜひ一緒に働いてほしいと思っています。

編集後記

小さい頃から自宅に隣接する工場で遊び、家業を継ぐことだけを考えてきたと話す畑社長。入社してからは会社の立て直しを図るため、さまざま改革を進めてきたという。リサイクル事業を通し循環型社会の実現を目指す山室は、環境対策が急務となっている世の中で大きな役割を果たすことだろう。

畑純一(はた・じゅんいち)/1972年生まれ東京都出身。1994年玉川大学卒業後、本州製紙株式会社(現:王子マテリア株式会社)に入社し、2年間の修業期間を経て山室に入社。2007年に取締役、2010年に常務取締役、2012年に専務取締役、2014年に代表取締役社長に就任。