「安心をもっとカジュアルに」をコンセプトに、ホームセキュリティとスマートシティ事業を展開する株式会社Secual。2023年12月には東京都が支援するスタートアップ企業に選ばれ、Well-beingな社会を実現する街の環境づくりにも取り組んでいる。

代表取締役CEOの菊池正和氏は、大手通信キャリアで携帯電話の普及と発展に取り組んだ経歴を持つ。菊池氏が株式会社SecualのCEOに至った経緯や事業の強み、事業展開の苦労、そして今後のビジョンや戦略などについてうかがった。

通信キャリアの商品企画担当からIoTセキュリティ事業の社長になるまで

ーーどのような幼少期や学生時代をお過ごしになったのでしょうか。

菊池正和:
私は埼玉県出身で、小中高は千葉県で育ちました。父親が電力会社に勤めており、子どもの頃から父親の仕事を見て育ったため、大学は自然と電気工学科に進みました。

大学当時はポケベルが全盛期で、PHSが普及し始めたのも大学3、4年の時期でした。さらにWindows95から98に切り替わるタイミングで、携帯電話(今でいうガラケー)とインターネットの進化を目の当たりにし、「これからは通信だ」と感じて当時の第二電電株式会社(現KDDI株式会社)に入社しました。

KDDIでは通信の仕組みを解析したり検証したりする技術の部門で育ちました。当時の携帯電話の機能は電話とショートメッセージのみでした。そこからインターネット、Eメール、ゲーム、音楽を実装するなどして、ガラケーからスマホに切り替わるまでの商品企画や商品戦略に携わりました。

ーー独立・起業されたきっかけを教えてください。

菊池正和:
スマートフォンの登場により、通信キャリア主導で携帯電話を企画・開発する時代から、上位サービスで勝負する時代になり、モノ作りへのこだわりを持っていた私は、次のステップを考え始めました。

また、当時はシリコンバレーに出張する機会が多くあり、やりたいことがあれば起業することが当たり前の文化に触れていたことも起業のきっかけの1つです。

2013年頃から「IoT」が登場し、通信キャリアとしてIoTを活用したコンシューマ向けのビジネスを模索しましたが、通信キャリアの販路でIoTのような説明商材を取り扱うことの難しさと、携帯電話ショップの繁忙さを考えると難易度が高いと考えました。

そのようなタイミングも重なり、独立を決め、Secualに参加する以前の2015年に、株式会社 VLOG(株式会社sMedioに事業譲渡)を起業し、スマートカメラを中心としたセキュリティサービスの開発・販売を手掛けました。

ーーSecualの社長になるまでの経緯を教えてください。

菊池正和:
当時、IoTスタートアップが複数立ち上がった時期でしたが、数あるスタートアップも将来的には淘汰されるだろうと予測し、「早めに対策を立てる必要がある」と考えていた中、知人の紹介でSecual創業者の青柳和洋(現非常勤取締役)と出会ったのです。

Secualの事業を面白いと感じ、青柳と話をするうちに「お互いの強みと弱みを補完し合える関係性だ」と思い、意気投合しました。そこで、当時出資してくれていた株式会社sMedioにVLOGを売却し、2016 年にSecualに副社長として参画しました。

同社は、もともと青柳が代表を務めていたコンサル企業が新規事業として立ち上げた会社です。代表を兼務していた青柳とは、Secualが一定の資金調達を行ったタイミングで代表を引き継ぐプランを立て、2018年6月にSecualの代表取締役に就任しました。

BtoBtoCのビジネスモデルにシフトして販路を拡大

ーー貴社の事業の強みを教えてください。

菊池正和:
1つはセンサーを使ったホームセキュリティのサービスです。国内における防犯やホームセキュリティ市場は、大手の警備企業によって既につくられています。

その点ではIoT事業よりも理解はされやすかったのですが、市場を分析すると、大手のサービスもあまり普及していないことがわかりました。総務省によると日本の世帯数の総計は約6000万世帯ですが、ホームセキュリティ加入者は、大手2社をあわせても280万世帯程度。しかも大手のサービスは富裕層を対象とするものが多く、料金設定も高めです。

Secualの製品の特徴は、スマホ1つで容易に設置でき、価格も月1000円程度ですぐに導入が可能です。この特徴を活かして、一般世帯に裾野を広げることを目指しています。

2つ目はスマートシティ事業です。「家1軒も束ねたら街になる」ということで、タウンセキュリティと表現して街全体で安心や安全を担保するソリューションを提供しています。具体的な商材は「Secual スマートポール」という防犯・防災・見守り機能を搭載した次世代の街路灯です。

さらに、アプリでまちのサービスを使いこなす新しいスマートライフの提供と、タウンマネジメント/エリアマネジメントする管理会社の業務負荷の軽減を同時に実現する統合サービス「NiSUMU(ニスム)」を提供しています。

ーー事業展開にあたり苦労したことは何でしょうか?

菊池正和:
海外ではホームセキュリティ製品の普及率は30〜40%と言われています。とくにアメリカは銃社会、かつDIYの文化です。自分たちで防犯や防災を行い、安全機能を保持する意識があります。

一方、日本ではいまだに鍵を閉めずに出かけるような地域もあるなど、日頃から防犯を意識することは多くなく、簡単とはいえ自分で機器を購入して設置、設定を行う手間が発生することを嫌う傾向があります。

そのため、新築のタイミングで導入いただくことでその課題をクリアすることを考え、ハウスメーカーや賃貸管理会社などをメインのお客様として、BtoCからBtoBtoC(企業間取引の先に消費者をつなぐ)へビジネスモデルをシフトしました。

お客様にとっても新しい取り組みですので時間はかかりますが、製品の特徴や安全性を丁寧に説明して、理解を得ながら推進しています。

また、スマートポールを導入いただく再開発事業やまちづくり事業は足の長い案件です。優先交渉権を得た企業が実際に開発を完了するまでに、3〜5年ほどかかります。しかし、導入いただくには事業の骨格を固める段階から提案活動が必要ですので、その間の短期的な収益の確保と将来に向けた種まきの両立が今後の課題と考えています。

積み上げてきた運用実績を武器に、増加するニーズを取り込む

ーー今後のビジョンについて教えてください。

菊池正和:
セキュリティが当たり前に導入されている社会の実現です。マズローの欲求階層論のように人間の欲求には段階があります。

その中でも土台となる安心や安全の欲求をSecualが支えて、社会で暮らす人たちには自分らしい最適な暮らしを実現してほしいと思っています。

そのために面倒臭いことはSecualに任せていただき、いつか「Secualに入っていてよかった」と思っていただける存在になることを目指しています。

もう1つはまちづくりです。現在、デジタル田園都市国家構想など国がスマートシティの環境作りを後押ししていることもあり、各自治体でもスマートシティへの取り組みが加速しており、弊社への問い合わせも増えています。ここ数年でスマートポール提供企業として弊社の認知度も上がってきました。

自治体案件は何より実績が重要視されますので、デベロッパーのスマートタウン開発で数年かけて戦略的に運用実績を積み上げてきました。弊社は、これまで100本以上のSecual Smart Poleを導入し、3年以上の運用実績があります。

その結果、商業施設に初めて導入された「LIVING TOWNみなとみらい」(2023年9月)や、東京都初のPark-PFI事業である都立明治公園の再開発事業への導入(2024年1月)など、採用の幅が広がってきています。

また、2023年12月には、東京都の次世代通信技術を活用したスマートシティ環境作りを推進する「Next 5G Booster Project」にも採択いただくなど、次世代に向けた取り組みも進んでおり、この2、3年でスマートポール市場は大きな変化を遂げると考えています。

Well-beingにもつながる製品としてアピールし、市場をけん引していきたいと思います。

編集後記

モットーは「スピード感が命」と語る菊池社長。意思決定は即断即決を心がけている。一方、自治体案件に入り込むために、着実に運用実績を積み上げる中長期的な思考を併せ持つ。

Well-beingな社会の実現のためにも、Secualが果たす社会的意義は大きい。日本の自治体や海外を含めた都市で、Secualの製品が広く普及することを期待したい。

菊池正和(きくち・まさかず)/1976年生まれ、千葉県出身、芝浦工業大学工学部卒業。1998年第二電電株式会社(現KDDI株式会社)に入社後、音楽配信サービス「LISMO」開発リーダーやコンシューマ向け商品企画、商品戦略マネージャーを経て、2015年株式会社VLOGを設立。その後、知人を介して株式会社Secualの創業者と出会い意気投合。2016年副社長として参画し、事業拡大に向けての新体制をとるべく2018年代表取締役CEOに就任。