※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

茶道体験や音楽鑑賞など「体験型」の旅行プランを提供し、日本の文化を国内外に伝えている株式会社三洋航空サービス。同社は、コロナ禍で旅行業界が縮小する中、それをチャンスと捉え、5都道府県17店まで店舗網を拡大させた。兵庫県内では業界トップクラスのネットワークを誇り、老舗料亭での和食マナー講座や抹茶体験など「和の教室プラン」が好評だ。これからの日本は少子高齢化に伴う人口減少の影響で国内市場はシュリンクしていくため、旅行業界にとってインバウンドは「外貨を稼ぐブルーオーシャン」と考える、代表取締役社長の中塚裕博氏に話を聞いた。

旅行好きが高じて選んだ第2のキャリア

ーー起業した経緯をお聞かせいただけますでしょうか。

中塚裕博:
大学卒業後、尼崎信用金庫に入社しました。そこで9年間働いた後、当時の同僚2人とともに弊社を立ち上げました。実はもともと旅行が好きで、大学生のころには添乗員のアルバイトをしていたこともあり、もっと多くの人にその楽しさを届けたいという想いから起業に至りました。

創業後は、長らく兵庫県を中心に店舗を展開していましたが、2021年に神奈川や奈良、和歌山にも店舗をオープンし、現在は5都道府県で17店舗を展開しています。

ーー2021年はコロナ禍でしたが、その時期にあえてオープンされたのはなぜですか?

中塚裕博:
コロナ禍で旅行業界は大きなダメージを受けましたが、弊社はそれをチャンスと捉えました。もちろん弊社もコロナの影響を大きく受けました。しかし、大手旅行会社が店舗を閉める際に「引き継いでほしい」と相談を受けたこともあり、出店を決めました。全国旅行支援などの施策もあったため、厳しい状況ではありましたが、将来を見据えた判断へとつながりました。

国内外の人々に向けて日本の伝統文化を発信したい

ーー貴社の特徴を教えてください。

中塚裕博:
兵庫県内において、トップクラスのネットワークを誇っています。加えて、日本旅行や近畿日本ツーリスト、JTBなど、大手旅行会社からプランを仕入れているほか、自社の企画したプランを用意していることも特徴と言えるでしょう。特に、老舗料亭での舞妓さんとのお座敷体験や茶道体験、音楽鑑賞など「体験型」の企画を盛り込んだオリジナルツアーは多くのお客様にご好評いただいております。

ーー観光業のこれからについて思うことはありますか?

中塚裕博:
観光は「外貨を稼ぐ」という意味で、非常に重要な業種だと考えています。インバウンドが増えている日本において、観光業は「外貨を稼ぐブルーオーシャン」と言えるでしょう。成果を出すことができれば、今後も継続的に伸びていくと思っています。また、海外からの観光客のみならず日本の方々にも「日本の文化を知ってほしい」という思いがあります。さまざまな体験型ツアーを通して、日本の良さをもっと伝えていきたいと思っています。

ーー今後、注力したいプランを教えてください。

中塚裕博:
今後、弊社は自社プランに注力していく方針です。新しいプランが新規顧客獲得の機会となり、ひいては別のサービスの利用につながると考えています。たとえば、弊社の営業が企画した自社プランに「スケッチが好きな人向けツアー」があります。このツアーの参加者は全員スケッチの道具を持参して、国内海外を問わず、旅先でスケッチをするのです。同じ趣味を持つ人同士で旅行する、非常に楽しい企画になっています。

また、「6名からの貸切バスツアー」も好評をいただいており、弊社ならではの小回りのきく営業力を活かして、ニッチな層に積極的に働きかけていきたいと思います。

また、2025年4月に神戸空港が国際化されたことから、将来的にインバウンドの需要が高まり、ますます多くの外国人が日本を訪れることが予想されています。このような需要の増加を見越して、これからは、海外から日本に到着した人が、野球のナイター観戦など、夜を楽しく過ごせるナイトツアーを提供する予定です。英語や中国語が話せるコンシェルジュが案内して、日帰りで神戸・大阪・京都など旅行を楽しんでいただきたいと考えています。

店舗ならではの安心感を高め、顧客のニーズに応えていく

ーー社員教育の取り組みについてはいかがでしょうか。

中塚裕博:
「社員の質は会社の質」と考え、月に1回の頻度で社内テストを実施しています。たとえば今月は北陸、来月はニューヨークなど、範囲を決めてパンフレットを読み込んでもらい、1時間のテストを受けてもらいます。決して難しいテストではありませんが、80点未満の場合は追試があり、もう一度しっかり学んだ後に同じ問題で90点以上を目指してもらいます。

これは弊社ならではの取り組みであり、このテストを実施しているおかげで、どの店舗どのスタッフでも同じレベルの応対が実現できていると考えています。

ーー今後、どのような展開を予定していますか?

中塚裕博:
現在はインターネットで旅行を予約するのが主流になりましたが、店舗がなくなると困るというお客様もまだまだいらっしゃいます。特に団体旅行においては、インターネットを通じてお客様自身で手配するよりも、旅行会社の担当者に依頼する方が安心だという声は多く聞かれます。また、クルーズ旅行においても、クルーズならではの疑問なども多く、こちらもやはり店舗でのご相談を必要とされる方は多くいらっしゃいます。

そうした需要に対応していくため、専門知識を持ってコンサルティングができる社員を育て、face to faceの旅行会社になっていきたいと考えています。

編集後記

中塚社長のコロナ禍における経営判断力に感銘を受けた。業界全体が縮小する中で店舗拡大に踏み切るには、相当の覚悟と先見性が必要だ。体験型プランの企画や社員教育の徹底など、人と文化をつなぐ取り組みの数々に、「日本文化を伝えたい」という社長の熱意と、旅行業の新たな可能性が見えた気がする。

中塚裕博/大学卒業後、尼崎信用金庫に入庫し、9年間勤務。1988年、株式会社三洋航空サービスを設立し、代表取締役社長へ就任。